第9話 マッシュとニュック
「妖精さんって、呼んだ!?」
「わっ!」
るんるん、浮かれていた愛莉は、目の前の声に驚き思わず尻もちをつく。
「いっつぅ…。びっくりしたぁ」
「大丈夫?」
真宏が差し出してくれた手を取り、「よっ」っと起き上がると小さくお礼を言い、改めて脅かしてきた男の子を見る。
綺麗な羽を持つその男の子の妖精は、見た目十歳位。ぱっちりとしたつり目に、尖った耳。おまけに、髪の毛はときんときんだ。
そしてその男の子の後ろに隠れているもう一人の妖精――頭の周りでふわふわとウェーブがかかった可愛らしい髪型だが、恐らく男の子だろう。服装がもう一人の男の子と全く同じなのだ。が、弱気そうな男の子の服はぶかぶかで、大きなマフラーをつけているせいかどうしても可愛く見えてしまう。
「ねぇ、お姉ちゃん達だれ~?」
髪がとげとげの男の子がやんちゃに聞いてくる。顔が、近い。
「え、えーと私は愛莉……じゃなくて、アイリス。妖精らしいよ?こっちはペガサス使いのえーと、キースと愛馬のオースティン!」
オースティンは愛莉に共鳴して高らかに鳴いたが、トゲトゲ髪の男の子は眉をひそめる。
「お姉ちゃん、妖精なのになんで羽が生えてないの?」
たっぷり、5秒の沈黙。愛莉の頭はフル回転して答えを導き出そうとしたが、かなわず愛莉の頭ははてなマークで埋め尽くされる。
「で、なんで、真宏?」
「もう、本当に丸投げだよね。愛莉が一番知っておかなきゃいけないのに」
「ごめんごめん。で、なんで?」
すると真宏はひとつため息をつき、説明を初めてくれた。
「愛莉が聖女だからだよ。聖男と聖女には、最初羽が無いんだ。でもキスすることで、本来の力が発揮出来るようになるんだよ」
「えぇぇぇ!! じゃあ、さっきエルが私にキスしようとしたのってそういうことだったの!?」
「うん。そりゃ、ずっと待ちわびてた聖女が帰ってきたらそれそれを一番最初にやるだろうね。それも、帰ってきた日の夜とかに……」
真宏はにやりと笑って言った。が、そんな真宏の表情を見る余裕もなく、愛莉の顔から血の気が引いていく。
「エルに悪いことしたな……」
愛莉が一人悲しいムードに浸っていると、忘れ去られていたトゲトゲの男の子がひとつあくびをした。
「ねえ、何話してるのか、俺全然分かんないんだけど!」
「あ、ごめ……」
「まぁ、どうでもいいけど!」
ガハガハと笑う男の子に、愛莉も真宏も心の中でずっこける。でも表面上では、年上らしく微笑ましい顔で見守っていたのだった。
(ここは年長者として優しく接してあげなくちゃね……)
愛莉はわざとらしく「ゴホン」と咳払いをして、気を取り直す。
「お兄ちゃん達、お名前は?」
「俺マッシュ! 後ろにいるのが弟のニュックだ」
ニュックは、兄マッシュの後ろからひょこっと顔を出すと、恥ずかしそうに「こんにちは……」と囁いた。
「ひゃー、こんにちは! かわいい! まるで女の子みたい!!」
「一理あるね。本当に女の子みたいだ」
純粋に物を見つめるくりんとした目に、尖った耳を完全に隠している天然パーマのふわふわとした髪型が絶妙な子供独特の可愛らしさをかもしだしている。
「お……お馬さん、さわってもいい?」
「うん。優しくね」
愛莉の「おいで」という声に反応したオースティンはそそくさと愛莉の側に駆け寄ってくる。
「俺も触る~!」
わらわらと寄ってきてくれる子供達に、オースティンも嬉しそうだ。
「ヒヒーン!!」
* * *
「楽しそうで何よりだけど、二人ともこんな夜遅いのに帰らなくていいの? 親が心配するよ? ほら」
真宏が指差す方向から一人の女性が走ってくる。背中には、妖精の羽がついていた。
「「ママぁ!」」
二人は女性の胸の中に飛び込んだ。
「マッシュ、ニュック! 探したのよ。本当に心配したんだからね」
感動ムードに浸っていた三人であったが、すぐに後ろにいる愛莉と真宏の存在に気づいた。
「まぁ! もしかしてお二人方が息子達を見ていてくださったんですか?」
「はい。というか、さっきたまたま会っただけですけど」
「いえ、本当にありがとうございます! 良かったら、今度家に遊びに来てください。美味しいスイーツでおもてなしします!」
愛莉達二人にペコペコと頭を下げる兄弟のお母さんは、とても優しそうな人だった。
「スイーツ!?」
「そんな、散歩をしていただけなのに、申し訳ないですから」
遠慮する真宏にも、お母さんはにっこりだ。
「大丈夫ですよ。私はこの森でケーキ家をやっているんです。こんな素敵なお二人に食べてもらうとなると、腕がなります!」
お母さんは若々しくしなやかな筋肉のついた力こぶを見せつける。さすがにこれには真宏も折れたようだ。
「……分かりました。今度愛莉と二人でお伺いしますね」
「お馬さんも!」
元気よく言うニュックを、愛莉は微笑ましく見守る。
「うん、お馬さんもね」
「ヒヒーン!!」
マッシュとニュックは最後にもう一回だけオースティンとハグして、愛莉達に元気良く手を振る。
「またね~、お兄ちゃん、お姉ちゃん、お馬さん!」
「またね~!!」
飛びっきりの笑顔で手を振り、激闘の異世界生生活1日目の幕が閉じようとしていた。




