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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
39/42

年頃

ちょっと今回のお話は長い割にそこまで重要じゃないかも?どうだろ?

エルは剣を振っていた。


訓練前の時間、昨晩のコンラッドとのやり取りが、心の中に黒いモヤを作り、それを振り払うかのように訓練場の隅で汗をかいていた。


「訓練前からトレーニングなんて珍しいねぇ」


呑気な声がしたかと思うと、グレッグが近付いてきた。小柄な割に体力のあるグレッグ。彼は以前から訓練前に自主トレをしており、その努力も段々と周囲に認められ、今では他の訓練生とも上手くやっている。


「グレッグか。なんか気持ちがモヤモヤしちゃって、思いっきり身体を動かしたくなってねぇ。でも、つい考えちゃって…」


エルは雑念を振りほどくように剣を振るうが、それが却って己との対話になってしまい逆に昨夜の事を鮮明に思い出させ、また無心に剣を振るうという悪循環に陥っていた。

「そんな考え込むなら、ちょっと剣の使い方教えてよ」

「え?」

「僕は農村育ちだから剣なんて最近の訓練で扱い方を覚えただけで実際の打ち合いなんてした事ないんだっよね。他の奴らは貴族育ちとかで既に剣を習ってたりするし…。エルはなんとなく剣に慣れてるみたいだし、ね?頼む!」

そう言ってグレッグは顔の前で手を合わせお願いのポーズをした。

金色に近い茶色の髪に茶色の瞳を持つグレッグが弟のパトリックと重なって見えた。

それは、エルの硬くなった心を容易に溶かした。


エルはニヤリと挑戦的にグレッグに笑いかけた。

「仕方ないなぁ。私の指導は甘くないですよ。」

「えー?ロジェット教官よりも?」

「んーどうだろうなぁ?」

「ヒェー!お手柔らかにお願いします!」


そうして二人で笑い合うと、訓練前の特訓が始まった。


仮想の相手を前にしての剣の扱い方は訓練で一通り習っているので、あとは実際に相手がいる状態で打ち合いをして身体を慣らしていくのが通常である。という事で二人で打ち合いをする事にした。

しかし、グレッグはこの誘いをすぐに後悔する事になった。




「そうそうそう!グレッグ上手いよ!上手い…けどぉ…脇腹がガラ空きだよぉ!」

エルはグレッグの剣を受け止めて微笑むと身体を捻りグレッグの脇腹に回し蹴りをお見舞いした。

「ぐはあぁぁ!!」


ドサっという音とともにグレッグはいとも簡単に地面に投げ出された。

「イテテ、酷いよエル!!打ち合いなのに蹴るなんて!」


グレッグは先程から何度も転ばされ、身体中は傷だらけだ。しかし、グレッグの不満をエルは気にする素振りを見せずにグレッグに手を貸し彼を立たせた。


「そうだね、誇り高き騎士道の教本では剣の打ち合いに蹴るなんて御法度だけど、グレッグが知りたいのは教本にある綺麗な剣技?それとも、戦場で生き残る術?」

「…戦場で生き残る術です。」


エルの問いに、グレッグはしぶしぶと答えたが、その答えにエルはニッコリ笑った。

「そう?じゃあやるしかないね。まぁ偉そうに言う私も戦場には出た事ないけど」

「ええええ‼︎そんなぁ‼︎」

「大丈夫‼︎戦場経験者(コンラッド)から教わった事だから。ほら、剣を構えて」

「いや…でも…そろそろ休憩…あ!訓練の時間だよ!」



グレッグはエルから目を逸らし時計塔の時間を確認すると、パァっと笑顔になってエルに向き直った。エルはグレッグの期待の籠もった視線に肩を竦めると、仕方ないなぁ、と他の候補生と同じように整列した。しかし訓練を始める時間になっても、肝心のロジェットが現れない。遅刻なんて珍しい、と整列していたエル達がざわつき始めると、一人の騎士が走ってきた。


「ロジェット教官は急な会議で遅れるから、それまで候補生は訓練場で自主練!以上。」


それだけ言うと騎士は走って戻ってしまった。

それを聞いて候補生達は座り込んで駄弁り出したり、コインを使って賭け事を始め、誰一人として自主練を行う者はいなさそうだ。

勿論グレッグもその一人で、昼寝をしようと周りをキョロキョロしていると、ポンと肩を叩かれた。

嫌な予感がして、恐る恐る後ろを振り返ると、満面の笑みでエルが立っていた。正しくは仮面に覆われた部分だけだが、グレッグには不気味な笑顔にしか見えなかった。


「ギャァ‼︎」

「酷いなぁ人の顔を見て悲鳴を上げるなんて。さぁ、さっきの続きだよ」

「お助けを〜〜〜」


笑顔のエルは青白い顔をしたグレッグの首根っこをズルズルと引っ張ると駄弁る者達を避けて場所を移動していった。グレッグを投げ飛ばしても誰にもぶつからないように。




「ハァ、ハァ、ハァ…ちょっと…一旦、休憩…しま…せんか…」

「えぇ、まだ始めたばかりだよ。」

「…鬼」

「え?何か言った?」

「イイエ、ナンデモアリマセン。」

しかしグレッグは既に地面から立ち上がる体力は無く、ゴロンと仰向けに寝転がっている。


体力だけは自信あったのになぁ。エルがヒラヒラ避けるからこっちの体力ばっかり消耗しちゃう。


グレッグは我武者羅にエルに突っ込んでことごとく避けられ倒されている。グレッグの身体中の擦り傷が数えきれなくなった頃、ある3人組が近づいていた。レッド伯爵の次男アンソニー、イェロー子爵の四男デューポン、そしてブルー男爵の五男コンスタント。

エルは内心でこの3人組を『アンポンタン兄弟』、略して『アンポンタン』と呼んでいた。


「なんだよ、俺達に弱い者イジメをするなって言ったエルがグレッグをイジメてんのか?」

「グレッグ、助けに来たぞー」

「生きてるかー?」


そして彼らは当初グレッグに因縁をつけていたあの3人組だった。あれからはエルもグレッグもアンポンタンとお互い同期として仲良くなり上手く付き合っている。

グレッグを覗き込むアンポンタンはにエルは冗談めかして反論した。


「イジメだなんて言い掛かりだよ、グレッグに手合わせをお願いされたから付き合っただけなのに酷いなぁ。ショックだ。傷付いたよ」


エルが胸に手を当て大袈裟に胸が苦しそうな演技をするのを横目に、ヘロヘロに倒れているグレッグがアンポンタンに向かって手を差し出した。その手に思わずコンスタントがその手を握りしめると、グレッグが声を震わせ力無く言葉を紡いだ。


「お…お願い、僕の仇を取って…ガクッ」


グレッグがそれだけ言葉を残すと、コンスタントの手からグレッグの手が滑り落ちた。その姿を見てアンポンタンは慟哭をあげた。

「グレッグ‼︎目を覚ましてくれ‼︎グレェェェェック‼︎」

「頼む!死なないでくれ‼︎」

「ック!俺が必ず仇を取るから、安らかに眠れ。」


エルの演技にグレッグが白身の演技で迫り、アンポンタンが設定に乗っかるという、即席の茶番の完成である。

この瞬間、自動的にエルが悪役に決定した。


コンスタントが涙を拭うフリをすると、グレッグから訓練用の剣を抜き取り、エルに剣を向けた。

「ここで会ったが100年目!親友(とも)の仇、とらせてもらうぞ!仮面野郎!」

「フン!やれるものなら、やってみるがいい。まぁお前みたいな小僧に負ける気など毛ほどにも無いがな。ハッハッハ」

「なにをぅ‼︎行くぞ‼︎覚悟しろ‼︎」


お年頃の男子が集まれば、だいたいこんな感じである。そして大人になって思い出し、身悶えするのである。良い思い出だ。


しかし、茶番とはいえ手合わせは本気だ。男爵家とは言え、さすがは貴族の息子、コンスタント。淀みない動きでエルに迫る。しかし、エルはコンスタントの剣を受けずに、何度もヒラリとステップを踏み剣すれすれを躱す。



「おい!卑怯だぞ!お前も反撃してこい‼︎」

さっきから避けてばかりのエルに対し痺れを切らしたコンスタントは戦いながらエルに文句を言った。

「えー。でも私が反撃したらすぐに決着が着いちゃうよ?」

「ふっざけんな!お前みたいなヒョロイ奴になんか負けねえよ!」


コンスタントの挑発を聞いて、エルは余裕の笑みを浮かべた。すると先程まで剣をかわしてばかりだったエルはコンスタントの剣と自分の剣を交差させ、そのまま自分の鍔の部分まで剣を滑らせた。そして、鍔で勢い良くコンスタントを押した。

細身とは言え、本物の男子であるコンスタントはそんなものではビクともしない。二人は鍔迫り合いの状態になった。ウェイトとパワーではコンスタントが有利だ。エルはどんどん圧され、コンスタントが勝つ!という瞬間だった。

エルがコンスタントの視界から消えたのだ。突然押し合いしていた相手が消えたのでコンスタントはバランスを崩した。

どこだ⁉︎とコンスタントが視界を彷徨いエルを探した瞬間に決着はついた。


「ゥグッ…!」


鳩尾に強烈な一打を撃ち込まれ、コンスタントが膝から崩れ落ちたのだ。


コンスタントが状況を把握出来ないまま倒れ込み、気付くと首元に剣を突き付けられていた。


「わかったよ、エルの勝ちだ」

コンスタントは剣を置き両手を上げ、降参の姿勢をとり、その姿にエルは満足したように剣を収めた。


「お前何で急に消えたんだ?」

鳩尾を摩りながらコンスタントは先程の攻撃の真相をエルに聞いてみた。すると、意外とあっさりエルは教えた。


「いや、消えたんじゃ無くて、鍔迫り合いの時、コンスタントのパワーを利用して私がコンスタントの懐に沈んだんだよ。こういう時は相手のパワーが強ければ強い程、バランスを崩しやすいからね。」

「おまっ‼︎そんなの卑怯じゃん‼︎」


原理は簡単だが、貴族の御坊ちゃんとして騎士道の教本しか学んでこなかった、コンスタントにとって『相手の隙をつくる』という事は想定外だったのだ。

それに比べ、エルは幼い頃からジョーイやアーシェ、そしてコンラッドから実際の戦場での戦い方を学んでいた。だから、卑怯でもなんでも生き残る事が重要だと教えられてきたのだ。


「卑怯だろうがなんだろうが、生きて戦場から戻ってこなきゃ意味ないでしょ。名誉だけじゃ生き残れないんだよ。」

「まぁそうなんだけどなぁ…」


コンスタントの中での常識が覆され、なんとなく府に落ちないが、負けは負けだと、コンスタントは肩を竦め、エルと一緒にグレッグ達の元へ歩いて行った。


すると、グレッグとアンポンが目を輝かせ二人を待っていた。


「今の凄かったね‼︎」

「エルがヒュンって沈んだと思ったら、いつの間にかコンスタントが倒れてたんだぜ⁈」

「よし!エル次は俺とやってくれ!」


「まぁ、良いけど。」


正直、さっきからずっと打ち合いっぱなしで疲れているエルだが、目を爛々と輝かせたデューポンを断る事など出来る筈もなかった。


デューポンは先程のコンスタントより少し背が低く、だが、それでも女性のエルよりは大きく筋肉もある。

二人が位置に着くと、エルはデューポンに一つ、約束をさせた。


「先に言っておくけど、卑怯だなんだって言うのは禁止だからね。希望通り実戦形式でやらせてもらうよ」

「もちろん!むしろ実戦とはどんなものなのか早く教えて欲しいね。俺の剣がどこまで通じるのか知りたいんだ。約束する」


二人は剣を構え、そして剣を交えた。



グレッグ達が二人を遠くから見ていると、いつの間にかサボっていた他の候補生達が集まってきた。

「何?何?なんか面白そうなのやってんじゃん?」

「へー、エルのやつ、小さい割にやりあえてんじゃん」


「そうなんだよ、さっきからエルに実戦形式の手合わせして貰ってるんだ」

グレッグは候補生たちに得意げに二人の対戦を解説している。


候補生達はまだ相手との打ち合いの訓練はしていないので、剣での打ち合いに興味津々だ。

その間も二人の打ち合いは続いている。


先程の素直なコンスタントの動きと違い、不規則な動きが多いデューポンの剣はなかなか動きが予測し難い。


何度目かの鍔迫り合いが行われた時、ふとエルは何かに気付いたのか、視線をデューポンから逸らし、デューポンの背後へと向けた。

しかし、それにデューポンは気付き鼻で笑った。


「フフン、そんな幼稚な手には引っ掛かんないよ。」


コンスタントと戦った時、『相手の隙をつくる』という事を聞いていたデューポンは、エルが視線を外した事はどうせ引っ掛けだろうと、エルを挑発した。

しかし、エルはデューポンの挑発など意に介さない様子で、デューポンの背後を見つめ続けている。

そして、デューポンはとうとうエルの隙をつき、止めを刺そうと剣を振り上げ、不適の笑みを浮かべた瞬間だった。

エルがデューポンの背後を見て突然叫んだ。


「あ!オッパイ丸出しの令嬢がいる!!」

「えっ!?嘘!?どこ!?…ォゴッ!」


オッパイ丸出しの令嬢と聞いて、思わず振り返ってしまったデューポンは背中をエルに思いっきり蹴り倒された。


「クソッ!イッテェ…はっ!オッパイどこ!?どこ!?」

蹴り倒され、四つん這いになりながらもデューポンは必死に探した。しかし、次の瞬間、エルが残酷なことを伝えた。


「いや、今のは嘘だよ」


「う…嘘…だと?!そんな…卑怯だぞ!!」

「いや、だから、最初に約束したよね?」


ワナワナと震えるデューポンをエルは腰に手を当てて見下ろし、「作戦勝ちだよ」と言って、エルはデューポンを立たせようと手を差し伸べた。


パチン!


しかし、デューポンはエルの手を振り払い、そして強い視線でエルを睨みつけてきたのだ。


「最低だ。」

「そりゃ嘘つく事は騎士道には反するけど…」


エルは叩かれた手を摩り、口を尖らせて反論したが、デューポンの怒りは収まらない。


「違う。その事に怒ってるんじゃない。」

「じゃあ何がダメだったのさ」

「俺が怒ってるのは…オッパイを期待させておいて絶望させた事だ‼︎」



「は?」


予想外の言葉にエルは口をあんぐりと開けていた。

聞き間違い?いや、でも、文章的には合ってる。だけど文脈的にここでそんな事いう?


しかし、エルの思考とは裏腹にデューポンは本気で悔しそうに地面を拳で叩いてる。なんなら血の涙を流しているようにも見える。


「え?ちょっ?意味わからないんだけど、デューポンは私が嘘ついた事は怒ってないの?」

「もちろんそうだ!」

「嘘の内容がオッパイを期待させて実際には無かったから怒ってるの?」

「もちろんそうだ!」


「…。」



エルは思わず大きな溜め息を吐いた。しかし気を取り直し、一応決着は着いたという事で、エルはグレッグ達の方へ戻ろうと声を掛けた。そして、いつの間にかほとんどの候補生達がエル達の打ち合いを観戦するために集まっていた事にエルは驚いた。

エルが戻ると候補生達が労ってくれた。

「いやぁ、皆に見られてたんだねぇ、恥ずかしいなぁ」

「作戦勝ちだな」

「意外と良い動きをするじゃないか」


そして、話題は自然と嘘の内容になった。


「やりあってる最中にオッパイとか酷だろー」

「あれは絶対俺も引っ掛かる」

「俺なんかさっきの時も後ろ振り向いたよ」

「一気に妄想膨らんだなぁ」

「正直ヤバかった」

「うんうん」

「でも、あれは残酷な手だなぁ」

「いくらなんでもなぁ」


いつの間にかエルに批判が集中してしまい、エルは面白くないのか反論した。


「でも、最初から卑怯な手を使うとは予告したようなものだし…」

「内容にも配慮ってもんがあるだろ」

「いやいや、意味がわからないよ。配慮ってどういう…」


しかし、なかなかエルに同意をしてくれるような仲間がいない。

「エル、お前だって男なんだから察してやれよ」

「布で隠された部分を実際に捲ってみたら…」

「たわわな果実のごとく…」

「はぁあぁ…」


仲間だと思っていた候補生達の聞きたくなかった性癖にエルは思わずドン引いてしまい、無意識に思考止めた。


「エル、ゴミ虫を見るような目になってるよ。」

「はっ!!」

グレッグが、耳打ちをしてくれたお陰で、エルは慌てて意識を取り戻すことが出来た。しかし、思考回路が戻りきっていなかったため、とっさに投げ掛けられた言葉に反応してしまった。


「俺達童貞には刺激が強すぎるのはエルだってわかるだろ?」

「いや、私は童貞じゃ…」


なくて女だから…と言葉を続けようとしてエルは口を噤んだ。思わず変に訂正しようとしてしまったのだ。

危なかった!!危うく女だって自白しそうになった。

「あのね、違くて、ね?」

エルは慌てて取り繕うとしたが、事態はそう簡単にはいかなかった。先程まで労ってくれた仲間達は、突然百戦錬磨の剣士かというくらいの殺気を放ちこちらを睨んできた。



「エル、今なんて言おうとした?あぁ?」

「いや、あのね?ちょっと落ち着こう?ね?」


ヤバイ、バレたかなぁ?

エルは背中を伝う汗が妙に生々しく感じた。


「『私は童貞じゃ』の次は何だ?文脈的には否定語だよなぁ」

「まさか『ない』じゃないよなぁ?」

「なぁ、教えてくれよ?」

「まさか『私は童貞じゃない』って言おうとしたのか?」


いや、そっち!?

エルは、内心バレたのかと思っていたが、候補生は違う意味で問い詰めているのだとわかり、つい油断して口元を緩めてしまった。


「おい、エル!何笑ってやがる!」

「お前、『非童貞』だから俺達を笑ってるんだな!」

「そりゃ確かに『非童貞』のエルには残酷な嘘の意味がわからないよなぁ?」

「俺達はなぁ…『非童貞』のエルと違って未だ見ぬ未来に憧れてるんだ!」

「それを良いことにお前は…うぅ」


エルの発言によって、悔し涙を流す者までいる。状況はますます悪化している。


いやいや、いつの間にか非童貞のレッテル貼られてるけど、違うからね!


エルは慌てて弁解するが、なぜか事態は悪い方向へ進むばかり。

「エルばっかりずるいぞー!俺達にも幸せを分けろ!」

「初めてはどんなんだったのか教えろー!」

「女性はトイレはしないって本当なのか!?」


「いや、だから、落ち着いて…。ってか、最後の質問は女性もトイレはするでしょ普通に…」

エルは候補生達に取り囲まれ、先程より状況は悪化。あまりの恐怖の質問責めに思わずエルが発狂しそうになった時、事態は動いた。


「おい!お前ら見苦しいぞ!!」

大勢でエルに詰め寄る候補生達を一喝し、助けてくれたのはアンソニーだった。彼は集団の後ろから様子を見ていたのだ。

彼は候補生の中で一番ガタイが良く、みんなからも兄貴的存在として慕われている。そんな彼が突然怒鳴ったので、同期達は驚いて一気に静かになった。


良かった、アンソニーが皆をなだめてくれたお陰でようやく事態が落ち着いた。


アンソニーありがとう。


エルがそう声を掛けようとした瞬間、事態は悪化した。

「エル、俺と勝負しろ。」

「へ?」

「エルは王宮で働いてるからメイドさん達とも知り合いなんだろ?」

「まぁ、一緒に仕事したりするし…」

「俺が勝ったら、王宮のメイドさん達との食事会もとい合コンを企画しろ」

「え?意味わかんな…」

「行くぞ!」


アンソニーは巨体を揺らし魚雷のように真っ直ぐにエルに突進してきた。


「えっ!?ちょっ!?まっ!!ぎゃー…!」







******

一方、その頃。

「トム爺さん、エルは上手くやっていますか?」

「ははは、やはりハンク様は可愛い弟子が気になるますか」

「いや、まぁ気になるといいますか…」

「彼は一生懸命頑張ってますよ。まだイーサンには触らせて貰えないようですが、ふふ」

「そうですか。」


トム爺さんとハンクが午後のお茶をしていた。

「良い天気ですねぇ。」

「そうですねぇ。」



******


エルは恋愛について、恋愛系のワードはキスを含め口に出すのも恥じらう癖に、中学生男子が好きそうなものは、候補生達の会話から全て学び、抵抗がなくなっているという元王女としてあるまじき状態。

ちなみに、「オッパイ丸出し令嬢」作戦はジョーイが16歳の頃にアーシェに使って勝ったは良いものの、アーシェに逆ギレされるという現在のエルと同じ状態になりました。

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