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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
36/42

同情

長らくお待たせいたしました。

ぐぇぇ…疲れた…。

エルはヘロヘロになりながら休憩場所を探していた。

今日も安定の容赦ないロジェットのしごきにエルはふらつく足取りで訓練地をさ迷う。

エルが訓練に参加するようになって何日が経ったのだろうか。

それなりにエルも訓練をこなすせるようにはなっていたが、それでも疲労度は半端ない。



あそこだ。あそこの木陰のベンチがいい。

エルは見つけた休憩場所にふらふらになりながら近づいた。


やっとの思いでベンチに腰掛け、ほっと一息つくとエルは空を仰ぐ。

ロジェットはとても良い人だと思う。訓練の外では。

そう、ロジェットは訓練となれば人が変わる。さすがは騎士団に呼び戻された人物なだけあり、訓練の厳しさは伊達じゃなかった。

さすがにエルが前世で見たことあるような、某国の軍隊のように『豚野郎』だの『腰抜け』だのと叱咤されることはないが…

だが、近い時があると思ってしまうのは気のせいではないだろう。


ふと、近くの倉庫が視界に入った。なにやら倉庫の陰で数人の候補生が集まっている。エルは特に気に留めず目を瞑ったが、聞こえてきた会話にそのまま午睡を続けることは叶わず、思わずそちらを凝視した。


「奴隷の癖に生意気言ってると痛い目見んぞ!」

「いい加減自分の立場を考えろ」

「お前みたいなやつがいても邪魔なだけだ!」

「出てけよ!」


倉庫の陰では数人の候補生が集まり、小柄な少年を取り囲んでいた。



くだらない。

寄って集って弱い者虐め。誇り高き騎士団の候補生とは思えない行為。

むしろ弱い者虐めをする体力が余っているなんて羨ましい。


候補生達の言葉を聞いてエルは嘆息し、眉間の皺が深くなるのを禁じ得なかった。


しかし、そんな事はお構い無しに集団の暴言はエスカレートしていく。

「お前見てるとイライラすんだわ。消えろよ。」

「奴隷風情がっ!」



次々と浴びせられる暴言。しかしそんな状況でも囲まれた少年は必死の反抗を見せる。

「き…君達にそこまで言われる筋合いは無いよ!」

しかし、反抗的な態度が気に入らなかったのか、候補生達は尚も少年を責め立てた。

「奴隷のお前が貴族の俺達に逆らうのか?」

「生意気言ってんじゃねぇぞ!」

「おい!痛い目見せたら少しは大人しくなるかな?」


一人の大柄な候補生がニヤリと嗤い拳を振り上げた。


ちょっといくらなんでもやり過ぎでしょうよ。あーもう面倒くさっ。

エルは溜め息を一つ吐くと、重い腰をあげた。




「僕が何をしたっていうんだ!」

「うるせー!目障りなんだよ!」


小柄な少年は振り上げられた拳を見上げると、殴られるかもしれない状況に、防衛反応から思わずぎゅっと目を瞑り、身体を強張らせ痛みに耐える姿勢をとった。


しかし、いつまで経っても痛みや衝撃は襲ってこない。

恐る恐る少年が目を開けると、大柄な候補生が腕を振り上げたまま固まっている。いや、振り上げた腕をそのまま捕まれていたのだ。驚くことに腕を握っていたのは最近加入した細身の仮面の少年エルだった。


「私には貴殿方のような行いの方が、目障りで且つ騎士団に相応しく無いと思いますが。」

「いてててっ!や、やめろ!」


エルは候補生の腕を握ったまま捻り上げた。以前コンラッドに教えられた護身術が今初めて役に立ったとエルは握った腕を捻り上げながら、自分に感心した。


「おいっ!お前離せよ!」


エルが腕を捻り上げ顔面蒼白になっている候補生を見て、別の候補生達はたじろぎながらもエルに腕を離すように声を荒げている。


「貴殿方は貴族だと仰っておりましたが、ここでは貴族も市民も奴隷も関係ありません。ここ騎士団では強い者が上り詰める世界だと認識しておりましたが、違いますか?」


「うるせぇ!お前だって奴隷のくせに!ハンク様の補佐をしているからって調子にのるなよ!」

「そうだ!そうだ!お前みたいなやつなんかすぐ捨てられる!」

「補佐っていったって、どうせ娼婦みたいに身体を使って貰った仕事なんじゃねぇか?」



は?娼婦?冗談でしょ?

私がハンクに娼婦まがいの事をしたですって??


「…今何て言いました??」


エルは思わず聞き返した。あまりの予想外の言葉に、語尾の震えは止められなかった。


「しょ、娼婦まがいの事をしてるって言ったんだ。」


エルの怒気を含んだ声に候補生の一人がたじろぎながらも答えた。


信じられない。そんな風に思われてたなんて…。


怒りで思わず力が入ってしまったエルは握りしめた候補生の右腕を無意識にミシミシと締め上げていた。一方、腕を捻り上げられた候補生は痛みでとうとう泡を吹いている。しかしエルは構わず締め上げながら、他の候補生達を睨み、話を続ける。


「どうして私の仕事と娼婦が繋がるのですか?」


泡を吹いている候補生を見て、他の候補生達は怯えながらも、なんとか虚勢を張り、その中の一人が答えた。

「みんな言ってるよ!お前みたいな非力な奴がハンク様に選ばれる筈がない!きっと身体とかを使って召し抱えて貰ったんだろってな!卑怯なヤツめ!」

「仮面被ってるのだって、元男娼の身分がバレないように隠してるんだろう」

「仮面を被るなんて卑しい身分を隠してると相場は決まってるんだ!」


候補生の言葉を聞いてエルは眩暈がした。

あの気難しいハンクに認められるために、それなりにキツイ言いつけを守り、追い出されないよう、この生活を維持しようと努力してきたつもりだけど…。それがこんなくだらない噂の肥やしになっていたとは。

というか、そもそも私はハンクに選ばれたわけではないわ。


はぁぁぁ…とエルは大きな溜息を一つ吐いた。

エルは捻りあげていた候補生を他の候補生に乱暴に押し付けると、頭を抱えた。


「貴殿は何か誤解していらっしゃるようですが。私は決してハンク様に選ばれたわけではありません。むしろいつ追い出されるかわからない身の上です。」

「嘘だ!だったらなんでお前だけそんな特別な所で働いているんだ!」


エルの言葉に候補生達は納得いくわけがなく、強硬に食い下がる。確かにハンクの補佐という立場は、嫉妬の矛先になるには充分すぎる地位だろう。しかも仮面を被り身分がはっきりしない人間がウロウロしていれば誰だって面白くないだろうし訝しむ。だが、エルだって生きなければならない。そのためにはハンクの、いや、コンラッドの側で働かなければならない。いつか訪れるであろう贖罪の機会を待ちながら。


「そもそも選ばれたのではなく、私は拾われたのです。ハンク様にではなく陛下にですが。」

エルの言葉に候補生達は目を丸くした。

候補生達はエルをハンクのお気に入りだと思っていたが、実は国王陛下が関与していたと聞いて動揺を隠せなくなっていた。

「嘘を吐くな!国王陛下がお前なんかを気にするかよ!」

「嘘も大概にしろよ!」

候補生達の言葉に、話が通じない動物と会話をしている錯覚に陥ったエルは眩暈だけでなく頭痛もしてきた。しかしこのまま放っておけば、変な噂が広がる。それならいっそ最もらしい話を広めてしまえば良いのだろうと、以前コンラッドと口裏を合わせていた設定を思い出した。


「私は先の戦で家も家族も全て失いました。そして、自らも戦火の火傷により私の顔上半部は灼け爛れ、生死の境を彷徨っておりました。そんな絶望の淵に立たされていた私を、偶然視察中だった陛下が拾い、王宮にて処置をしていただきました。この仮面は醜い火傷跡を覆い隠すために陛下から賜ったものになります。処置のおかげにより私は一命を取り留めましたが、それでも寛大な陛下から怪我が完全に治るまでは側で療養するようにと、ハンク様の補佐をするという名目で側に置いて頂いております。しかし私も命を救って頂いた陛下のために少しでも働けたらと、今回この騎士団の訓練に加わらせて頂いた次第です。私は陛下のため、ひいてはこの国のために働けたらと思っていますが、貴殿は違うのでしょうか?」


あまりにも痛々しいエルの話に聞き入っていた候補生た地は、一様に目を潤ませたり、同情的な顔でエルを見ていた。


「その話が本当なら…えぇっと…男娼だと言って悪かったな。」

さっきまでの威勢はどこに行ったのやら、一人の候補生が申し訳なさそうにエルに謝罪をしてきた。

「お前も苦労してるんだな、すまない」

「訓練のキツさにイライラして、ついお前らに当たっちまってよ。許してくれ」

一人の候補生に続き、他の二人も謝罪をエルにし、そして取り囲んでいた少年にも謝罪をした。

さすがに貴族として素直に育てられたのか、エルの言葉を聞いた候補生3人組は、申し訳なさそうに落ち込んでいる。エルは3人の落ち込みように良心がチクリと痛んだが、これ以上詮索されないように、嘘の情報を過剰に公開することで、身を守ることを選んだ。そして駄目押しとばかりに、最後に付け加えた。

「ちなみに私は顔の怪我が乾く前から仮面を被っていたので、今は再生された皮膚と仮面がくっついてしまいました。そのため、以前医者が仮面を無理に剥がそうとしましたが、出血するばかりで、仮面を外す事は諦めました。今後は身分が上である貴殿方の前で仮面を外さない非礼をお許しになると、とても有り難いです。」


エルの言葉は3人にとってトドメとなったようだった。一人は痛々しい顔をし、もう一人は顔面蒼白で目を剥き、もう一人は今にも倒れそうだった。

ここまで言えばこの3人がスピーカーとなり、明日には候補生の間でこの話が広まるだろう。そうすればむやみにエルの仮面を暴こうとする愚か者がいなくなるはずだ。

嘘を吐く事を良いとは思わないが、これ以上変に詮索されるよりは、偽りだとしても、それらしい秘密の真相を聞ければ人間は満足するものだ。エルは、謝罪しトボトボと去っていく3人組の後ろ姿を見送った。


「あの…助けてくれてありがとう」


エルが振り向くと先ほどまで囲まれていた少年がエルに頭を下げていた。エルは慌てて少年の頭を上げさせてた。

「頭を上げてください。お礼を言われる事ではありません。それに彼らもきっとそこまで悪い人間では無いと思います。ただ、人間とは弱い生き物で、集団行動という心理状態の中では、己よりも弱い者を作ることで心の安定を図ろうとする輩が少なからずいます。しかしさっきの彼らの様子ならもうこんなことはしないでしょう。それにこれからは騎士団として共に闘う仲間です。貴方は嫌な思いをしたかもしれないが、私に免じて彼らを許してやってはくれないでしょうか?」


少年はエルの言葉に呆気にとられていたようだが、ハッとしてニコリと笑った。

「なんか難しい事言っていてちょっとわからなかったけれど、やっぱり僕は貴方に救われたんです。それに関してはお礼を言わせてください。僕は奴隷のグレッグって言います。よろしく」

「私は奴隷のエルと言います」

グレッグは人懐っこそうな笑顔で握手を求めてきたので、エルもそれに応えた。



エルはその後、休憩がてらグレッグと少し話をした。

グレッグはエルより3歳年下の13歳で、半年前まで家族とともに奴隷族として、郊外の農場で働いていたらしい。優しい両親と仲の良い姉が一人いたそうだが、半年前、家族旅行で出掛けた先で嵐に巻き込まれ、一家が乗船していた船は沈没。グレッグは奇跡的に助けられ生還したが、他の家族は残念ながら還らぬ人となってしまったそうだ。

それからは、両親が働いていた農場で世話になっていたが、騎士募集の情報を聞きつけ入団したそうだ。


「農場で大人になるまで面倒見てくれるって引き留められたんだけどね…。農場は家族の思い出が多すぎた。僕にとって息苦しい場所になっちゃってたんだ。だから騎士団に逃げてきたんだ。ここなら入団試験に受かりさえすれば、団の寮に入れるし、衣食住には困らないから。運が良かったのか、農場で働いていたせいか、体力だけはあるしね。」


最後にはイタズラそうに笑ったグレッグ。しかし、エルにはその笑顔がとても痛々しく見てられないものだった。

そして、エルは思わずグレッグを抱き締めずにはいられなかった。

「エル?」

突然の事にグレッグは驚いた様子だが、エルはそのまま言葉を紡いだ。


「グレッグは今までとても辛い思いをしてきたにもかかわらず、負けないように努力をしてきたんですね。とても偉いと思います。」


エルよりも年下のグレッグは、家族を失いながらも、懸命に生きようとしている。エルは抱きしめたままグレッグの頭を撫でた。

しかし、エルの行動に対し、グレッグはエルから無理に体を引き剥がし、怒気を孕んだ声でエルを見上げた。


「何?突然の自分より不幸な人間がいたと思って嬉しい?」

「え?そんなつもりでは…。」


グレッグの言葉に思わずエルはたじろいだ。今の言葉のどこにグレッグの怒りのスイッチを押してしまったのか、エルには検討がつかず動揺が隠せない。

「グレッグ、そんなつもりはなかったのですが、もし気分を害してしまったのなら謝ります。」

「はぁ?そんなつもりなかった?じゃあなんのつもりなのさ?僕の身の上話を聞いて同情したんでしょ?」

「いや、同情というか…今まで辛い思いをして大変だなって…」

「たから、それを同情っていうんだよ。自分よりも可哀想な奴を見つけたからって急に上から目線で同情されたってこちらは全然嬉しくないよ。僕の周りにはそんな話はごまんとある。むしろ僕から言わせるとエルの方が不幸だからね。顔が灼け爛れて仮面がくっつくなんてそうそうない不幸な話だからね。」

「いや…まぁ…確かにそうですよね…すみません…」


いきなりのグレッグの豹変にエルもタジタジになり謝るしか出来ない。

しかし、その姿を見てグレッグはなおもイライラした様子だ。


「別に謝ってほしいわけじゃないよ。ただ…」

「ただ…?」


グレッグが言葉を切ると急に寂しそうな表情になり、エルは思わず次の言葉を促していた。


「ただ、不幸の傷を舐め合う為の同情はして欲しくない。そんなのは偽善だ。それよりも、これからを切り拓く仲間として、友達になって欲しいだけなんだ。」


グレッグは視線を落とし最後の言葉を消え入りそうに話した。きっと恥ずかしかったのだろう、俯いたグレッグの耳が赤い。

エルは反省した。いつまでも己の過去に囚われ、不幸だと嘆いたのは自分だった。だから自分よりも不幸なグレッグの話を聞いて同情する事で自分はこれよりもマシだと、精神の安定を図っていたのではないか。これでは先程の訓練生と同じだ。


「グレッグ、指摘してくれてありがとうございます。貴方の言葉のお陰で目が覚めました。こちらこそ貴方のような友と出会えて嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。」

エルの言葉にグレッグは嬉しそうにえへへと笑った。




━━━━

「という事が今日あったんですよ。」

「ほお…。」


エルはコンラッドにお茶を注ぎながら言葉を終わらせた。


ここはエルの部屋。毎日の夜の定例報告中である。

二人はテーブルを囲い、向かい合って座っている。


「エルは…」

「はい。」


コンラッドはエルに注がれたお茶を眺めながら次の言葉を探している。そんな様子のコンラッドをエルは急かすわけでもなく次の言葉を待ちながらお茶を飲んでいる。


最近はこの二人だけのゆっくりした時間が心地好い。

エルは満足そうにお茶を口に含んだ。


「エルはそうやってすぐ男に抱きつくのか?」

「うっっげほっ!!ごほっ!!」


コンラッドからの予想外の言葉にエルは思わず咽せた。お茶を吐き出さなかっただけ良しとしよう。


「なななな何を突然そんな事をいうんですか!!男に抱きつくってさっきの話ですか?聞いてましたか?グレッグは年下ですよ?!」

「年下っていったって13歳だ!それなりに思春期だろ!」

「思春期ったってグレッグは私を男だと思ってますよ!」

「そ、そんなのは関係ない!そうやってエルは無闇矢鱈に相手と接触するのかと聞いているんだ!!」

「そそそそんなわけないじゃないですか!!というか、さっきの話のポイントはそこじゃないですよ!」

「わかってるけど気になったのだから仕方ないだろ!」

「そんな、私が誰にでも抱きつくわけないじゃないですか!!」

「じゃ、じゃあ、例えば俺には抱きつかないのか!?」

「なっ!!急になんていうこと言うんですか!?」



コンラッドの急な問いかけにエルは顔を真っ赤にしながら答えに窮してしまった。予想外の話の展開過ぎてエルの思考回路はメチャクチャだ。



どうやったってグレッグとコンラッド様じゃ抱きつく相手の差がありすぎるじゃない!!

というか、そもそもそんな事急に聞かないでよ!!


「良いから答えろ!俺には抱きつけるのか?」

なかなか答えを出さないエルにコンラッドは尚も答えを急かせる。


あぁもぅ!そんな事恥ずかしくて言えるわけないじゃない!!

どうにか話を逸らさないと…。


「コンラッド様、それよりもお茶が冷めちゃう…」

「どうなんだ?」


うぅ…。話を逸らされてくれない。

というか、コンラッド様の顔が近い。


コンラッドは鬼気迫る勢いで上半身を乗りだしエルを追い詰める。

「コンラッド様…」

「答えは出たか?」


あぁもうっ!これ以上はこの話を切り抜けないと進みそうにないわね。

でも、何て言えば良いのよ。


エルはどうにか安牌な答えを模索したが、きっとコンラッドはそれを許さないだろう事は明白だった。



エルは昼間に襲ってきた頭痛がまたぶり返した気がした。それでも、ポツリポツリとコンラッドに聞かせるようにゆっくり紡ぎだした。


「グレッグは…まだ弟のような存在に思えたのですが…コンラッド様の事は…一人の男性として見てしまうので…その…そういうのはちょっと…恥ずかしいです…」


うきゃー何を言ってるんだ私!!顔から火が本当に出そう。恥ずかしい!!


エルは自分の言葉に思わず恥ずかしさから両手で顔を覆ってしまい、反対にコンラッドは徐々に冷静さを取り戻したのか、先程のエルの言葉を反芻している。


「俺を…男として…俺を…一人の男として…」


コンラッドは言葉を反芻していたかと思うと、突然手元にあったお茶をぐいっと一口で飲み干すと立ち上がった。


「きょ、今日はこれで失礼する。」

「え、ちょっ!コンラッドさまぁ!」


コンラッドは茶器の片付けもそこそこに何か慌てた様子で出ていってしまった。一人、呆然としたエルを残して。


「今日はなんだなとても疲れたわ…」

エルはコンラッドが出ていった扉を見つめ独りごちた。



━━━━━

危なかった。

危うく彼女の部屋で理性を飛ばすところだった。


コンラッドは自分の寝室に戻るとそのままベッドに倒れこんだ。

先程から彼女が恥ずかしそうに言った言葉が頭から離れない。


『コンラッド様の事は…一人の男性として見てしまうので…』


彼女の言葉を思い出すだけで頬が自然とにやけてしまう。

自分を男性の対象だと見てくれているのであれば、抑え込んでいた期待が溢れてしまう。

もしかしたらもっと親しい関係になるかもしれない。


期待は膨らみ、そして、萎んだ。

現実は甘くない。

このままの関係を続けてしまえば、彼女を檻から自由にすることは出来ない。そして、彼女を檻に閉じ込めたのは他でもない自分であると。


俺はこの国の最高責任者になった。己の欲望一つで法律を変える事だって出来る。だからこそ、己を捨てなければならない。


彼女は大切な存在だ。

彼女は誰よりも気高く、そして誰よりもこの国を想っている。だからこそ、己の欲望だけで彼女を檻から出してしまったらきっと彼女は俺に幻滅するだろう。


いつかきっと、彼女を、国を納得させてやる。




なかなか更新が遅く申し訳ないです。それもこれも他の小説が面白すぎるから…。あのような素晴らしい小説を書けるようになりたいです。

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