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解錠師と呼ばれる転移者——魔法の構造が丸見えなので、型など必要ない  作者: 紬 律
第1部

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1/9

Episode 1|転移


 気がつくと、草の上に寝ていた。


 背中が湿っている。空を見上げる。見知らぬ青空。


 ケイは起き上がった。頭が動こうとしない。


 最後の記憶は、研究室だ。夜中の三時まで論文を書いていた。コーヒーを取りに席を立ち——そこで途切れている。次の記憶がない。


 周囲を見渡す。木々が高い。鳥の声がする。虫の声もする。道路がない。建物がない。アスファルトがない。人工物が何もない。


 額に手を当てる。手が、かすかに震えている。


「……夢か」


 にしては、土の冷たさがリアルすぎる。




 音がした。


 葉の擦れる音ではない。もっと細かい、無数の足音だ。


 茂みが揺れた。出てきたものを見て、息が止まった。


 蟻だった。


 ただし、体長が五十センチほどある。一列になって這い出してくる蟻だ。灰色の外骨格。眼球が六つ、それぞれが別の方向を向いている。触角の先端が薄く光っていた。


 一匹、二匹、三匹。


 四匹、五匹、六匹。


 七匹目が出てきたところで、群れ全体が同時にこちらを向いた。


 ケイは後退ろうとした。足が動かない。代わりに、右手が動いた。


 空中に何かを描いている。意識より先に指が動いていた。線と記号が空中に浮かぶ。描き終わると同時に、白い光が広がった。


 足音が消えた。


 気づいたら、蟻が一匹もいない。焦げた地面だけが残っている。


 自分の右手を見る。人差し指の先が、かすかに光っていた。呼吸の仕方を忘れている。


「……何をした、今」


 自分で自分に聞いた。返事はない。




「動くな!」


 振り返ると、馬に乗った騎士が三人、槍をこちらに向けている。


 鎧だった。本物の鎧だ。銀色に磨かれ、陽光を反射している。


 騎士の一人がケイの服を見た。槍が下がる。


「転移者だ」


 別の一人が馬を降りる。地面を確認し、焦げた土を指で触った。エラントの残骸を探すように視線を動かす。何もない。


 騎士の顔つきが変わった。


「何匹いましたか」


「数えてる余裕がなかったんですが……七、八匹はいたと思います」


 三人の騎士が顔を見合わせる。


「一人でやったのですか」


「気づいたらいなくなってました」


 また顔を見合わせた。今度は長い。


 騎士の一人が小声で言った。


「……八匹を一瞬で。騎士団でも小隊を組む数だぞ」


「転移直後に?」


「しかも跡形もない」


 三人がケイを見る。ケイは自分の手を見ていた。まだ指先が光っている。


「あの」とケイは言った。「ここ、どこですか」


 騎士たちは答えるより先に、互いの顔をもう一度見た。


初めまして。紬律と申します。

しばらくは毎日更新を続けたいと思います。

次回は翌日20時公開予定です。

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