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第1幕(9)

「相変わらず声が大きいな……」


 あ、この首の人も声大きかったんだ。良かった、ごまかせて。


 いや良くない!

 ゲーム世界に入っちゃったのはわかった。納得するしかない。だけどよりによって、最終的にろくな目に遭わないライバル役で、しかも首切られた後の首の方に入るって……


「なんてこった……!」

「……お前、さっきから妙な言葉遣いだな」


ギクッ


「て、テオドールさん!」

「な、なんだ?」

「ま、魔女になった私でも……助けてくれるんですか!?」

「……俺たちは、お前を『魔女』などと思ったことは一度もないぞ」

「俺……たち?」

「やっぱり、それも忘れてしまったか……ほら、あと二人の………」


 とそこまで言うと、テオドールさんは急に私を荷物の中にぎゅうぎゅう詰めに詰めた。


「い、痛い痛い! 痛いです」

「すまん、だが我慢しろ。この中の方が隠せる」

「か、隠すって……?」


 尋ね終わるよりも先に、彼の言った意味が分かった。私たちの背後から、怒声が浴びせられた。


「おい、貴様! そこで何をしている!」


 テオドールさんの背負っていた革袋の中に詰め込まれてまったく外が見えないけれど、声だけは聞こえてきた。

 ものすごくこちらを怪しんでいる衛兵らしき男性の声と、テオドールさんのやや硬い声が。


「何も。道に迷ったものでね。では、これで失礼する」

「……お前……傭兵か?」


 テオドールさんの挙動を怪しんでいるのか、傭兵という身分そのものを怪しんでいるのかわからないけれど、見咎めているのは間違いない。


「傭兵ですが……何か?」

「いや、それはいい。だが先ほどの騒ぎ、お前も知っているな?」

「騒ぎ……あの、首騒動ですか?」

「そうだ。魔女ラヴィニアの首が消えた件だ。何か知っていることはないか?」

「ご冗談を。俺なんぞが知るはずがない」

「そうか……まあ、全員に聞いて回っていることだ。悪く思うな」

「いいえ。ご苦労さまですね、兵隊さん」


 そう言うと、テオドールさんは動いた。途端、革袋がどこかにぶつかったらしく、後頭部がゴチンと衝撃に見舞われた。


「痛っ」


「!」

「何だ?」


 思わず声が出てしまった。外の二人の間で緊張が走っているのがわかった。それ以上は声を出さないように口をつぐんだけど、遅かった。


「今の声は、その袋の中からか?」

「……向こうで子供が転んだせいでしょう」

「そんな言い訳が通用するか。その荷物、改めさせてもらうぞ」

「……大したものなんぞ入ってませんよ」

「ならばすぐに見せろ」

「勘弁してください。母親の形見も入ってるんだ」

「問題がなければすぐに返す。さあ!」

「……」


 テオドールさんが息を飲んだ。これ以上ごまかすと怪しい。かと言って、袋の口を開ければ即座にばれてしまう。私もアウトだし、隠していたテオドールさんもきっと罰を受けることになる。どうすれば……!


「おやぁ、テオの旦那! こんなところでどうしたんです?」


 二人の緊迫感を割くように、のんびりした声が響いた。


「何か問題でも? この旦那は私が護衛をお願いしている方でしてね」

「……行商人か。ちょうどいい。お前もまとめて、荷を改めさせてもらう」

「しかし……」

「どーぞどーぞ! うちは珍しいものをたくさん揃えてるんでね。改めるついでに、何か買って頂ければありがたいですな」

「……品物次第だな」


 行商人の男性が、なにやら無理矢理自分とテオドールさんの荷物をその場に並べようとしているらしい。

 まずい、見えてしまう――!


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