異世界2日目ラボ(1)『ラボへの道』
ベッドの上にはエルフの賢者が横たわり、そのすぐ横に赤毛の長髪の女性が立っている。赤い髪、白い肌、黒いドレス。まさに魔女と呼べる姿だった。
魔女は、ベッドで横たわるエルフの賢者の体をそっと撫でる。
この身体で暮らしていったいどれくらいの月日がたったのだろう。
はるか昔、魔方陣の実験に失敗し3分の1の世界を破壊した。
この身体には、その時の失敗の傷が今も残っている。
新しい身体に魂を移し、今まで使っていた身体を見る。
たくさんの仲間たちと一緒に過ごした思い出もつまった身体。
過去がたくさん詰まった身体。
魔女は身体に別れを告げる。
「賢者様、このお身体は?」
「もう必要ないかなぁ。処分しちゃってちょうだい」
「はい」
「まだぁ、あの子たちは到着しないのかしらぁ」
「どっかから落ちてるんじゃないんですかね」
「そうでしょうねぇ」
エルフの賢者は魔女のような新しい身体を移り、初めてのため息をつく。
エルフの王妃から逃れる為、金髪の少女と銀髪の少女に案内されて、エルフの賢者のラボへと向かう。
賢者の弟子は事の成り行きから仕方なく、小人の賢者を抱きかかえたままだ。
そして、おまけでついてきてしまったエクレア。
賢者の弟子は2人少女と問題児2人と一緒に移動する事になった。
これは、どうあがいても問題が起きるというフラグが立っている。
これで問題が起きなければ、それはそれで恐ろしい。
金髪の少女の後を追って、玉座の間を出る。
金髪の少女と銀髪の少女の2人の走る速度は速い。
とても賢者の弟子の足ではついていけない。
戦闘で通路は瓦礫の山だというのに、前を行く2人はかろやかなその瓦礫を飛び越えていく。
「ちょっ、おまえら案内役ならもう少し後ろも気にしろ!」
賢者の弟子は前を走る2人に向かって叫ぶと、金髪の少女が振り返り、「ふんっ」と見下すかのような視線で煽ってくる。
「こんのやろぉぉぉ、おまえ絶対に俺らに道案内する気ねぇだろ!」
「喋ってばかりいると転んじゃうよぉ」
賢者の弟子に抱っこされている小人の賢者が心配そうに注意する。
「いやいや、そもそもなんでおまえは降りようとしないんだよ!
ってか、俺じゃなくてあいつらに抱っこしてもらえばいいじゃん!
俺はこの中で一番体力ねぇんだぞ!
測定で6歳って結果が出た俺がなんでおまえを抱っこして走ってんだよ。
ほんっと、役割間違ってんよ!」
賢者の弟子は、小人の賢者に思いっきり愚痴をはくと、小人の賢者は申し訳なさうにぽりぽりと頭を掻く。
先行する2人の姿があっという間に小さくなって行く。
金髪の少女も銀髪の少女も後ろを何回も振り返ってこちらを確認してくれてはいるが、速度を落とすつもりはないらしい。
何かを警戒しているのだろうか?
「ねぇ、こっち方が近道だからこっちに行こうよぉ」
小人の賢者が、先行する2人とは別の道を指差す。
「本当だろうなぁ?
それに安全って保証できるのか?
俺は人間だぞぉ
なんの力もない人間なんだぞ」
念には念を押して、小人の賢者に確認すると、小人の賢者は「大丈夫だってぇ、僕に任せてぇ」と自身の胸をポンと叩く。
信じるべきか、信じないべきか・・・
前を行く2人の姿は瓦礫の山でみえなくなっている。
ああ、くそっ!
小人の賢者の指さす方向に走る賢者の弟子。
「そこを曲がって」
小人の賢者の指示通りに曲がった瞬間だった。
床が光ったと思ったら、目の前に映るのは真っ暗な闇。
玉座の間を出て、またもやお城の地下空間に落ちてしまった。
「・・・おーいっ、こらチビ!おまえを信じた俺がバカだったよ」
「いや、これぐらいのトラップなら避けられると思って」
真っ暗闇で何も見えないが、きっと小人の賢者は苦笑いを浮かべているだろう。
「んでっ、なんでエクレアまで一緒に、落ちてんだよ?」
かすかに聞こえる足音で、エクレアも一緒に落ちている事がわかった。
「だって、
おじいさまと賢者の弟子さんの2人では、
この中から絶対にでられないでしょ」
・・・
「おまえ、もしかして俺たちの事を心配して、
一緒に落ちてくれたのか?」
「そうよぉ。
ただ、私が知っている出口はいつものところだけなのぉ
だからここから直接ラボってのは私には無理よ」
「そっか、でも、ありがとっ
ここから外に出る方法があるってだけで助かる。
さっきのところから出た、ラボに向かえばいいだけだしな」
この真っ暗な空間で出口まで案内ができる存在が身近にいるだけでかなり心強い。
「この空間はエクレアがいるからなんとかなるとして、
ここを出てからだよなぁ。
俺にはこの3人でラボにたどりつけるとは思えないぞ」
「ふふぅん。
私がラボに案内してあげてもいいんだよ。
私ラボの場所知ってるし」
「・・・場所は知ってると思うけど、肝心の罠の場所は?」
「罠の場所知ってたら、いつもこの場所にいないよ。
賢者の弟子さんも変な事いうなぁ。
知らないから、ここにいるんだよ」
「・・・了解!」
エクレアは、ラボの場所は知っているが、罠の場所を知らない。
彼女が案内したのでは、一生かかってもラボには到着できずに、この地下空間への無限ループになってしまうだろう。
「僕だったら、罠があっても避けられるからね」
「・・・マジ?」
「あれぐらいの発動速度なら、
発動を開始を見てからでも十分避けられるからぁ」
「おまえってそんな凄いの?」
「君・・・ひどいなぁ
これでも僕はエルフの賢者と肩を並べる賢者だよぉ
エルフの賢者と比べると、派手ではないけど、
この身体を活かした力と瞬発力にかなうものはいないよぉ」
「ふぅん。
なんかわりぃ。街の中で女性に追いかけられまくって姿見たから、
走るのとか苦手だと思ってた」
「走るのは・・・確かに苦手かなぁ」
小人の賢者が罠を避ける事ができるなら・・・なんとかなるか。
「それだったら、
おまえが先頭で罠に全部ひっかかってくれ。
そうすれば、俺やエクレアは罠のない所通っていけるから」
よし、地上に戻ったら3人の中で先頭を歩くのは小人の賢者に決定。
「君の場合は罠がわかってても避けられないと思うんだけどぉ」
「・・・うっさいわ!」
暗闇の中で、賢者の弟子はおんぶをされる。
賢者の弟子は真っ暗闇で何も見えていないので、
エクレアが強引に後ろに抱えたというのが正解だ。
「出口の風の精霊でまた意識失ったら、
すぐに起こしてくれ」
「なんでぇ?」
「さっきみたいに途中で起きると、
出るタイミングがまったくわからん。
俺、そういうのって全然経験ないから」
「ふぅん。
気にはしてるんだけど、空気が読めてないんだね。
さっきの玉座の間でも凄かったもんねぇ」
「それをいうなよ」
暗闇の中、徐々に風が強くなっていくのを感じる。
エクレアが出口にまっすぐ進んでいるなによりの証拠だ。
賢者の弟子は、意外な事に2度目は失神する事なく脱出に成功する。
ただし、着地した後でエクレアにおんぶされている状況を、はっきりと目にし、しばらくは身動き1つとらない塊となった。
高鳴る鼓動。緊張で声もでない。暗闇の中では全然大丈夫だったのに、エクレアの姿が見えるようになったとたんに、賢者の弟子は緊張して固まってしまった。
今日ここで初めて知り合った女の子におんぶをされている。
しかも相手はエクレア、エルフの王女だ。無理もない。
小人の賢者が前を走り、罠をどんどん発動させ、それを避ける。
その様子を見て、賢者の弟子をおぶったエクレアが早歩きで行く。
足のストロークの差、小人の賢者は走るがエクレアは早歩きで余裕で追いつく。
これじゃ、エルフの街でどれだけ真剣に走っても逃げられる訳がない。
罠は床だけでなく、壁にも仕掛けられている。
床ばかりを気にしていると、今度は壁一面に罠の魔方陣が仕掛けられている。
それらの罠を小人の賢者は壁を蹴り、天井を蹴り重力なんて関係ないと言わんばかりに避けていく。まさに神がかっていると言っていい。
罠である魔方陣が浮かびきる前に、もうその場所から逃げている。
接近戦を得意とするドワーフ族。反射神経も他の種族を圧倒しているのだろう。
ラボに到着した小人の賢者とエクレアと賢者の弟子。
賢者の弟子はエクレアの後ろで気持ちよさそうに眠っていた。
賢者の弟子はおんぶされた状態で、
トラップを避ける為に、飛んだり壁を走ったりした。
人生で初めて経験する壁走りやハイジャンプ。
ただでさえ、女の子におんぶされた状態なのに、
ジャットコースターに似た感覚を味わい、意識を喪失したのだった。
「ずいぶん遅かったわねぇ」
先に到着していたエルフの賢者が声をかける。
「あれぇ?その身体はどうしたのぉ?」
小人の賢者が、エルフの賢者に声をかける。
「エルフの王がうるさくってねぇ。
私の物は、眠っているみたいねぇ。
私が変わるわぁ」
不満そうに顔を膨らませたエルフの賢者は賢者の弟子を起こさないようにそっとエクレアから受け取る。
エクレアは賢者の弟子から解放され、腰を飛ばしてストレッチ。
エルフの賢者の表情を見た小人の賢者は笑みを浮かべる。
「それじゃ、ちょっと驚かせてみようよ?」
「・・・」




