暗闇の中で。(6)
女性が深いため息をついて、一歩後ろに下がる。
女性を包み込んでいた光が一瞬で消え、暗い闇に消えていく
よく見ると、自分を覆っていた光の粒も今はなく、自分の手を視認する事もできない。
「ちょっ、ちょっと待って」
暗い闇に消えた女性を追いかけ、手を伸ばす。
手を前に伸ばし、1歩、2歩と足を進める。
こんな時に携帯があれば・・・
今まで足の裏で感じていた地面の感触がない。
えっ・・・えっ・・・えぇぇぇぇ・・・
足元から強い風が上半身にむかって吹いてくる。
落ちてる。これ落ちてるよなぁ。
真っ暗闇で何も見えない為、自分がどの方向に進んでいるかまったくわからないが、
足元に地面の感触がない事、風の向きからして間違いなく下の方にむかって進んで、いや落ちてる。
「ちょっ、嘘だろ?どういう事だよ!」
叫んだ声は風の流れですぐに揉み消される。
風が強くて目をしっかり開ける事もできない。
一体どこまで落ちて行くのだろうか?
地面についた時には、間違いなく自分は木っ端微塵になるだろう。
おかしいだろう?さっき契約して、いきなりこんな暗闇の中で転落死?
真っ暗な暗闇をまっすぐに足元から落下していっている。
勢いのよい空気の流れがそう語っていた。
呼吸が苦しい。
風の流れで、口から鼻から、体の中の空気がどんどん吸い出されていく。
苦しい。意識が・・・
意識が途切れそうになった瞬間、真っ暗な暗闇から目の前には青く大きな丸い物が見えた。
「星・・・?
あれは、自分たちの・・・って、
おっ、おおおおおおおお」
足元から上に吹き上がっていた風が止み。
今度は、頭から足元への空気の流れが変わる。
まっさかさまに青く大きな丸い星に落ちていく。
「ちょっ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ・・・」
空気の壁が顔面を襲う。
すぐに顔面を両腕覆おうとしたが、空気の壁が自分の腕を顔付近に近づける事すら許してくれない。そして徐々に身体が熱くなっていくのを感じる。
まじかぁ。これ死んだなぁ・・・
大気圏外からの生身での突入。
誰がどう考えても途中で燃え尽きる。
一瞬で男はそう死を悟った。
「どぉう?楽しかったぁ?」
・・・
「はっ、へっ?」
突然女性の声が聞こえ、声にならない返事を返した。
足にはちゃんと地面の感触があり、顔を襲っていた空気の壁もない。
「なっ、なにがどうなって・・・」
「これから君は私たちの世界に行くわけじゃなぁい。
だからぁ、とっておきの思い出になるように、
この世界が見渡せる場所まで送ってあげたのよぉ」
満面の笑みを浮かべて話す女性を見て、こみ上げてくる怒り。
だけど、この怒りをこの女性に向けても無駄な事はわかっている。
「ああ、もうくそうぜぇ!」
地面に対して、怒りをぶつける。
今の自分には地面にしか怒りをぶつける物がないからだ。
女性は笑みを浮かべながら、そんな男の背後にすっと周り込み、男の行動を諌めるように抱きしめた。
背中に女性のぬくもりを感じる。
女性の温もりを感じ、地面に怒りをぶつける行動をやめ、ため息をつく。
背後から抱きついていた女性は、自分の正面にくるんと周り込み、腕が自分の頭の上に伸びるのがわかる。
女性の手が、自分の頭をなでてくれている。
優しく、そっと頭をなでてくれている。
「それじゃ、今度は本当にあの洞窟に戻るよぉ。
準備はいーい?」
「くそっ、ものすごく腹たつ事しやがって。
早く元の場所に戻してくれ」
「ごめんねぇ。
契約で決められてて、やらなきゃダメだったのぉ」
目をつむり、女性の合図を待つ。
身体がふっと浮いた感じがした。
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目を開けると、暗いけどぼんやりと見慣れた壁が見える。
下を向くと、女性の頭。
この短い間に何度この女性と抱き合ったんだろう。
今までの自分では想像できない。
本当に笑えてしまう。
「変われたねぇ」
女性は笑みを浮かべているのを見て、自分の耳が熱くなるのがわかる。
「人間って、本当に些細な事で変われるんだよぉ。
みんな、自分の殻に閉じこもっちゃってるだけでぇ。
可能性を否定しちゃってるのぉ
君の場合は、病気で感情を押し殺しちゃってたからぁ。
感情を表に出せるように、私なりにがんばってみましたぁ」
「了解」
「どうかなぁ?
感情を持って、誰かと接するっていうのはぁ?」
「まー、悪い物でもないかもなっ
ちょっとっていうか、かなり腹たったけど」
「私はこの世界では魔女ですからぁ」
「その使い分け、反則だろ」
思わず、笑みがこぼれる。
自分の胸の中で女性がほほえむ。
異世界から来た賢者。
病気の事を気にせず笑えるってのは、なかなか感動ものだよ。
ありがとう・・・
「どういたしましてぇ」
防空壕の中、入り口から入ってくるかすかな光。
そのかすかな光の中でも、女性の顔ははっきり見える。
これは、誰がどう見たって賢者っていうより魔女だ。
そんな事を考えて、ため息がでる。
「これから私は、君を転送する為の魔方陣を書くねぇ。
すぐに書き終わるからそこで待っててぇ」
「了解」
女性の背に回した手をどけると、すぐに女性は背を向けて地面に指先を向ける。
指先が緑の光を発し、地面もそれにあわせて緑の光を放つ。
「すげぇ。何それ?」
思わず、質問をしてまった。
「魔方陣を書いてるんだよぉ」
女性は振り返る事なく、教えてくれた。
マジで、魔法かっこいい。
あんなのこの世界でできたら、マジで有名人だ。
「君は携帯電話探しておいた方がいいんじゃないかなぁ?」
魔方陣を書くのをずっと見ていた自分に、女性から声がかけられる。
ーーやべぇ、完全に忘れてた。
防空壕の地面を見渡すと、白色に光っている物体を発見。
間違いなく、携帯電話の電源ランプだ。
すぐに駆け寄って、携帯電話を手にとる。
女性は、指先を光らせて魔方陣を書いている。
写真撮らせてっとか、一緒に写真撮ろうとか言ったら、怒るかな?
・・・
・・・あれ? 返事がない。
・・・ん?
今までだったら、心の中で質問系の事を思い浮かべたら、すぐに返事が返ってきたんだけど返事が返ってこない。
もしかしたら、魔法切れ?
もう、何も聞こえてなかったりする?
横目でチラッと女性を確認しても全然反応がないようだ。
・・・
これは?もしかして本当に魔法切れって奴なのか?
もう、心の中が読まれる心配なし?
・・・
マジで心の中が読めるってチートだし、これでちょっと一安心できる。
無心でとか、よく漫画に出てくるけど、
あれ、絶対無理。特に目の前に美女がいたりとかしたら、マジ無理。
どうしても、考えちゃうもんな。
携帯電話を片手に、女性の顔をちらちらと確認。
それにしても、美人だよな。
あんな美人に抱きつかれたり、抱きついたりしてたんだ。
思いだし赤面してしまう。
手のひらでほほを2回たたく。
思い出しただけで、もう心臓もかなり鼓動が早くなっている。
相手は異世界の賢者様。
この世界では魔女と呼ばれている女性。
いらない事は考えるな。
変な想像はするな。
ついつい女性の胸元や、足に目がいってしまう。
「君、それ以上は考えない方がいいよ」
ーーえっ・・・
女の声ではない。賢者じゃない。別の男の子っぽい声だ。
「僕は、君についている水の精霊だよ。
もしもの事があるといけないからって、
賢者様に頼まれて、君についているのさ」
ーー消えたんじゃないの? 光の粒とか全然見えないけど?
「結界の中は、精霊は可視化されるんだよ」
ーーふぅん。それで今は見えないって訳か。ところで、いつから俺の声が聞こえていたか教えてくれるか?
「君の腕の骨を治した時からずっと聞こえてるよ」
ーーマジで?ずっと聞こえてたのかよ。盗み聴き?・・・超恥ずかしいんだけど・・・
ーー悪い、ちょっと自己嫌悪させてくれ。。。
「好きにすればいいよ」
・・・
・・・・
・・・・・賢者の次は、精霊かよ。
「賢者様も聞こえてるよ」
ーーはぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!
顔が真っ赤になるのがわかる。
はずかしい。ものすごくはずかしい。全て賢者に聞こえていたと考えると安心してあれこれ考えてしまった自分がって、聞こえているけど魔方陣を書き続けていたって事?
「賢者様は、気にしてないと思うよ」
ーーうう。フォローありがとう。身体治してくれたりとおまえってものすごく良い奴だよ。
「癒やすのが水の精霊の役目だからね」
ーーありがとう。水の精霊。
「どういたしまして
・・・あと、さっきから君、
賢者様の事を『女』とか『女性』って、
異性って思ってるみたいだけど、
あの方は、性別を超えた存在だからね。
女性の姿はしているけど、
男でもなければ、女でもないから、
賢者様って考えた方がいいよ。」
ーーは????女じゃないの???
「見た目で判断するのは危ないからね。
これから気をつけてね」
ーー見た目で判断するのは危ないって、それならどうやって男と女を区別してんだ?
「それは僕たちの世界にいけばきっとわかるよ。
君はまだ、何も知らない。だからわからない。
知れば、きっとわかるようになるよ」
ーー知れば、きっとわかるようになるか、わかるようなわからないような。百聞は一見にしかずって奴かな。




