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解錠師と呼ばれる転移者——魔法の構造が丸見えなので、型など必要ない  作者: 紬 律
第2部

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Episode 8|研究室


 東京、十二月。


 窓の外で銀杏が枯れている。暖房が古くて、隙間から冷気が入ってくる。


 キャロルが白衣の下に何か着込んでいた。金に近い茶色の髪が、窓の光を受けている。背が小さい。


 デスクが三つ。PC。棚には論文の束。コーヒーメーカー。消えかけのホワイトボード。暗号理論の研究室だ。


 マコトが向こうで資料を積み上げている。年内に提出する気があるのかないのか、顔を見ればわかる。ない方だ。


「コーヒー、いる?」キャロルが言った。


「いらない」


「どうせ飲むくせに」


 返事をしなかった。しばらくして、マグカップが横に置かれた。


 キャロルが隣に座った。自分のPCを開いた。いつからか、こういう配置になっていた。ケイのデスクの隣。当たり前のように。


 式に戻った。


 展開の途中で同じ場所に詰まる。経路を省くと整合性が崩れる。省かなければ遅い。どちらでも駄目だ。マグカップを手に取った。冷めていた。


「また同じとこ?」キャロルが手元を見ずに言った。


「なんでわかるんだ」


「毎回同じ顔するから」


 ケイは少し止まった。「……そうか」


「うん」


 キャロルが自分の画面に目を戻した。




 手が、止まった。


 今度は違う止まり方だった。


 ——定義ごと、変えればいい。


 キーを叩いた。展開式が一行に収まった。


 一行だった。


 キャロルが顔を上げた。何も言っていない。ただ、こちらを見ていた。茶色の目だ。


 画面を向けた。


 キャロルが身を乗り出した。二人の横顔が、画面に並んだ。


 息を止めていた。十秒かからなかった。


「変換のルール自体を変えてる」静かな声だ。「こんな発想、見たことない」


「誰もやってないから」


「なんでやってないんだろ」


「思いつかなかったんだろ」


「これ、すごいことになるよ」


「かもな」


「かもじゃないと思うけど」


 マコトが顔を上げた。「解けたの?」


「解けた」


 マコトが立ち上がった。「見せて」

 画面を向けた。マコトが数秒見た。「……わかんない」


「そうか」


「お前のはいつもそう」マコトが苦笑した。「キャロルさんは?」


「わかる」キャロルが言った。


 マコトが少し間を置いた。一瞬、キャロルを見た。「そっか」


 それきり、自分のデスクに戻った。


 キャロルが画面から目を上げた。


「続き、聞かせてよ。この式が何に使えるか」


「どうぞ」


 先に椅子に向き直っていた。


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