表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一条戻り橋  作者: yukko
56/95

栄華

公廉(きみやす)は娘のお腹が大きくなって来たことを喜んでいます。

娘から産まれてくる子を心待ちにしています。

それは、今、発熱して床に就いている孝子(よしこ)も同じでした。


⦅孝子のおねっき薄くなるには、加持祈祷が足らんのか……。⦆


加持祈祷も薬も孝子は今より多くは望んでいません。


「吾が君さん、おたからは、娘のために……。」

「そないなこと……。」

「気になりまする。孝子は母でござります故。」


孝子の熱が下がることを誰もが願っています。 



⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂



朝廷では一年に春と秋の二回、六位以上の官人が栄爵をを賜るもので、中央官吏の任命が行なわれた任命し行きを司召(つかさめし)と呼びました。

春の司召(つかさめし)で、三位の中将は他の人達を抑えて中納言に任じられました。

蔵人の少将は中将になり、左大将は兼任で右大臣になりました。

右大臣は、「わこが生まれた時に、祖父も父親も昇進という喜びを得ることが出来(でけ)た。このわこは幸せを呼ぶわこや。」と大喜びです。

新しい中納言は権勢は増して、天皇からの寵愛は増して、二条邸は華やいでいます。

しかも、中納言に昇進しただけでなく、衛門督えもんのかみまで兼任するが決まりました。

中の君の夫・新中将は宰相になったのです。


そして、女君の父である源中納言の邸では、蔵人の少将が新中将に昇進したのを知ると、三の君は元より北の方も「なんで名残惜しんで、時折でも会いに来てあらしゃらぬのか。」と恨めしく思いました。


衛門督(えもんのかみ)の天皇からの寵愛はますます強くなり、時流は右大臣家になったように感じています。

 


次の年の秋、女君はまた美しい男子を産みました。

衛門督の母は、「二条の御産屋には、美しゅう()()()()も子宝にお恵まれてあらしゃいます。今回の子は、こちで預からせしゃいませ。乳人(おちのひと)と共にお迎え致しましょう。」と言いました。


この時を同じくして、惟成は左衛門尉さえもんのじょうと蔵人を兼ねて任じられ勤めています。


女君は「まるで絵に描いたような、夢の中のような、幸せな日々を送っています。」と父の中納言に出せない文の文面が簡単に脳裏に浮かびます。



女君の父の中納言は、老いて日々物思いに耽るばかりで、ほとんど内裏にも顔を出さなくなってしまいました。

邸で部屋に座っているだけの日々を過ごしています。

そのような日々を過ごしている中納言が思い出しました。

居なくなった落窪の君の母から相続した邸が三条にある、ということを……。

落窪の君が相続したままであった土地ですが、中納言は考えを変えました。


「もうあの子は現世(うつしよ)におらん、そやから私が貰うてしもうても、ええな。」

「さよでござりまする。

 もしも、あの子がおするするでも、あないな立派な邸を持つような姫やあらしま

 へん。おたからを持っておらぬ子でござりまする。

 大殿さんと私らの子らが住めば良うございましょう。

 それに、良うないことが続きました。 家相が悪いのやもしれまへん。

 新しい邸に居を構えられしゃるのは、運を変えることになりましょう。」

「そやな。」

「ところで、大殿さん、あの落窪の邸の地券はお持ちであらしゃいますか?」

「地券? 落窪が持っていたはずや。」

「大殿さんがお持ちやないと……。」

「そうや。」

「まぁ、手抜かりをあらしゃいますこと……。

 あの部屋には何も残ってまへん。阿漕がともじて逃げたんや。

 ……けど、もうあの落窪は現世の人やあらへん。

 大殿さん、すなわち、手入れ致しましょう。」

 

そう言って、荘園から上がる収入の二年分を尽くして、築地ついぢから初めて、邸を建て替えました。

全てを一新させるために古い物は一切使わず、これを源中納言家の一大事と言い付けて造らせました。

金銭を惜しまず使い、光り輝くような邸に仕上げました。



⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂―――⁂



熱が下がらない孝子の傍に公廉はいます。


「孝子、おねっき薄くなったか?」

「吾が君さん、も、ちょっと……でござります。」

「其方と歩きたいもんや。桜……それから、紅葉。」

「はい。」

「共に……な。」

「はい。

 ………吾が君さん。」

「なんや?……苦しゅうなったんか?」

「いいえ、お願いがござります。」

「願い? 私に叶えられることかいな?」

「叶えられしゃいます。」

「そうか……なんや?」

「落窪の君の物語、でございまする。」

「もう、書かんでええのや。書かんでええ。」

「物語が泉の如く沸き上がって参ります。」

「孝子………。」

「吾が君さん、私が言う話を文字に……書いて頂きとうござります。」

「そないなことして悪うなったら、どないするのや!」

「吾が君さん、私の代わりに……。」

「孝子……。」


公廉は苦悩しました。

おねっき…熱。「おねっき薄く」は、熱が下がる。

衛門督えもんのかみ…宮中を警備する衛門府の長。

いもじさ…忙しさ。

左衛門尉さえもんのじょう…宮中警備。

おたから…お金。

ともじ…盗むこと。

すなわち…直ぐに。

築地ついぢ…屋根がついた立派な塀。

荘園…領地。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ