購入
「これはこれは、ハル様、再びのご訪問ありがとうございます。本日はいかがなさいました?もしかしてエルフィリアをお求めでしょうか?」
「ええ、その通りです。」
「あらあら・・・ほんとに・・・ふふ、承知しました。連れて参りますね。」
クレアはそう言って部屋から出て行った。
今日は予定通りコハル、サクヤ、ユイカと共にカミールはミラに来ている。奴隷商人のクレアに会って、ハーフエルフの奴隷、エルフィリアを買う為だ。
それはいい。それは予定通りだ。
ただ3人連れて来たのはやはり失敗だったかもしれない。何故ならこいつら、「変装魔法なんてイヤです」とか意味わからん事を言って魔法を使わなかった。そのせいで街中では滅茶苦茶大変だった。コハルだけでも十分目立つのに、サクヤとユイカも変装しないで歩いてれば、それはもう人目を引く。
そして当然のように数人に絡まれた。「またお前か!今日こそコハルさんを解放するんだ!」とか言われた。そんな事を言いながらもサクヤに見惚れてたのはちょっと面白かったけど。
いつも通りコハルがそいつらを瞬殺するんだろうと傍観していたら・・・何故かサクヤが「生まれてきた事を後悔させてあげます」とか言いながら野郎共をぶちのめしていた。何してんだ、サクヤ。
「なんでコハルじゃなくサクヤが手出してるんだよ。」
「だって私の尻尾を見てたんです。あれはあわよくば・・・触ろうとしてましたね。狐人族の尻尾は安くないんです。触るとかありえません。絶対許せません。」
「え、俺もよく見て触ってる気がするけど・・・」
まさか俺もいつかあんな目に合わされるのか?
「ハルさんはいいんです!か、可愛い弟ですから!」
「・・・狐人族の尻尾は家族しか触っちゃいけない掟とかあるのか?」
「は、はい!それです!そうです!多分そうなんです!」
なんだそれ。多分ってなんだ。お前は狐人族だろうが。
「そうなのか・・・ユイカ、知ってた?」
「・・・」
ユイカは無言のままニコニコ笑っている。おい、その笑顔どういう意味だ。怖いから何か言ってくれ。狐人族の尻尾にはどんな意味があるんだ。
「ハルさん・・・考えるだけ無駄・・・です!」
「あ、はい。」
「あらユイカ、教えてあげればいいのに。私が教えてあげようか?」
「コハル姐さんは黙っててください!!!」
サクヤが珍しく声を荒らげている。
「落ち着け。」
というか喧嘩すんな。これから奴隷を買おうというのに、なぜ身内で喧嘩するのか。こんなの見たらエルフィリアが不安になるだろう。やめなさい。
「も、もう聞きませんか・・・?」
「わかった、聞かないから。」
それを聞いたらサクヤだけでなく、ヨギリにも殺されそうな気がするしな。何故かそんな予感がする。うん、今あった事は忘れよう。きっとそれがいい。
「しかしクレアさんは遅いな。」
エルフィリアを連れて来るだけなのに遅すぎる。何か問題でもあったんだろうか。
「彼女、やり手だからね。きっと少しでもエルフィリアを高く売ろうと色々してんじゃない?クレアを買うって言った時のあの反応からして多分間違いないわ。」
なるほど、そう言う事か。エルフィリアは100金だと以前言っていたが、それ以上に吹っ掛けてくるつもりなのかもしれない。以前来た時は奴隷を買うつもりは1ミリもなかった。それをクレアは見抜いていて、エルフィリアの値段を安く言っていたと言う事だろう。
「望むところだ。」
「あら、じゃあハルさんの手腕、見せてもらおうかしら。」
「ちなみにコハルはあの子、いくらが妥当だと思う?」
「んー・・・そうね、300金かな。」
コハルがエルフィリアにつけた値段はこの前の一番高い奴隷と同等の300金。確かにあの奴隷よりエルフィリアの方が安いとはどうしても思えなかった。むしろあの貴族の奴隷、本当は300金しないんじゃないだろうか。むしろ逆。エルフィリアが300であの貴族の奴隷が100。これなら納得がいく。
「ふーん、コハルがいたのにそういう喧嘩売ってくるんだね。」
「あれはそういう女よ?私が何とかしようか?」
「いや、俺がやる。偶にはかっこいいとこ見せなきゃな。」
「ふふ、じゃあ期待してるわ。」
「そうですね、私も見たいです。」
「・・・です!」
サクヤがくすくすと楽しそうに笑っている。ユイカも目を輝かせてるし、ここは頑張りどころのようだ。いつも情けない姿しか見せてないし、偶には格好つけなければ。それに元営業職として、こんな商談に後れを取る訳にもいかない。
やってやろうじゃないか。
「ハル様、お待たせしました。エルフィリアを連れて参りました。」
やっとクレアが戻ってきた。30分は待たされただろうか。なんでそんなに時間がかかったのか気になっていたが・・・それは直ぐにわかった。
「お、お待たせしました。」
クレアに連れられ、部屋に入ってきたエルフィリアが頭を下げる。
メイド服で。
・・・やばい、可愛い。こんな可愛いメイドさんを俺は奴隷として買うのか。よし、いくらでも出そう。1000金くらい出そう。
「・・・コホン。」
「お、おう。」
コハルが軽く咳払いをしてくれたおかげで正気に戻った。
危ない、ハーフエルフとメイド服の組み合わせに完全に意識を持っていかれた。
クレアはこの準備をしてたのか。しかし俺の趣味趣向をよくわかっているな。1回しか会った事ないのに、ここまで的確に俺のストライクゾーンを見抜いてくるとはさすがやり手の奴隷商人だ。
ただ1つ言っておく。俺はメイド好きの変態じゃない。だからサクヤにユイカ、そんな軽蔑の目で俺を見ないでくれ。
「ふふ、気に入っていただけたようですね。それではハル様、お話を進めてもよろしいですか?」
「はい、お願いします。」
完全に先手を取られた。悔しい。悔しいが、いい物を見れたのでいい。可愛いメイドさんはやっぱ最高だな。
「ハル様、エルフィリアを購入されると言う事でよろしいでしょうか。」
「ええ、そのつもりです。」
「購入目的を確認させて頂いても?」
「はい。うちの娼婦の身の回りの世話、私の仕事の補佐です。新しく娼館を立ち上げるので色々と忙しくなりますし、人員補強です。」
「娼婦として仕事をさせるわけではないのですね?」
「させません。あくまで一般的なメイドとしての仕事だけです。」
エルフィリアならうちの娼婦達に混じっても見劣りしないとは思うが、娼婦の数は十分に足りている。それにアマネ達は「普通の娼婦」ではない。あの事実を知ったからには、尚更娼婦を外部から迎えるのは難しい。アマネ達が全員引退するとなったら話は別だが、彼女達がいる限りは彼女達のやり方で娼館を運営するつもりだ。
「承知しました。それなら問題ございません。金額ですが・・・400金でいかがでしょう。」
さっそく吹っ掛けてきた。前回は100金だったのにその4倍だ。
「確か以前は100金では?」
「それはその時の金額です。奴隷の値段は時価ですので、変動しますの。」
そうくると思っていた。「あれはあの時の金額、今は違う」は商売の上等文句だ。別に汚いとは思わない。相場なんて水物だし、あの時買わなかった俺が悪い。だが400金にはいわかりましたと言う訳にもいかない。抵抗させてもらうとしよう。
「数日で4倍ですか。理由をお伺いしても?」
「あれからエルフィリアを買いたいというお客様が現れまして。その方の提示金額が390金でございます。ですのでそれ以上でないとお売りする事が出来ません。」
なるほど、妥当な理由だ。ただ急に現れた客が390金を提示するとは思えない。最初会った時、エルフィリアは100金だとクレアは言った。なぜその客はそんな額、しかも半端な額を提示したのか。つまりクレアの話は嘘の可能性がある。とは言っても、俺に真偽を確かめる方法はない。その客が本当にいるかいないのかを確かめる方法がない以上、そこを突っ込んでも堂々巡りになるだけだ。
「そうなんですね。でも例え390金をその客が出すと言っても、エルフィリアが買われたいと思うかは別ですよね。・・・エルフィリア、君は俺に買われたい?それともクレアさんが言う別の客に買われたい?」
奴隷が承諾しない限り、その奴隷を買う事は出来ない。それを説明してくれたのはクレアだ。ならまずは値段云々より、エルフィリアの意思を確認すべきだろう。
「喋っていいですよ、エルフィリア。」
クレアの許可がないと発言出来ないのか。発言についても契約魔法に盛り込めば、ある程度縛る事が可能らしい。
「は、はい・・・私はその、出来たらハル様に買われたいと・・・」
「エルフィリア、ありがとう。さてクレアさん、そう言う事ですので・・・200金。どうでしょう?」
もともとエルフィリアが100金で買えるとは思っていない。さすがに安すぎる。400金でも正直構わない。ただ吹っ掛けられたのはちょっと癪だ。
「さすがにその金額ではお売りできませんわ。380金。」
「流石に足元見過ぎでは?220金。」
「ふふ、そうですね。それは謝罪いたします。350金。」
「認めるんですね。240金。」
「このメイド服どうですか?今ならお付けしますよ。330金。」
「・・・」
危ない、また無言で頷くとこだった。
でもメイド服が数十金もするはずがない。こちらで別に用意しても1金もしないはずだ。エルフィリアのメイド服にまた意識を持って行かれそうだった。
「コホン・・・メイド服は別に必要ないですし。必要であってもこちらで用意すればいいだけの話ですよね。260金。」
「あらあら、気に入ってるんですね?では300金で手を打ちませんか?」
そろそろ厳しいか。もう一声欲しいところだが。俺の予想ではあと数十金は下がるはずだ。
「まあそちらの利益もありますし、そうですね。280金で。」
「わかりました。ギリギリですがその金額でいいですわ。その代わり今後もご贔屓にしてくださいませ。」
もう一声いけたか。残念。でもまあ十分だろう。
「少々熱くなってしまいました。でも最初から100ではなく400と言ってくださってたならそれで買いましたよ?」
「あら・・・そこが失敗でしたの。ハル様は気に入った物には惜しみなくお金を使うタイプでしたか。少々読み違えましたわ。」
その通りだ。俺は気に入ったものであれば、金は惜しまない。自分が見出したその商品の価値に見合っていれば言い値で買う。
クレアは読み違えたのが悔しいのか、苦虫を噛み潰したような表情をしている。普段ならその辺りのミスはしないのだろう。まあでも今回は仕方ないだろう。とは言っても、俺が何か手腕を振るったわけではない。そう、コハル達だ。彼女達が俺の側にいたから、クレアは読み間違えた。うちの子達は人心掌握のプロだしな。
「では次からは最初から吹っ掛けるようにしますね?」
「やめてください。それならまた交渉がはじまるだけですし・・・適正価格でお願いしますよ。それなら今後も懇意にさせていただきます。」
「ふふ、そうですね。そうしましょう。」
クレアに俺と懇意するメリットはないと思うが、コハル達との伝手は大事にしたいはず。これは毎回コハルなりアマネなりを連れて来るのがよさそうだ。
「それでは契約に話を移させて頂きますね。・・・エルフィリア、あなたもそれでいいかしら?」
「は、はい。大丈夫です。」
エルフィリアは本当に可愛いな。清楚で、清らかで、奥ゆかしい。少しはコハルも彼女を見習って欲しい。同じエルフだろうに。
「ふんっ!」
「いたっ!?」
おい、コハル。「ふんっ」じゃない。すぐに足を踏むな、お淑やかになれ。俺が言いたいのはこう言うとこだぞ?
「どうされました?ハル様?」
「い、いえ何でもありません。契約に移ってください。」




