ユニークスキル
あれから私の日常は変わった。週末の放課後にみんなで集まりゲームをする、3人が強いので私のやることはさほど多くもなかったが、それでも人に求められた
人と歩幅を合わせられるその事実が私にとってはかけがえのないものなのだ。
そして今日も私は彼らのもとへ行く。
いつもと違う道を歩き、いつもと違う景色を見れるそんな日常に心を躍らせながら私はゲームセンターの筐体に入ろうとする。
しかし中には人が居て、別の筐体へ入ろうとした時だった。筐体から大柄な男が出てきた。2mはあろうかという巨体に随分と古風なリーゼント、こんな人もゲームをやるのかと少し怖気づいた所にその大男は話しかけてきた。
「お前さん、もしかして最近光ってやつと連んでるやつじゃねーか?お前さんと話がしたくてここで待ってたんだよ」
最近は変な人に絡まれる、頭が真っ白になっている私に男は続けた
「あまり話さない奴ってのは聞いてるさ、だからコロシアムの中で語ろうぜ」
余りの勢いに吞まれ私はコロシアムの戦場に立っている
ただ不思議で仲間が一人もいない。そんな中、男は話しかけてきた。
「これは1on1お前の実力を俺に見せてみろ。出来ないならお前は光に相応しくないから失せろ」
何故そんなことを言われなければならないのかと思考を巡らせ言葉を紡ごうとする最中に外からの声が聞こえた、これは光の声だ。
「馬鹿兄貴!こいつはまだ初心者だ、あんたのお眼鏡に敵うわけないだろ!!俺を入れろ!!!」
彼はお兄さんなのか、では何故私は挑まれたのか?そんなの決まっていた「光に相応しくない」そういう事なのだろう。
ならば私は自分の居場所を守るためにナイフを握らなければならない。
「逃げろ!お前じゃ兄貴には勝てない!あいつは・・・だ」
ノイズが入り聞こえない、そんな中その音は聞こえた
ズドン!!
その重く鈍い音の正体など考える必要がない、彼の魔獣はそれほどまでに巨大な化け物だった。赤竜の軽く5倍はあろう大きさに何をしろというのか。
「何処にいるかわからねーが聞こえてんだろ!!教えてやるよ、俺のスキルはなユニークスキル【巨神】って言ってよ、システムに愛された特別な人間に与えられるスキルでよ、そこらの巨人とは違うんだよなぁ!!」
システムに愛される?そんな事があり得るのか?だが目の前の現実を否定することはできない。ゲームならばどこかに勝ち目があるはずだ、その時を待たなければならない。幸いこの森林は広く相手の視界に私が映ることは現実的ではない。
仕掛けた罠にかかるが巨人への効果はない。次の策を探さなければ。
そんなことを考えてる間に巨人は私を見つけ踏みつぶした。浅はかな考えだったのか?私ひとりで闘うなんてことが無謀で無意味だったのか?
「隠れて奇襲。つまらねー戦い方でお前は光に負担をかけるのか?言ってやるよ、お前は別に必要じゃないんだよ。居たらラッキー居なくていい、お前じゃなくていい。今もどうせ自分の事しか考えられてない。そんな男のどこに価値があるんだ?弟は優しいから言わないだけで自分本位な人間ならあいつの目の前から消えてくれよ」
言葉が見つからない、相手の言うとおりだ。私は自分しか見えていないし自分の居場所を守るために戦おうとしている。光だってそう思うはずだ、辞めてみんなの前から消えるほうがいいのだろう。そうしよう
「そんなわけないだろ!!!俺はこいつと初めてやったときありがとうって言われたんだよ、殆ど話せないこいつが、誰にも見つけてもらえない男が!人に感謝している!俺らは仲間で上下の関係なんかないんだよ、自分から対等になりたい相手を見つけた奴からそれを奪うのが許されていいわけないだろ!」
彼は私のために怒ってくれている兄の言う事のほうが正しいように感じるのに何かが込み上げてくる、言葉では表せない感情が形となって目から零れ落ちていく。私は彼のために在りたい、横に立っていたい。
「動いて、お願い」涙ながらの声で願いを込めても意味はない、そんなこと誰よりも分かっているのに叫ぶしかない。慟哭が筐体の中に響く中、聞いたことのない声が聞こえる。
「それが貴方の闘い、ユニーク 光と影を発動します」
目の前が光る、気が付けばその光の正体が自分だと気づく。いつの間にか巨人に踏みつぶされていた場所から離れていた。
「おいおい、マジかよ。ならお前をテストしねーとなぁ」
巨人が私を踏みつぶしに来る、一瞬だった。一瞬で私は巨人、いや巨神に踏みつぶされ形は残らなかったが巨神はその足を失っていた。
私にも何が起こったのかは分からない、しかしそれをやったという事だけが事実としてあった。
だが私は敗れたのだ、それは光の前にいる資格を失ったということ。挑まれたものだがその言葉を私は知らず知らずのうちに受け入れてしまったのだから彼の前から消えるのが妥当だろう。
「なぁお前どこ行くんだ?」
大男が私の肩を掴んでいた。
「ハハ!泣きべそかいてどうした!お前は俺の足を潰した!そんな事が出来るやつ日本全部探しても10人もいねーよ!誇っていいぞお前が光の仲間で良かった。ユニークスキルは人の闘いの中生まれるものだ。つまりお前はあの闘いでそれほど強い感情を出して俺に挑み結果を残した!それのどこが弟に相応しくない要素があるってんだ」
「当たり前だろ馬鹿兄貴、俺が見つけた奴なんだぞ!」
この人は私を認めてくれたのだ。闘いの中で私を見てくれた。
「影…人見 影と申します」
「いい名前じゃねぇか!俺は結城 大勝ってんだ!光をよろしくな」
光と兄弟そろって最後は人の心を温めるのが上手いと思った。