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暗闇の中で。(5)

腰に回されている手の支えがゆるんだのを感じた。

やっと解放されるのか、


「イッ・・・・」


いったん腰から離れた手は、自分の背中の肉を掴み、思いっきりつねってくる。


「イッ、痛っ。」


痛みで背筋がすっと伸び、身体が後ろにそる。

離れたいが、女性のもう片方の手が自分を離してくれない。

全身を覆っていた光の粒がすぐに自分の背中に移動する。


「痛い。痛い。マジで痛い。」


悲鳴に近い叫び。


「痛いでしょぉ?

 でも、水の精霊のおかげで傷にもならないし、

 痛みもかなり緩和されてるから。死なないから安心してねぇ」


女性は顔を上げて、自分の顔を見つめて、ほほえむ。


「痛いです。本当に痛いです。安心とかそういうレベルじゃないの。もの凄く痛いから、言うこと聞くからやめてください。」


「大丈夫よぉ。我慢してぇ」


女性の顔をみると、ものすごい真剣表情だ。


「いや、本当に痛い。本当に痛いからやめて。」


両手で女性を引き離そうとするがびくともしない。


「ぬぉぉぉぉぉぉっ」


叫び声をあげ、気合い全開、全身の力を入れて女性を引き離そうとする。

しかし、びくともしない。

どんな馬鹿力だよ。

女性ってこんなに力持ちなの?

それともこういう姿勢って、抱きつく側が絶対的に有利なの?



「いぃぃぃぃだぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃ」

「だずげてぇぇぇぇぇ」


暗闇の中、自分の声が響き渡る。


「後少しだから、もう少し我慢してぇ」


「もう十分我慢した。もう無理。もう限界。お願いします。やめてください。」


女性の肩をたたいて、必死に女性にアピール。


「もう少しだからぁ」


ーーつねられている箇所から、何かが身体の中に入り混むような感覚。

入り混んだ何かは全身に広がっていく。


「はい。終了。」


女性から解放され、ひざまづく。

つねられた場所はまだ少し痛いが、不思議な事にすぐに痛みが引く。


「ちょっと、今の何?何か身体の中に入れた?」


つねられた事より、身体の中に入った何かがものすごく気になった。


「身体の中に何かを入れた訳じゃないわぁ。

 君の身体、血管を強化魔法で強化したのよぉ。

 だから、全身に伝わるのをそう感じただけかしらぁ。」


「はぁ?訳わかんないだけど」


「さっき、病気を治すって約束したでしょ?」


「はぁ?いや、約束はしたけど」


「あなたは出血したら、血が止まらないんでょぉ。

 だから、出血しないように血管を強化してあげたよぉ。

 これであなたはナイフで刺されても血管に傷はつかないから出血する事はないわぁ。

 

 血管だけを強化するって結構難しいのよぉ。

 血管を全て把握するには、どうしても血管に触れる必要があったのぉ。

 ものすっごく痛いって事を先に説明していたら、

 君は素直にやらせてくれたぁ?」


・・・先に説明されていたら・・・


「私の身体が光っているのは、光の精霊の光よぉ

 私は光の精霊の力を使って、ずっと君の血管を開いていたのぉ」


少し頭の中で考える。

もしかして・・・その為に、


「もちろん、その為にずっと抱きついてたのよぉ

 君の病気を治すには、これが1番早かったのよぉ」


なんだか、ものすごく騙された気分だ。


「これでもう私は契約を守ったわよぉ。

 今度は君が契約を守る番だからねぇ」


なにか、言い返してやろうと頭の中で考える。


「そんな事考えても無駄よぉ。

 とにかく、これで君はもう病気で悩む事はなくなるわぁ。

 ただし、血管を強化しただけで、身体全体を強化した訳じゃない。

 車にひかれたり、高いところから落ちたりしたら、

 君は普通の人と同じように死ぬからねぇ。

 出血はしないけど、脳みそバーンって感じでぇ」


ーーくやしい。もの凄く騙された気分だ。さっきの涙はいったいなんだったんだ。


「わかったよ。約束は守る。異世界で本の翻訳でもなんでもしてやるよ」


覚悟を決め、女性の前に座り込む。

女性を見上げてにらんだ。


「君、一応私は感謝してほしいんだけどぉ」


「そっちも本の翻訳する相手を探していたんだろ。」


「それじゃぁ

 私たちの世界に行く前にいろいろ説明しないとねぇ」


女性は目の前でたったままで笑みを浮かべる。

女性を立たせたままで、自分だけ座っているのもなんだか居心地が悪い。


「ああ、もう座って話そうぜ」


女性に座れと手振りをする。

女性はその手振りを見ると、笑みをこぼす。


・・・


・・・あれ?


・・・どうしてそうなるの?


・・・ちょっと待てぇー


女性は、自分の手振りを見て何を勘違いしたのか、

いったん反転して自分に背を向け、膝の上に腰を下ろした。

女性は自分の右手をとると、両手で右手をぐっと捕まれた。

女性の顔はまったく見えない。

見えるのは女性の後頭部だ。


女性への耐性は一切持っていない自分には、

さっきまでの抱きつかれた状態同様に、

この体勢は厳しい。


水の精霊の光の粒があっというまに心臓周辺に集まる。

これがまた、恥ずかしくて鼓動が早くなる。


「あのぉ、こういうのって普通は向かい合って話をしませんかね?」


自分の頭の中にある2人で会話する場面といえば、

診察室で病院の先生と話をする診察中の場面だ。

今のこれは、それとはまったく違う。

これ例えるなら・・・


「カップルみたいでいいでしょぉ。」


心を読まれた。勘違いしてる訳じゃないよ。

絶対に勘違いはしてないよ。

ただ、この体勢って・・・


「もしかしてぇ

 君はこの体勢もはじめてなのかなぁ?


 はずかしがらなくてもいいわよぉ。

 私と君はそういう関係にはならないわぁ。

 君は私の物なんだからぁ」


女性の顔は見えないが、絶対に笑ってる。

もう確実にこの状況を楽しんでるだろう。


「さっきも言ってたけど、君の物ってどういう事なの?」


「言葉通りよぉ。君は私の物ぉ」


ちゃんとした答えが返ってこない。

この質問はあきらめるべきか。


「君の質問にはちゃんと答えてあげるけどぉ、先に私から1つだけ言っておくねぇ」


「言いたいことがあるなら、先に言ってくれ」


「とても重要な事だから2回言うねぇ。

 私たちの世界では、名前は絶対に教えちゃダメ。

 いぃい?

 私たちの世界では、名前は絶対に教えちゃダメ。」


マジ?本当に2回言った。


「名前を言っちゃダメって事は

 今、俺が名前を聞いてもやっぱり教えてくれない訳?」


「ええ。私も君に名前を教える事はできないわぁ」


「でも、なんで名前を教えちゃいけないの?」


「名前は契約をする時に利用する物なのよぉ。

 だから、役職やあだ名で呼び合うようにしてるのぉ」


「なら、俺は君の事をなんて呼べばいいんだよ?」


「そうねぇ。私はいろいろな呼び方で呼ばれてるからなぁ。

 私の世界では『賢者』って呼ばれてる存在の1人。

 ただ、この世界では昔から『魔女』って呼ばれてるしぃ。

 他の世界では『変人』って呼ばれてるわぁ」


『賢者』『魔女』『変人』・・・どれも似ているようで異なるイメージ。


「できれば、君には賢者様って呼ばれたいかなぁ」


「この世界の人からは昔から魔女なんでしょ?」


握られている右手の手の平をつねられる。

痛いっ。

青い光の粒がすぐに移動するのがわかる。


「悪魔...」


女性の後頭部があごを襲う。

鈍い音が響く。

右手に集まっていた青い光の粒はすぐさま顎に移動する。


「あんな連中と一緒にしないでくれる」


女性の光がどんどん強くなっていく。

女性の体温が熱い。


「すまん。本当にすまん。

 この世界には精霊とか、悪魔とか本当にいないからさ。

 冗談で言っただけだって」


悪魔にそんなに怒るなんて。

悪魔なんて漫画やゲームの中にしか存在していない。

いや、本当は存在しているのか?

だからこんなに怒った?

魔法だって今まで空想の物だと、思っていたけど本当は存在した。

なら悪魔も存在を否定はできない。


もう冗談でも言うのはやめよう。かなり、危険だ。


「次はないからねぇ。

 私から見ると、精霊からも悪魔からも見放されてるこの世界が変なのよぉ。

 

 精霊たちもほとんどいないから、精霊の加護を受けてる人間もほどんどいないしぃ。

 悪魔たちもこの世界の生物を魅力を感じてないみたいで、完全に放置しちゃってるもんねぇ」


女性の光が少しずつ弱まっていくのを見て、ほっとする。

結構ひどい事を言われているはずなのだが、自分には精霊も悪魔も見た事もなければ実際にいるのかどうかもわからないので、この女性が話している事は正しいのだろう。


女性の顔を見ようと、ちょっと顔を前に出す。

しかし、そうすると、女性の身体も前に出てしまって、

顔が見えない。

女性は「クスっ」と笑う。


「君はこういうの、慣れてないもんねぇ


 もうそろそろいいかなぁ」


女性は自分が顔を見えるように振り返り、笑みを浮かべる。


「魔力供給完了ぉ」


「えっ」


「君は魔力って物をもってないみたいだから、私の魔力を君の身体に送ってたんだよぉ」


「はぁ?」


「魔力がなかったら、魔法ってすぐ効果なくなっちゃうからねぇ」


「もしかして、その為に今座ってたの?」


女性は笑みで答える。

その笑みがあまりにも可愛くて、

思わず硬直してしまう。


『魔女』って呼ばれる理由はなんとなくわかる気がした。


女性は立ち上がり、大きく深呼吸をする。

久しぶりに解放された身体。

普段とちょっと違う、違和感を感じる。


「違うでしょぉ?」


女性はこちらを見て微笑みを浮かべる。


「なんだか、身体が暖かいというか、軽い?」


「私の魔力が身体に入ったからねぇ

 身体が活性化してるんだよぉ」


魔力による、身体の活性化。

いまいち原理がわからない。

でも、身体がポカポカして気持ちよく、

指先までしっかりと神経が通っている感じだ。


「さて、それじゃ。結界をといて、あの洞窟に戻るから立ち上がってぇ」


女性から差し出された手を、右手で掴み、立ち上がる。

女性は笑みを浮かべ、自分の背中に手を回してくる。


ーーまたかよ。


病気が治っているとはいっても、こう何度も抱きつかれると身体に悪いわ!


「元の世界に戻るから、目をつむってくれるかな?

 そうじゃないと、まぶしくて目がつぶれるよぉ」


ーーまぶしくて???


急いで目をつぶる。

一番最初のおでこに感触を感じた時の事を思い出す。

あのまぶしくて真っ白な世界。

あれが、きっと結界を張った時なんだな。


「せ、い、か、い!」


思わずピクっと反応してしまう。

心を読まれている事を忘れた訳じゃないけど、

頭の中で考えていた事に返事をされると、どうしても驚いてしまう。


これも慣れが必要なのかな。


「もういいんだけどぉ。

 まだしばらく抱き合っててもいいよぉ?」


えっ


いつの間にか、女性の背に手を回して女性に抱きついている。

すぐに手を上に上げて万歳のポーズして、後ろに下がろうとする。

だが、すぐに壁に邪魔されて、女性の隙間がほんの少しあいただけ。


「私は、君に抱きつかれるのは嫌じゃないんだけどぉ」


薄暗い暗闇の中、女性の顔がもの凄く近くにあり、自分の顔が熱くなる。

もう少し距離をとりたいけど、すぐ後ろは壁。

お願いだから、もう少し離れてくれ。


「君、本当に女の子に無免疫なんだよねぇ。

 私の心配が1つ増えちゃったよぉ」


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[一言] まぶしきて目がつぶれるよぉ ↓ まぶしくて目がつぶれるよぉ
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