異世界2日目エルフの城(9)『賢者と種族長』
少女は爆発音に気づき、地下の空間を出る。
そして、すぐに玉座の間の異変に気づいた。
玉座の間で少女が見た物は、祖父と母の壮絶な殴り合いの喧嘩だった。
この状況を見て、少女は深く深く、それは深くため息をつき、
「おじいさまとおかあさまは、
こんな所でいったい何をやってるのかしら?」
と二人にむかって話した。
小人の賢者と王妃は動きを止め、ゆっくりとその少女にいる方向を向く。赤みがかかっていた顔が徐々に青白くなっていき、ものすごい汗が額から顎をつたって落ちていくのが賢者の弟子にもわかった。
「いやぁ・・・ちょっとねぇ。
娘との再会を喜んでっ」
「お、じ、い、さ、ま?」
少女の鋭い視線が、ごまかそうとした小人の賢者を貫く。
小人の賢者はすぐに後ろに跳びのき、頭を下げる。
そのすぐ近くで王妃が両手をあわあわと振ってあわてている。
「・・・」
少女の一言で、張り詰めていた空気は消し飛び、なんとも痛々しい空気が流れている。衛兵たちは、そんな小人の賢者と王妃の姿に気を使ってか、そっぽを向いて知らん顔をしている。
「やっぱ、どの世界でも孫が一番強いんだなぁ」
その光景を目にして、異世界をほんの少しだけ身近に感じた。
「エルフ族とドワーフ族の混血であるエクレア様を本気で怒らせると、
被害がひどいのよ。
小人の賢者様の方が強い事は確かなんだけど、
エクレア様はまだ力の使い方がうまくできてないみたいだし、
赤子の時に夜泣きで島をいくつか潰したって話は有名だわ」
・・・夜泣きで島を・・・
「なるほどな、あいつが頭をすんなり下げる訳だわ」
エクレアの登場で、なんとか地上での戦闘は落ち着いた。
あとは、上空の・・・
賢者の弟子が上空を見上げると、2人の動きが完全に止まっていた。
その2人を取り囲むように、10を超える人影が見える。
地上での殴り合いの衝撃音が止み、上空でも轟音が鳴り止んだ。
「ねぇ、この騒ぎっていったいなんなのかな?」
赤毛の男の子が、エルフの賢者に向かって話す。
「勘違いしたお馬鹿さんを正そうとしただけよぉ」
エルフの賢者は赤毛の男の子に対して、髪をかき上げながら話す。
「それにしては、かなりの魔法を行使したようだが」
エルフの王の斜め後ろに立つ、トカゲのような姿をした者が話す。
「我々の世界では、3つの火山が噴火して多くの者が苦しんでしまったというのに、理由はそれだけですかな?」
初老の男がエルフの賢者を睨みつけて話す。
「我々の世界では多くの街で洪水が発生しているのですが」
マントを羽織って顔を隠した女性が話す。
そして、エルフの王側についた者たちが、次々に自分たちの世界で起きた災害をエルフの賢者に向かって話していく。
エルフの賢者はその話を聞きながら、眉間にしわを寄せて頭をかきむしる。
あきらかに不愉快だという表情と態度。
そして、そのエルフの賢者に同調するからのように、賢者側に立っている者たちも不愉快だという表情を浮かべる。
賢者たちはその強大な力のために、力を使えば精霊たちの偏りを生んでしまい、他の世界にもさまざま影響を及ぼしてしまう。
賢者たちも好きでそれをやっている訳ではない。
にも関わらずその責任を追及される。
強大な力を持った者さだめ。
それゆえ、賢者たちは普段は自らの魔力を利用せず、自然界の精霊の力のみを利用して過ごしている。
賢者側からしてみれば、その力を使わなければいけない状況を生んだエルフの王の方が悪いとしか考えられない。
「まぁ、いいわぁ
せっかくみんな集まったんだしぃ
この際だからちゃんと話をしましょうか」
エルフの賢者は、種族長たちの災害報告を遮るように地上を指差し話す。
エルフの王は、他の種族長に話すのをやめるように腕を振る。
「このような場所で立ち話となると、
また戦闘になるやもしれん。
冷静に話し合うためにも、我が国の会議室で」
エルフの王とエルフの賢者は一瞬だけ視線を合わせると、
エルフの賢者は口角を少しあげ、うっすらと笑みを浮かべた。
天井は吹き飛び、壁の窓はなくなり、壁にはヒビが入っている。
床は、土と泥と水で無残な状態になっている。
つい数分前まであった、赤い絨毯は見る影もない。
魔法での戦い。
自分たちの世界だったら、これはもう竜巻と暴雨と土砂崩れが同時にこの場に襲ってきたような自然災害にしか見えない。
小人の賢者のおかげで戦闘が始まる前に視界に入った全ての人に肉体の強度をあげてくれていた為、死傷者は0人。小人の賢者が土の壁を最初に展開した理由は、自身を守るためというより、他の人を守る為の時間稼ぎだったのかもしれない。
小人の賢者はエルフの王妃とともに、エクレアから説教を受けている。
暗闇で出会ったエクレアは、明るい所で見てわかったが、体格はドワーフだが容姿はエルフ。
特性はドワーフという普通は逆なんじゃないの?とツッコミを入れたくなる容姿だ。
エルフの王である父親似で、金髪で透き通るような白い肌である彼女は、自分たちの世界ではかなり美人なのだが、ドワーフ族のあの愛くるしい魅力にはかなわない。
なので、ちょっと同情してしまう。
それに、容姿がドワーフで特性がエルフだったら、いろいろなゲームに出てくる可愛い魔道士キャラになれたのに。
自分たちの世界が考える異世界と実際の異世界とのわずかなずれがあると、『もう!おしい!』とつい心の中で思ってしまう。
小人の賢者は、自分と目があうとにっこりと微笑んで、手を振ってくる、
なんつー愛くるしい奴だ。
ただし、エクレアにすぐに気づかれて、頭にきついのを一撃入れられる。
やらなきゃ良いのに、やっちゃう賢者。しかもそれが確信犯。
もし、この光景を何も知らない人がみたら、お姉ちゃんに叱られる弟と妹としか受け取れないだろう。歳を重ねても大人にならないドワーフ族の容姿はある意味ずるい。
賢者たちと種族長たちは空から舞い降りてすぐに玉座の間とは別の建物に向かう。
中にはとても動物を人間のように2足歩行できるようにした物など、さまざまだ。
そんな中、先頭を歩くエルフの王とエルフの賢者は笑みを浮かべており、賢者の弟子は違和感を感じた。
さっきまで、あんなガチンコで魔法バトルしてたのにあいつら笑ってるんだ?
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