第8話 新たな道標
翌朝のことだった。
体力が戻ったリオは、ぐっと伸びをする。
体を起こすと、ベッドにもたれるようにして床に座るアレンの姿が目に入った。
珍しい。ここ数日、朝はいつも椅子に座っていたのに。
目を閉じていたアレンが、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
そして、そのままリオへ視線を向けた。
相変わらず顔色は悪い。だが、その蒼い瞳だけは静かに、朝日に淡く照らされていた。
「リオ、フィオナを見つけた」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
心臓がどきりと跳ね、思考が停止する。
──母さんが、見つかった?
遅れて意味が追いつき、体が動き出した。
「母さんが!?」
転げるようにベッドから降り、アレンの傍に寄る。
「どうやって……いや、どこに!?」
「西だ」
「西……」
思わず首を傾げる。
「西って……あっちは海しかないよ?」
*
アレンの行動は早かった。
人が活動を始める時間になると、市場区の急ごしらえの狩人本部に向かう。
そして、すべての権限を一時的にジークへ委ねた。
そのまま修理を依頼していた服を受け取る。
リオの制服も、アレンの服も、一晩で整えられていた。
昨日の戦いの痕跡は、どこにも残っていない。
学園に戻ると、真っ直ぐヴァルセリオのもとへ向かう。
報告を聞いたヴァルセリオは、目を見開いた。
「この広い大陸で、たった一人を補足したと……?いえ、今は驚いている場合ではありませんね」
表情を引き締め、身を乗り出す。
「それで、私は何をすれば?」
アレンは静かに答えた。
「未開域の探索用に作っていたものがあるだろう。あれを借りたい」
「未開域?」
アレンは近くにあった地図を手に取り、リオの前へ差し出す。
覗き込むと、大陸の西側にぽっかりと空いた海域が目に飛び込んできた。
「グランゼリアから続く、西の海域のことだ。長い間、海の調査は後回しにされ、通称“未開域”と呼ばれている」
リオは小さく息を飲む。
──こんなところに、母さんが?
「海の上、じゃないんですか?」
ヴァルセリオが問いかけるように言った。
「いや。フィオナがいるのは、海中だ」
言葉を失った。
話についていけず、アレンの服をぎゅっと引っ張る。
「どういうこと?」
アレンがその場にしゃがみ、リオと目線を合わせる。
両肩に、しっかりと手が置かれた。
「フィオナは、西の海中にいる。そしておそらく、そこに敵の本拠地がある」
目を見開いたまま、言葉が出てこない。
心臓が跳ね、息が詰まり、頭の中が真っ白になる。
──母さんのところに、行きたい。
理解よりも早く、その想いだけが胸の奥で強く灯った。




