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プロローグ
時々、愛莉は沈み込む。
本を開くと、たちまちそれはただの一字一句の塊ではなくなり、ぎゅっとつまって、愛莉の中に流
れ込んでくる。
なぜだろう。自分が体験しているわけではないのに、動けなくなる。
読み始めると、愛莉の意識は本の中に、ずるずるとひきずりこまれていく。体は抜け殻となり、ベッドの上に無造作に転がっている。
読み進めるほどに、胸がくるしくなって、取りつかれたように、どんどんページをめくる。
「愛莉、ちょっとお使いたのんでもいい?」
「あ、うん。わかった」
現実に引き戻され、いつも、愛莉はいつも通りの気丈な笑顔を見せる。
否、心の中は、自分の読んでいたあの小説に後ろ髪をひかれ、思わず居心地悪そうに苦笑いをした。
大丈夫、お使いさえ終わればすぐにあの世界に行けるよ。ちゃんと。
愛莉は確信し、玄関のドアをくぐった。
***
夜、月がきれいで、秋らしく虫の声なんかも聞こえたのだが、愛莉の心は満たされない。
どうしようもない憂鬱感にみまわれ、体の中にもどった愛莉はベッドの上で足をバタバタさせていた。
物語が終わると、続きを失った喪失感にさいなまれる。もう、彼らの冒険を見ることさえも出来ないのか、と。




