レガス帝国①
翌日、俺はレガス帝国の下見にやってきた。同行者はアマネ、ヨギリ、コハル。いつものメンバーだ。最初は護衛として雇った竜族のヒスイも連れて来るべきだと言ったのだが、全員が俺の提案を却下したので留守番となった。
ヒスイの護衛はあくまで胡蝶を再建した後でいいらしい。それまではアマネ達で俺を守るから必要ないんだとか。それにヒスイは娼婦ではないし、年がら年中浮遊島で惰眠を貪っているだけの竜だから、下見に連れて行くだけ無駄だと言われた。まあ確かにその通りなんだが、そこまで言わなくても。
これにはさすがのヒスイも怒るかと思ったのだが、「お昼寝できるわ!」とむしろ喜んでいた。致命的なやる気のなさだ。こんなんで本当に護衛が務まるのか不安になってきた。「あ、ごめん!ボーっとしてたからハル死んじゃったの!」とかなりそうで怖い。
とりあえずあのポンコツドラゴンの事はおいておこう。今は候補地の下見だ。
今日は昼過ぎにアマネの転移魔法でレガス帝国に転移した。花街が賑わい始める夜になるまでは、色々と街を見て回る予定だ。そして最後に花街の雰囲気を確認し、浮遊島に撤収。一応やはり転移は気持ち悪かったとだけ付け加えておく。
俺がアマネ達と転移した街はレガス王国の帝都であるレガンハイム。転移先はスラム街の路地裏にある、人目につかない寂れた建物の一室だった。冒険者時代、アマネが転移場所として確保していた部屋らしい。
「他の国にもこういう場所があるのか?」
「もちろんじゃ。転移は便利じゃしの。ではいくか。」
「待って。その前に少し聞きたいことがある。まだちょっと気持ち悪いしね。」
「そうか、すまんの・・・転移酔いは回復魔法じゃどうにもならんのじゃ・・・」
アマネが申し訳なさそうな顔をする。
「アマネが気にすることはない。」
転移は慣れだと言っていたし、すぐ酔わなくなるだろう。
「わかった。では聞きたいことはなんじゃ?」
「うん。1つ目。転移魔法は珍しいのか?口外しない方がいいのか?」
胡蝶の子達は全員使えるようだが、果たしてこれが一般的な魔法なのか俺にはわからない。一応聞いておくべきだろう。ちなみにヒスイも使えるらしい。まああれは竜族だし一般枠ではない。
「珍しいといえば珍しい。存在自体は誰でも知っておるが、使える者が少ない。誰が使えるとかは言わない方がよいの。面倒ごとに巻き込まれるぞ?」
使用者が少ないのか。そう考えると胡蝶の嬢達全員が使えるというのはある意味凄い割合だな。うん、黙っておこう。アマネ達なら巻き込まれてもどうにでも出来るだろうが、俺が巻き込まれたら最悪だ。
「了解。じゃあ2つ目。アマネはどれくらい冒険者やってたの?あと俺を拾うまでどれくらい娼館やってたの?」
「くく・・・今更聞くのか、それを。」
アマネが楽しそうに笑う。
「拾われた頃は生きるのに必死だったもん。それからは胡蝶の事でいっぱいっぱいだった。余裕がなかった。それに必要な事ならアマネから言ってくれると思ってたし・・・」
「うむ、ハルは頑張っておった・・・わらわはハルのそういうとこ好きじゃ。」
「え?あ、ありがと・・・嬉しい・・・」
ちょっとドキっとしてしまった。不意打ち過ぎる。アマネは美少女なんだからあまりそう言う事は言わないで欲しい。勘違いするから。
「・・・あっ!ち、違うのじゃ!これはあれじゃ!えっと・・・その・・・」
「う、うん、わかってる。そ、それでどれくらいやってたの・・・?」
アマネも照れ臭いのか、顔を真っ赤にしている。俺も恥ずかしい。見つめ合いながらお互い赤面してるとかなんだこの状況。そしてヨギリとコハルは何故か悔しそうな表情を浮かべているし・・・あっちはあっちで何してんだ。
「う、うむ。胡蝶を始めたのはハルを拾う半年前じゃ。」
俺がアマネに拾われて1年ちょっと。つまり胡蝶自体は1年半くらいしかやってないということになる。思ったよりも短いんだな。
「冒険者はどれくらいやってたんだ?」
「5~6年じゃな。」
「引退してすぐ胡蝶を始めたのか?」
「そういうことじゃ。」
なるほど。なんで引退したか、なんで胡蝶を始めたかは多分聞いても教えてくれないだろう。何故ならそれはアマネ達の目的に関わる事だからだ。だが冒険者になった理由なら・・・
「なんで冒険者になったか聞いてもいい?」
「む・・・そうじゃの・・・まあそっちならいいか。」
そう言うとアマネは一息入れ、ゆっくりと口を開く。
「丁度その頃悩んでおってな。どうしていいかわからなくての。じゃがうじうじしてても仕方ないからとりあえず世界を見て回ろうと思ったのじゃ。それには冒険者という肩書が都合がよかったというだけじゃな。」
あのアマネが悩んでた?いつも自信に満ち溢れて、偉そうに踏ん反り返ってるあのアマネが?正直ちょっと想像がつかない。
「つまり悩んでたから冒険者になって世界を巡った。そしてその悩みを解決する方法が見つかったから冒険者を引退、胡蝶を立ち上げて娼婦になった?」
「うむ、そうじゃ。その悩みがなんなのかは・・・」
「大丈夫。そのうち話してくれるんだろ?」
「う、うむ!ハル、ありがとなのじゃ。」
これで聞いておきたい事は一通り終わりだ。
「あ、最後に1つだけ。ヨギリとコハルも冒険者してたのか?」
「うん、してたで。でも最初はアマネ1人やで。うちらは途中で合流したんよ。」
「そうね。私とヨギリは2~3年くらいかしら。あ、サクヤも少ししてたわよ。」
やはりヨギリ達も元冒険者か。そんな気は薄々していた。
「その時にアマネと出会ったの?」
「ううん、違うわよ。アマネとはずっと昔からの付き合いよ。合流したのがそのくらいってだけなの。」
「一体何百年の付き合いな・・・」
――ドガッ!
足が飛んできた。痛い。
「あのねハルさん?世の中には知らない方がいい事って沢山あるのよ?」
「はい・・・余計な事言ってすいませんでした。」
コハルのその足癖はほんと直して欲しい。俺が変な性癖に目覚める前に直して欲しい。最近毎日1発は蹴られてる気がする。
「それでどれくらい有名な冒険者だったの?」
「うーん、せやね・・・一応3人ともSランクやったで?サクヤはAやったけど。」
多分Sは最上位クラスの冒険者なのだろう。アマネ達の事だからきっとそうだ。
「それって凄いんだよな?」
「それなりじゃないかしら?Sランクって世界に4人しかいなかったし。」
・・・はい?世界で4人?つまりアマネ、コハル、ヨギリとあと1人?
おい、どこがそれなりだ。世界最高峰だろうが。規格外のアマネ達の事だから今更ではあるが・・・それでも毎度毎度こいつらの武勇伝には驚かされる。それに多分サクヤのAランクも絶対凄いだろ。まあサクヤについても今更か・・・
「そんな有名人が出歩いて大丈夫なの?」
「「「あー・・・」」」
3人とも忘れてたのかよ。
予め聞いておいてよかった。このまま外へ出たら間違いなく大変な事になる。元Sランク美少女冒険者3人と一緒に歩いている俺。どう考えても面倒ごとに巻き込まれる未来しか見えない。
「目立つと下見に差し支える。変装してくれ。」
「わかった。そうするのじゃ。」
そう言ってアマネが軽く指を鳴らす。すると鬼人族の特徴であったアマネの角が消えた。そして顔の輪郭、髪の長さ、身長がゆらゆらと蜃気楼のように変わっていく。気付いたらその辺にいそうな街娘の姿になっていた。
「おお、さすがだな。」
「そうじゃろ!もっと褒めてもいいんじゃぞ!」
でも口調はそのままなのか。
「うちも出来たで。」
「ハルさん、どうかしら?」
ヨギリとコハルの方を見ると、2人もすっかり人族の姿になっていた。うん、これなら目立たないだろう。美人でもないし、不細工でもない。人の目に留まらない、どこにでもいそうな街娘の姿だ。




