決定
「と言う訳で、サンクレア公国で胡蝶を立ち上げようと思います。」
浮遊島の屋敷に戻った俺はヨギリやサクヤ達の前で改めてそう宣言する。
だが何故か正座させられている。
「ねえ、俺を毎回正座させるのはなんで?」
「そんなん自分の胸に聞きや!!!」
「そうです!自分の行動を振り返ればわかるでしょう!」
今日不機嫌なのはヨギリとサクヤ。帰って来てからずっとこんな状態だ。「ただいま!サクヤ、尻尾!」って言ったら、おもいっきり睨まれた。何故だ。ヨギリも「あほか!絶対あかん!」といって毛づくろいさせてくれなかった。
そしたらサラが「じゃあ私のどうぞ」と言って人化を解き、狼の姿になってくれた。サラは完全な四足歩行型の狼人族。毛並みも滅茶苦茶綺麗。それを思う存分もふらせてもらったのだが・・・そのせいでサクヤとヨギリの機嫌がさらに悪くなり、現在に至る。
他の尻尾に浮気したのが許せないらしい。獣人族的には自分の尻尾だけを愛でて欲しいんだとか。というかそんな獣人族の掟、知らんがな。ちなみに本当にそんな掟があるのか後でこっそりサラに聞いてみたところ、「そんなものはない」そうだ。
ヨギリにサクヤめ、息をするように嘘吐きやがって。一応サラ達は「ヨギリ姐さん達には色々あるんです」とフォローしていたが、嘘は許せん。
「胡蝶をサンクレアに作るのは問題ないんだよね?あと正座やめていい?」
「ん、それはええよ。正座はあかん。」
正座をやめるのは駄目らしい。だがとりあえず胡蝶を建てる国は決まった。
では次は何か。
「じゃあサンクレアで話を進めるね。」
決めなければいけない事、やらなければならない事は色々ある。先ずは物件の購入。そして貴族や権力者との面会、宣伝、コネ作り。フェルミーナとの契約内容の検討。さらに物件が決まったら、奴隷のエルフィリアを購入し、屋敷の管理を一任する。ざっとあげるだけでもこれだけある。
「ヨギリ達にも色々手伝いをお願いすると思うけどよろしくね。」
「もちろんや!何でも手伝うで!」
ヨギリが嬉しそうにぱたぱたと尻尾を揺らしている。
おい、今さっきまで不機嫌だったのはどうした。「あれは演技か、この馬鹿狐」と突っ込みそうになるが、グッと我慢する。
「ありがとな。頼りにしてる。」
「ところでハルよ。あの羊人族の契約の検討とはなんじゃ?先程あやつに言っておったではないか。今更何を検討するんじゃ?」
「あの内容で契約しても意味ないからな。」
フェルミーナには、「客を連れてきたら、取り分を渡す」という話をしたが、無作為に客を連れてこられても正直困るのだ。そもそも胡蝶は今まで通り予約制で運営する予定。それにアマネ達なら常に予約で埋まるだろう。そんな状況で突発的に客を連れてこられても対応出来ない。
「なるほどの。確かにそうじゃの。」
「うん、だからフェルミーナとは専属契約を結ぶ。彼女に予約を仲介してもらう形がいいと思う。」
フェルミーナ経由で予約が入った場合、1%の取り分を渡す。そして客には船での送迎をつける。いい付加価値になるはずだ。
「と言うよりうちの客は全て船で送迎させよう。フェミーナのような船頭数人と専属契約し、全ての客の送迎をして貰う。どう?流行りそうだろ?」
「おお、それはいいの!確かにそうじゃ!」
「いいわね!うん、特別感があっていいと思うわ!」
俺の案は概ね良好のようだ。
「どの程度の金額でフェルミーナを雇うのか、売り上げの取り分をどう渡すのか・・・色々条件を決めないといけない。だから契約内容の検討だな。」
「なるほどなぁ・・・ハルは色々と考えてんねんなぁ・・・」
「ヨギリも阿保みたいに尻尾振ってないで偶には頭使えばいいんじゃないか?」
「う、うっさいわ!!好きで振ってんちゃうねん!!!」
まあヨギリ達の場合、力で解決が基本だからな。それにそれが出来るだけの力を持ってる。だからこそ俺のようにちまちま頭を使う必要はないのだ。正直羨ましい。俺ももっと力があれば、こすい計画なんて考えなくて済むのに。
「とりあえず明日の予定だけど、俺とヨギリでエルフィリアを買いに行こう。アマネとコハルはカラントの娼館について調べて来てくれ。サクヤ達は契約出来る船頭を10人くらい探して来て欲しい。」
「よっしゃ!まかせとき!」
「ちょっと、ハルさん!なんでヨギリなのよ!私でもいいじゃない!」
「そうじゃ!わらわがいくべきじゃ!」
ええい、うるさい。一斉に喋るな。
「3人とも連れてったら目立つからだろうが!お前らは有名人なんだから少しは自重しろ!」
変装すればいいのかもしれないが、前回奴隷商人のところへ行った際、アマネ達は変装はしていなかった。だから今回も彼女達は変装させないで連れて行く必要がある。だが3人は目立つ。前回のような揉め事は勘弁だ。それに3人で行く必要もないだろう。
「他2人には別の事して貰ったほうが効率的だろ。」
「じゃ、じゃあ私でいいじゃない!クレアを紹介したのは私よ!だから私を連れていくべきなのよ!そこの狐には調査の方をさせましょ!」
「む・・・それは確かに一理あるな。じゃあ・・・カミールへはコハルと行くか。」
「やったわ!!!」
「なんでやあああああああ!!!」
おい、お前らさっきから喜怒哀楽が激しすぎるぞ。見てるこっちは面白いけど。
「ハルさん、コハル姐さんだけと行くのは駄目だと思います。」
サクヤがそれは問題ですと言ってきた。何故だ。
「ん、どうして?」
「以前のような事が起こった場合、コハル姐さんが制圧してる間、ハルさんを守る人がいません。姐さんなら大丈夫だとは思いますが、念の為にあと1人、2人は連れて行くべきかと思います。」
「あ、そうね。相手をしばくのに夢中になっちゃうかもしれないものね。」
そこは自重しろよと言いたいが、そんなのをコハルに求めるだけ無駄な気がする。
「別に守って貰わなくても大丈夫だけど・・・」
「駄目よ。ハルさんは弱っちいんだから。」
「そうです。どうせ何もできないんですからちゃんと守られてください。」
確かにそうなんだけど、事実なんだけど。そこまで言わなくてもよくないか。男として悲しい気持ちになるだろうが。お前らに人の心はないのか。
「た、確かにそうだけど・・・!俺だってやれば出来るんだよ!」
「無理です。」
「無理よ。」
泣くぞ?そろそろ俺泣くぞ?
「ぐっ・・・でもヨギリとアマネはそうは思わないよな!?」
「無理や。」
「無理じゃ。」
「ユイカやマシロ達も・・・」
「「「「「無理です。」」」」」
よし、泣こう。
「あ、ハルさん。今泣いたらさらに情けない男に成り下がります。」
サクヤが鬼すぎる。
「わ、わかったよ。コハル以外にも連れて行く・・・サクヤ以外。」
「な、なんでですか!提案したの私ですよ!」
お前は今俺にした仕打ちをもう忘れたのか。あれだけ言われてお前を連れて行こうと言うやつがいたら見て見たい。
「ハルさん!ほら、あれです!私の事は尻尾要因として連れて行くべきです!」
・・・お前はそれでいいのか?狐人族とやらのプライドはどうした。
「そもそも俺は目立ちたくないからコハル1人のつもりだったんだが?アマネやヨギリは有名人だから論外としても、サクヤ達も美人だから目立つだろ。」
「ハルさん、それはそれ、これはこれです。」
無茶苦茶だ。
まあサクヤには最悪変装魔法使って貰えばいいか。こいつらに何を言っても無駄だろうしな。
「わかったよ。じゃあサクヤもな。あと・・・ユイカ、来てくれ。」
「わたし・・・です?」
「ユイカと行きたい。いつも一緒にくるのは蛇だしな。」
サクヤ達の中から誰を連れて行くか選ぶようになってからも、ユイカだけはいつも除外されていた。監視用の蛇を付ける必要があったからだ。
「い、いきます・・・!わたしもいきます・・・です!」
「うん、よろしく。」
だから連れて行ける時はユイカを連れて行きたい。まあ他にも大勢連れて行けてない子達がいるのだが・・・彼女達はまたいずれだな。
「わらわは!わらわはなんで行けんのじゃ!!!」
「せや!尻尾要因ならうちでもええやん!うちにしいや!」
ええい、黙れ。うるさい。お前らは目立つから駄目だ。
変装魔法を使わせればいいだけかもしれないが、それなら別に他の子達でもいい。それに2人はずっと付き添っていたのだから、たまにはユイカに出番を譲ってやれ。
「大体出掛けられないわけじゃないだろ?俺はコハル達とカミールにいく。お前らはサンクレアに行く。留守番じゃないじゃん。」
「そ、そうじゃが!それは違うのじゃ!」
「何が違うんだよ?」
「ほら、あれじゃ!あれじゃよ!言ってやれ、ヨギリ!」
「だから何でうちに振るん!?う、うちも知らんし!」
こいつらはとりあえず文句を言わないと死ぬ病気にでもかかってるのか。まあ賑やかなのは楽しんだけど。
「ねえねえ、ハル。私は?私のお仕事はまだなの?」
今度はヒスイか。というか珍しいな。このドラゴンが寝るか食うか以外の事に興味を示すなんて。
「ヒスイの出番はまだ先だから寝てていいぞ?」
「えーもう寝るの飽きたんだけど。暇なの。遊んで。」
このドラゴン、天真爛漫すぎるだろう。
それにしてもヒスイもすっかり胡蝶に馴染んだものだ。しかも何故かわからないが、俺によく懐いてる気がする。アマネ達から守ってやってるからだろうか。
「じゃあヒスイは明後日な。明日はゆっくりしててくれ。」
「わかった。じゃあ明後日に備えて明日はずっと寝とくね。」
「そこまでせんでいい。普通に起きろ。規則正しい生活をしろ。」
「えー、やだ。めんどくさい。」
このドラゴン、やはりポンコツだ。。




