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第2話 廃宿に残された祈り

広間には、黴と湿った灰、それに古い木材の匂いが染みついていた。屋根の穴から雨が滴り、歪んだ床板と壊れた卓へ落ちている。


何か月も前に、誰かが扉の前へ椅子を積み上げようとしたらしい。


何年も前かもしれない。その努力は、残っていなかった。


アリステルがくしゃみをして、野蛮人の建築がどうのと小さく呟いた。彼女は分別より優雅さを優先する足取りで、瓦礫を避けて進んでいく。


片手はレイピアの柄に置かれたままだ。彼女は、決闘場と磨き込まれた大理石のために作られた女だった。腐った床板や、ロットの巣のためではない。それでも、足の置き方には本物の鍛錬が見えた。


厨房を先に見つけた。


光景より先に、匂いが来た。

遺体は一つではなかった。

三つ。


男が奥の壁にもたれかかっていた。喉は背骨に届くほど深く切り裂かれ、錆びた剥ぎ取りナイフをまだ握っている。


その横には、床に打ち込まれた鉄輪へ鎖でつながれた女と子供が横たわっていた。湿気と古い血で黒ずんだ毛布に包まれている。


女の方は、もう十分に変わっていた。逃れようとして木の床を掻きむしった指が、板に溝を刻むほどには。


子供は、そうではなかった。


三人の手首には、祈祷札が結ばれていた。


暁の印。

旧き信仰。


背後の戸口にアリステルが立つ気配がした。


息を呑む音が聞こえた。


俺は振り返らないまま後ろへ下がり、彼女の肩に手を当てた。


「見るな」


それでも彼女は俺の脇から覗こうとした。


「ラフェル――」


「見るなと言った」


角度が悪かった。


俺の手は肩から滑り、互いに気づく前に彼女の胸の中央へ移っていた。


柔らかい。

濡れた布越しでも、温かい。

彼女を止めるために触れる場所としては、明らかに間違っていた。


彼女の全身が跳ねた。


俺の頭が状況に追いつくまでにも、一拍かかった。


すぐに手を離す。


短く、見事なほど気まずい沈黙が落ちた。


次の瞬間、彼女は両耳まで赤くして振り向いた。


「この無礼者――」


「血を踏んで叫ぶところだった。怒るのは後にしろ」


それで彼女の機嫌がよくなることはなかった。だが、部屋へ飛び込むのは止まった。


再びしゃがみ込み、遺体を調べた。


男は、司祭たちよりもよほど正確に事の進み方を理解していたのだろう。熱が正気を奪う前に、自分の喉を切った。大切な二人がさまよい出ないよう、鎖でつないだ。


それでも祈った。


男の膝の下に、茶色く染まった漆塗りの木片が落ちていた。古い神殿の標だ。そこには、暁の女神の印が刻まれていた。


背後で、アリステルが完全に動きを止めていた。


芝居がかった硬直ではない。

怒りに固まったわけでもない。


そうでないことをずっと祈ってきた現実に、ついに追いつかれた者の静けさだった。


俺は彼女と部屋の間に立ち続けた。


それでも、彼女は気づいた。


俺の脇から覗こうとしなくなったのでわかった。


「この方は……」


声が、彼女の意志に反して細くなる。


「誰も傷つけないように、していたのですか?」


「そうだ。自分たちが何になるかを理解するだけの頭はあった。それでも、救われる可能性を残すくらいには希望を捨てていなかった」


「では、神殿は?」


俺は手の中の標を見た。古い印は半分ほど削り取られていた。誰かが傷つけようとして、途中で嫌になったみたいに。


「これが神殿から始まったのか。あるいは、始まった時に人々が這って向かった先が神殿だったのか。どちらかだ」


彼女の指が、レイピアの柄を強く握った。


「家のためには、後者であってほしいですわ」


「家の都合なんて、そう通らない」


彼女は答えなかった。


雷が、崩れた屋根のどこか上で鳴った。宿は風と雨に震えていた。


暗くなる前に全ての部屋を確認し、壊れた卓を扉の前に押し込み、広間の中で一番腐りきっていない隅を選んだ。


あの程度のバリケードで、大したものは止められない。目的はそこではない。夜中に何かが動くなら、まず音を立ててほしかった。


アリステルは、俺の作業を見ていた。


怖くないふりは、もうやめている。今は、恐怖を怒りに見せかけようとしていた。


進歩ではあった。


作業を終えると、旅用のランプに火を入れ、俺たちの間に置いた。膝が、昔より大きな音を立てて鳴った。アリステルは何も言わなかったが、鼻先がかすかに歪むのは見えた。


彼女の目には、俺はまだ始まってもいない人生の終幕みたいに見えたのだろう。


俺は荷物から布に包んだ固いパンの端と燻製肉を一本取り出し、部屋の向こうへ放った。


アリステルはそれを両手で受け止め、瞬きをした。


「お腹は空いておりませんわ」


反射的な返事だった。


「だろうな。怯えた貴族令嬢は、よく食べることで有名だからな」


彼女が俺を睨む。


俺は水袋を取り出して食料の横に置き、自分の分を取り出して座った。


「本当に、癇に障る方ですわね」


「食え」


俺が見ていないと思った時だけ、彼女はようやく一口かじった。


彼女は部屋の許す限り俺から離れて座り、髪から水を絞っていた。苛立ちながらも品位を失わないその仕草は、貴族にしかできないものだった。


外套は、濡れているどころか、もう役に立たなくなっていた。その下の服は、さらにひどい。湿った布が、張りつくべきではない場所にまで張りついている。


呼吸のたびに胸の柔らかな重みをなぞり、細い腰の線を浮かべ、そのまま腰の丸みを追って、甘やかされた姫君の歩幅ではなく決闘者の足さばきのために鍛えられた、長く締まった脚へと流れていく。


淡い毛並みの耳には、まだ水滴が残っていた。


尾は最初、身体のそばで固く丸まっていたが、俺の視線に気づいた瞬間、わずかにほどけて一度だけ揺れた。


彼女の手が外套の端をつかみ、胸元へ引き上げる。


「楽しんでいらっしゃるの?」


声は冷ややかで、頬が赤くなっていないふりをするには十分だった。


「それとも、見つめることも護衛料に含まれておりますの?」


「知らないな。俺はだいたい魅力で雇われる」


彼女の目が細くなる。


「だから空いていたのですわね」


俺は喉の奥で一度だけ笑った。


いた。

そこにいた。

怯えた貴族の誇りだけではない。


絹の下に鋼がある。誰かが彼女に、尖ったものの使い方を一つ以上教えていた。


その後、彼女は黙った。


視線は俺ではなく、ランプの火へ落ちている。


「女神がお応えにならなければ……」


ほとんど独り言のような声だった。


「私は……」


俺は何も言わなかった。


胸元に寄せた外套の布を、彼女の指が一度だけ強く握る。


「護衛の仕事かもしれませんわ」


彼女は静かに続けた。


「あるいは、冒険者。必要なら、闘技場に立つことも」


「そうか」


「ええ」


彼女は顎を上げた。


「フリルグレイヴ家は、私に手ぶらで戻り、愛想よく謝るための教育を施したわけではありません」


俺はレイピアを見た。次に彼女の靴を、肩の構えを、座っている時でさえ足を置く位置を見た。


「違うな。君はフェンシングを叩き込まれただけだ」


彼女の耳が一度ぴくりと動いた。


「ほかにもございます」


口元が細くなり、それから持ち直す。


「冒険者なんて、君は嫌いになる」


「それでも、あなたよりは生き残れると思いますわ」


「低い基準だ」


彼女の口元が、不本意そうにわずかに動いた。


だがすぐに引き締まる。


「それが駄目なら?」


今度の沈黙は長かった。


アリステルはランプの火を見つめ、まるでその言葉に毒でもあるかのように、無理やり吐き出した。


「その時は、務めを果たします」


家のために貴族の女が自分を壊す方法など、いくらでもある。


彼女は、そのうちのいくつかを明らかに考えたことがあった。


俺は壁にもたれた。


「自分を切り売りするには、ずいぶん腐った言葉だな」


彼女の目が、即座に鋭く光った。


「貴族の義務について、あなたに何がわかりますの」


「何も。ただ、ろくでもない取引なら知っている」


彼女は外套を握りしめた。


「まるで私が、捨てられた子供か何かのようにおっしゃいますのね」


「家が何代分もの失敗を一人の娘に背負わせて、祈りで解決しようとしている、と言っている」


部屋が静まり返った。壊れた屋根を、雨が叩く。ランプの火が一度だけ揺れた。


ようやく視線を向けると、アリステルの表情は変わっていた。誇りはまだある。警戒もまだ消えていない。だが今、彼女は俺を見ていた。


俺が彼女を侮辱しているのか、憐れんでいるのか、それとも警告しているのか、判断できない顔で。


俺はその顔が気に入らなかった。


俺は、俺のような男が危ない道中で眠る時のやり方で眠った。片手をナイフの近くに置き、朝を信用しない。


真夜中を過ぎた頃、音が変わった。


何かが厨房の床を引きずっている。


俺が完全に立ち上がるより先に、アリステルは目を覚ましていた。


気づいた時には、俺はもう彼女の方へ動いていた。片手を伸ばし、本能で彼女を背後へ押しやろうとしている。


触れた瞬間、彼女はこわばった。だが今度は、逆らわなかった。


認めるべきことに、今回は叫びもしなかった。ただ顔を青ざめさせ、レイピアへ手を伸ばした。


最初に戸口へぶつかってきたのは、死んだ女だった。片足には、まだ鎖が巻きついている。顎はおかしな角度でぶら下がっていた。毛布が、死装束のように後ろへ引きずられている。


その後から、子供が四つん這いで這ってきた。動くたびに、頭がぐらりと揺れる。


アリステルの喉の奥から、低い音が漏れた。


恐怖だった。

弱さではない。

ただの恐怖だ。


焼いておくべきだった。

あるいは厨房を一度で済ませず、もう一度確認するべきだった。

今さら遅い。


「下がっていろ」


女は床板に鎖をこすりながら、前へ這ってきた。


鉄の輪が許す限り、こちらへ飛びかかろうとする。


俺は厨房の卓を蹴り飛ばしてぶつけ、衝撃を受け止め、そのままナイフを口蓋へ突き上げた。


女は鎖に引かれたまま、重く床へ落ちた。


まだ痙攣していた。


子供は這い続けた。


アリステルが動く。


彼女が突くより先に、俺はその手首をつかんだ。


「やめろ」


彼女が硬直する。


小さな身体は、落ちた毛布の上を這っていた。


指は古い血で滑り、口は音もなく動いている。


俺は彼女の前へ出て、それが俺たちのどちらかに触れる前に終わらせた。


部屋が静まり返る。


アリステルは凍りついたように立っていた。


レイピアは半ば上がったまま。


呼吸が速い。


顔は、瞳の黒だけが塗られたように見えるほど白くなっていた。


一瞬、何か言うかと思った。


だが彼女は顔をそむけ、片手を壁についた。


肩が一度だけ震えた。


一度だけ。


俺は二人の遺体を厨房へ引き戻し、火をつけた。


もう残っているまともなことは、それくらいしかなかった。


煙が壊れた屋根へ巻き上がっていく。


夜明けまでには、宿にはロットではなく、濡れた灰の匂いがしていた。

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