VRゲームで勇者パーティから追放された俺は現実世界で復讐する
「イシガミのおっさん、お前今日からこのパーティーから抜けてもらうから」
「え……?」
俺は何を言われたのかわからずに聞き返す。勇者であるアルスから俺を見たら、さも間抜けな顔をしているだろう。自分でも口が開きっぱなしになっている自覚がある。
「はぁ……、何回も言わせんなよ。クビだよ、クビ!! 足手まといなんだよ、クズが!! 初期からパーティーとして組んでいたよしみで、今まで一緒にパーティーを組んできたが、俺のレベルの動きについてこれていねえじゃねーか。 俺はこの世界で唯一の『勇者』様だぞ、お前は何の役職だっけ?」
「……うっ、『芸人』です」
「今のパーティメンバー見てみろ、マヌケ!! 『魔法使い』に『戦士』、『僧侶』。すでに戦闘においては役者がそろっているんだよ! お前のスキルは、運に左右されて安定性にかけるんだよ。たまに、仲間にもダメージがはいるじゃねーか、敵と変わらねーんだよ、お前」
「で、でも、レベルが上がれば、上級職である『賢者』に転職をして、戦力になるって……」
アルスの鋭い眼光にも耐えつつ、俺はしどろもどろになりながらも説明する。
「言っただろ、すでに火力は十分なんだよ!」
「……、じゃ、じゃあ、戦闘以外は……。運のステータスも高いし、たとえば、レアアイテムのドロップ率には少しは貢献できているんじゃ……」
「いや、その点ではもう新しいメンバーを決めているから。入ってきていいよ」
勇者アルスがそう言うと、控えめなノックの後、ドアを開ける音が聞こえる。俺が振り向くと、そこには息を吞むほどに美人な女性が立っていた。職業は『盗賊』だろうか。
「『盗賊』は戦闘のレアアイテムのドロップ率も上げられ、さらにダンジョンに仕掛けられた罠も見破れる。イシガミ、お前の完全上位互換だ。しかも、お前みたいなおっさんではなく、見目麗しい女性だ。これは決定事項だ、お前には俺のパーティーから抜けてもらう。お疲れさん、じゃあな。この“世界の落ちこぼれ”が!!」
「……くっ」
俺はこれ以上弁明することが出来ず、勇者アルスを直視することができなかった。こぶしを強く握りしめ、とぼとぼと部屋から出ていく。自分が『勇者』とは言わずとも、せめて、『僧侶』であったならばパーティーの一人として支援職として活躍することが出来たのに。悔しさや惨めさや恥ずかしさをドロドロに溶かして混ぜたような気持ちが俺の心を渦巻いていた。
この日、どうやってゲームからログアウトしたかも覚えていない。ログアウトするやいなや、頭に着けているVRデバイスを外し、ベッドにたたきつけ、俺はうつぶせに倒れこんだように眠るのだった。
*
どんなに辛くても朝は来る。社会人である俺は、満員電車に揺られながら、勤めているIT会社に出勤する。勤めている会社は、世間一般では一流企業に分類されているため、大学生からの志願も多い。本日も午前中から採用担当として面談の仕事をこなしていかなければならなそうだ。
トントンとノックの音が会議室に響く。こちらで「どうぞ」という前に扉は開かれ、手と足を同時に揺らしながら学生が入ってくる。彼は中央のパイプ椅子の横に来たかと思うと、またしても座るのを促す前に腰を下ろす。
緊張しているのは仕方ないにしても、さすがに失礼じゃなかろうか。さっと、履歴書を確認する。学歴は申し分ないが、アルバイト経験なし、趣味ゲーム。自己PRはざっくり要約すると『ゲームで世界を変えてきたので、貴社に入ったら世界を変えたいです』と記載がある。
書類選考をよく通したなと思いながら、面接を進めることにする。もしかしたら優秀な学生かもしれないし。
「お名前をどうぞ」
パイプ椅子に座った彼は一回大きく深呼吸をした後に口を開いた。
「或瀬 来栖です。本日はよろしくお願いします!」
ハキハキとした口調で好感を持つ。外見も黒髪の短髪にパリっとしたスーツで清潔感は申し分ない。手元にあるPCで質問表を開きながら、質問を続ける。
「弊社を志望した理由は何ですか?」
「はい! 御社の新開発したVRゲームをプレイしている中で人と人との繋がりを感じました。人同士のコミュニケーションツールとしてのゲームの在り方に将来性を感じ、志望しました」
ああ、そうだ。俺が昨日プレイしていたゲームというのが何を隠そう、彼が話してくれたゲームのことなのだ。パーティーの形態を必須とすることで人と人との繋がりを確かに感じるゲームだが、俺は昨日の事件を思い出して胃が痛くなった。
どんなツールも使い手次第で善にも悪にもなるのだろう。おっと、いけない、メモを取りながら、次の質問だ。
緊張している面持ちなので、打ち解けてもらうように、ゲームの会話を少し続けることにする。
「……なるほど、ご回答ありがとうございます。また、弊社のゲームをプレイしていただきありがとうございます。私もプレイをしているのですが、ゲーム内の職業は何が割り当てられたんですか?」
すると、待ってましたと言わんばかりの得意げな顔になり、
「勇者ですッ!!」
と、語った。
「……えっ?」
あのゲームの世界では勇者は唯一アルスのみだ。ということは、こいつはアルス本人ということになる。俺はふつふつと昨日の怒りが込み上げてきた。続け様に質問をぶつけることにする。
「……最近ゲームの中でなにか印象に残っていることありますか?」
そうですねと前置きをしてから、アルスは満面の笑みで言葉をつなげる。
「昨日、お荷物だったおっさんを自分のパーティーから追放したんです。初期からパーティーにいたんですが、戦闘だけでなく、戦闘以外も役立たずで。社会の厳しさを教えてやりました!」
自分の中で何とか自制という名で引き留めていた糸がぷっちーんと切れたのを感じた。おそらく、俺の表情は般若のような怒りの権化の仮面を被っているだろう。
「その追放されたおっさんは私です」
「…………え!?」
或瀬もといアルスは何を言っているのかわからないと困惑しているが、続けることにする。
「君さあ、人との繋がりに将来性を感じると言っておきながら、礼節も大事にせずに、人を小ばかにする。人との繋がりを大切にしないタイプでしょ? 自分のことだけを考えて、人のために行動できないんじゃないかな」
「……あ、あの、その」
自分の顔は見えないが、俺の顔は怒りで真っ赤だろう。真っ赤にすればするほど、アルスの血の気は引いていき真っ青になる。
「断言するよ、野心や自信は抱いてもいいかもしれないけど、相手への感謝の気持ちや相手を幸せにしたいという利他心を持って初めて優秀な人材になるんだよ。どんなサービスだって、必ずお客様を便利にしたい、豊かにしたい、そういった相手への思いやりから生まれるものなんだ。君に他人への思いやりがある? とてもあるようには見えないなあ。しかも、君が言ってくれたように、うちは全社員で同じ目標に向かう繋がりを大切にしている会社だから、会社の空気を乱すような人は採用したくないんだよね」
「……は、はい」
捲し立てるような俺の言葉にすっかり萎縮してしまっているようだ。でも、まだ俺の心は晴れない。ここまできたら、倍返しだ!
「そもそも、君、自己PRなってないよね。『ゲームで世界を変えてきたので、貴社に入ったら世界を変えたいです』。……はあ、ゲームで何を努力して、何を工夫したのか、それが分からないから、現実世界でどのように役立つかわからないじゃん。趣味もゲームの話だし、ゲームのことしか書いていないよね、君の軽い言葉じゃ、世界は変わらないよ」
アルスは目に涙を浮かべながら、プルプルと小刻みに震えている。
「私は優秀な学生がいたら、この一次面接の断面で“採用“を伝えてもよいと裁量を与えられているんだよね。そんな私からすると、君は絶対に”不採用“。君の代わりは他にもいるから、帰っていいよ、この”世界の落ちこぼれ“」
うわーんと、学生とはいえ、大の大人が号泣しながら、バタバタと騒音を立てながら足早に会議室から退出していった。
少し言いすぎてしまった。血が上ってしまい自制が効かなくなってしまったことを反省する。それでも、自分のモヤモヤした気持ちが晴れやかになり、PCにメモを打ち込む手が軽やかになる。背後の窓から光が差し込み、さながら、俺を照らしていてくれているようだった。
文章の練習にショートで執筆しました。
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