出会い (2)
お母さんは予定通り、私より先に家へ帰っていった。
転校するならすぐに手続きを始めた方がいいのだろうが、さすがに即決はできなかった。見学した学校で聞いた話は新鮮で、魅力を感じたけれど、あの教頭先生がずっといるという保証もないのだ。
私はあと何日か師匠の家に泊まって、町を見て回ることにした。
「じゃ、明日は『こどもの家』に行ってみようか」
「こどもの家って、施設?」
「そうそう。昔は孤児院って呼んでたね」
師匠は麦祭りの飾りを並べながら言った。夏の太陽神らしき小さな像もある。黒っぽい木を彫って作られているようだ。
(やっぱりリタ先生にちょっと似てる)
師匠の家にはいろいろな物がある。きっと白い冬の太陽神の像もどこかにしまってあるのだろう。飾りを並べ終わると、今度はグラスに水を注いで写真立ての前に置いた。グラスは小さいけれど蔦のような模様が彫り込まれていてとても綺麗だ。本当はお酒用だと思う。写真はとても古そうに見えた。
「死者の日じゃなくても、お供えするんだね」
「こういう特別な時期には、ふらっと帰って来るのもたまに居るからね」
師匠はにやりと笑って私の方を見たあと、なぜか台所の方に行った。戻って来ると、干した小魚のような物が載った小皿をグラスの横に置いた。
……それは、幽霊の話? と尋ねるのは、やめておいた。
それから、師匠はお茶の葉とお菓子が入った大きな箱を持って来てテーブルに置いた。どれもきちんと包装されて箱の中に並んでいる。それらの中からいくつかを取り出して、どれにするか選んでいるようだ。
「子どもたちにあげるの?」
「いや、明日は職員さんたちに差し入れようかと思ってね。今どんな子が何人いるか知らないから、子どもたちにはまた今度ね」
確かに、食べてはいけない物のある子がいたり、数が足りなくて喧嘩になったら大変だ。
(……児童施設か)
そこは私がついて行って良い場所なのだろうか。
本当は、分かっている。学校に行かないという選択ができるのは、安全な家があって、優しい家族がいるということでもある訳で、その時点で私はとても恵まれているのだろう。転校のことだって真剣に考えてもらっているのだから。
(でも、師匠の言う通りにしたほうが良い気がする)
この家に来たのは初めてではないものの、私はこの町のことをほとんど何も知らない。私はとりあえず師匠に従うことにした。
次の日、私は差し入れが入った袋を持って、師匠と一緒に「こどもの家」へ向かった。
バスを降りてすぐに、フードを目深に被った人とすれ違った。なんとなく目で追うと、一瞬、その人の上着の裾から尻尾の端のような物が見えた。ちょっと暑そうな格好だと思ったけれど、あの人も日光が苦手なのかもしれない。
(あの学校の先輩かも)
先輩。これもまた恐ろしい言葉だ。初等部の頃は影の薄かった概念なのに、中等部に入った途端に当たり前のような顔で猛威を振るうのはいかがなものだろうか。せめて事前にしっかりとした説明が欲しかった。
師匠は「こどもの家」に行くのはひさしぶりだと言っていたけれど、迷いなく歩いていく。バスを降りた時から見えている、いかにも歴史のありそうな建物が目的地なのだろう。予想通り、広場を抜けてその建物の入り口へ向かう師匠に、私はついて行った。入り口には麦でできた飾りがあった。
「こんにちは。施設長はいらっしゃるかしら」
「ナターシャ様!」
受付の人が答える前に、奥から男の人が出て来て師匠に声をかけた。
「あら、おひさしぶり」
「おひさしぶりです。いま呼んできますね」
やや長めの髪を後ろで結んだ、何だか爽やかなお兄さんはそう言って奥へ戻る。しばらくして別の男の人が出て来た。
「ご無沙汰しております、ナターシャ様。お元気そうで何よりです」
「おひさしぶりね、クラウスさん。この娘はエーリカ、曾孫みたいなもんよ」
「こんにちは」
「こんにちは、エーリカさん」
施設長という人は背が高く、まだ割りと若そうに見えた。少し癖のある明るい茶色の髪をしている。穏やかそうな人だったが、師匠とのやりとりを見るに、この人も只者ではない気がした。
「あなたも変わらないわね」
「先達が居ると心強いです」
私たちは三人で近くの部屋に移動した。座って師匠と施設長のお喋りを聞いていると、先程の爽やかお兄さんがやって来て「どうぞ」とお茶を出してくれた。紅茶の良い香りがする。
「こないだね、町立学校に行ってきたのよ。噂の教頭先生にも会ったわよ」
「そうでしたか。どうでした?」
「評判通りの方ね。この町の未来も明るいかもね」
フフフ、と師匠と施設長が笑う。ちょっと魔女っぽいな、と私は思った。もしかしたら、施設長は魔術師なのかもしれない。師匠も昔、魔術師として仕事をしていた時期があったらしいから。
「そうそう、職員さんたちに差し入れ持ってきたの。足りるか分からないけど」
師匠はそう言って、箱を開けて中身を見せた。
「ありがとうございます。みんな喜びます」
「最近どう? やっぱり子どもの数は減ってるのかしら?」
「そうですね。一時期に比べたら今はかなり少ないです。小規模化を進めていこうという流れですから、それで良いのだと思います」
施設長はそう言って一瞬黙った。そして私の方を向いた。
「エーリカさん、大変申し訳ないのですが、少しだけナターシャ様と二人でお話してきてもよろしいでしょうか」
「あ、はい。大丈夫です」
そう言ったものの、少し不安そうな私に気づいてか、施設長は微笑んだ。
「この部屋にある本は自由に読んでかまいませんから。それから、ここで暮らす子どもたちの部屋は中庭より奥にあります。ですから、中庭より手前でしたらお一人で行動しても大丈夫ですよ。私たちは、施設をより開けた場所にしていこうと試みているんです。施設の外の子どもにも気軽に頼ってもらえるように」
私はとりあえず頷いた。といっても私はこの部屋で待つつもりだけれど。
二人が出て行くのを座ったまま見送ると、私は一人になった。
(本でも見てみるか)
せっかくなので、本棚に向かってみる。子ども向けの本が何冊も並んでいた。
(読んだことあるのも結構ある。……ん?)
がらら
背の低い本棚の上の窓が開いて、目が合った。
「え」
ぴょんっ
「ぇ!?」
(猫、じゃない)
白っぽい、幼獣。きっと猫科だ。薄い灰色の斑点がある。
(ヒョウ?)
そのヒョウみたいなよく分からない猫科動物の仔は、本棚から隣の椅子に飛び移り、そこから床に降りるとテーブルの方へ走って行く。
「あっ! だめ!」
止めたいが、触って良いのか分からずためらった隙に、幼獣は椅子に飛び乗るとテーブルの上の差し入れのお菓子を一袋咥え、猛スピードで駆け出した。
とっさに、私は猫になった。
(ちゃんと変身できたけど)
追いかけるよりも人を呼ぶべきだったな、と思ったが、もう遅かった。
(だって食べちゃったら危ないかもしれないし)
私はサビ猫の姿で窓へ向かい、幼獣を追いかけた。
(ここは中庭? 裏庭?)
ここがどこかも分からないが、幼獣について行くとちゃんと草地の上に降りられた。窓まで上がる為の木箱は、もともとここにあったのだろうか。
私はお菓子の袋を咥えた幼獣と睨み合い、
(あ、失敗したな)
と思った。幼獣の方が猫の私より一回り大きいのだ。頭も手も大きくて、何というか、骨格ががっしりしている。普通に怖い。
(あれ?)
お菓子を咥えた幼獣の後ろにもう一匹、そっくりな仔がいた。毛並みの色は少し違う。警戒するようにこちらを睨んでいる。一方、さっきの仔は猫に興味があるのか、何やら目を輝かせてゆっくりこちらに近づいて来る。
(まずい)
私は全力で威嚇を繰り出した。
「シャー!!!」
ここでじゃれつかれて死ぬわけにはいかない。目一杯猫らしく毛を逆立たせ、背中を持ち上げる。幼獣は後退りした。
(よし)
私はそのまま数歩前に出た。
こてっ
幼獣がこけた。と思ったら、もうそこに動物の姿はなかった。
(やっぱり……でもお菓子が無い)
そこには幼獣の代わりに小さな男の子が座っていた。幼稚園児だろうか。さっきまで持っていたお菓子は見当たらない。
(ヰ人……? だよね?)
男の子の髪の色はとても変わっていた。白っぽい柔らかそうな髪の毛の中に、ところどころ黒っぽい部分があって、不揃いな斑点のようになっている。目の色も、どちらも淡い色で分かりにくいが、左右で少し違うように見える。
(すごくかわいい。けど……)
何だか人間離れしている。正直そう思った。そしてそれは色のせいだけではない気がした。
「みつけた」
「アロン!ニコ!」
大人の声がした。見上げると、爽やかお兄さんがいて、その後ろに女の人がいた。女の人は私のお母さんよりは年上で、師匠よりは若いように見えた。女の人は、いつの間にかそこにいた、元灰色幼獣であろうもう一人の男の子を抱え上げた。こちらの子は私の目の前の子とは逆に、黒っぽい髪の毛の中に白っぽい斑点があるようだ。双子だろうか。続けてお兄さんが白っぽい方の子を抱え上げると、元白幼獣のその子は露骨に嫌そうな顔をした。
(どうしよう)
サビ猫だから隠れられるかも、と思ったが、お兄さんはもうこちらに気づいていた。笑って私の方を見ている。
「戻れる?」
私が頷くと、お兄さんは男の子を抱えたまま、私に背を向けてその場に座った。少し隠してくれるつもりらしい。
(助かった。……ていうか、私だってこと分かるんだな)
怒らないでくれてありがたい。私は急いで元に戻った。すぐに自分の服を確認してみたけれど、大丈夫そうだ。変身は戻る時に服がおかしなことになりそうで、そこが一番ひやひやする。
お兄さんがどこかに向かって手を振った。
(あ、師匠だ)
施設長と師匠がこちらに向かって来るのが見えた。
「大丈夫でしたか?」
「ええ。見事な変身でしたよ。ナターシャ様直伝ですか?」
「ははは。まだちゃんと覚えてたみたいね」
変身したことがばれてしまった。施設長は「それは私も見たかった」と笑っている。
この変身術は、3年くらい前に師匠が教えてくれたものだ。危ないから師匠の家以外では使わないようにと言われたので、ひさしぶりに使ったが、一応上手く出来たと思う。
(今ここで使っちゃったけど)
そもそも変身術に限らず、魔術は私有地以外での使用は原則禁止だ。私は規則を破ったことになる。この人たちが大して怒らないのは、私もまだ子どもだからだろう。
(普段は規則を破ったりなんか絶対しないのに)
……いや、絶対、というと嘘かもしれないが、私は基本的には規則を守る方だ。だってその方が楽だし、安全だから。私は叱られるのも咎められるのも大嫌いだ。なのに何故変身なんかしてしまったのだろう。……不可抗力だと思う。うん。
辺りを見ると、ここはやはり中庭のようだった。施設長は私に「中庭に入って良い」とは言わなかった。
(なんて説明しようか)
その場に座りこんだまま、恐々と施設長の方を見ると、目が合ってしまった。施設長はまだ笑っている。
「なかなかお転婆なお嬢さんですね」
「……すみません」
私が謝りながらやや不服そうに元白幼獣の方を見ると、施設長も何かに気づいたようだ。
「ニコラ、ポケットの中の物を出しなさい」
「……」
施設長と元白幼獣が睨み合う。しばらくすると観念したのか、男の子はポケットからさっきのお菓子の袋を取り出した。
「割れちゃいましたね」
「あはは。まあいいさ。まだあるからね」
師匠が笑った。クッキーは、袋の中で半分ぐらい崩れてしまっていた。
「ニコラ、クッキー食べたかったんですか?」
「おとな、ずるい」
「でも勝手に食べたら危ないでしょう? 毒入りだったらどうするんです?」
「どく!? どくあるの!?」
施設長さん、おかしなこと言わないでよ、と思ったが、男の子は「キャー!」と叫びながら何故か嬉しそうだ。
(まあ子どもだもんな)
体を揺らしながらきゃっきゃと笑う元白幼獣を見ていると、何だか弟の小さい頃を思い出した。一方もう一人の男の子を見ると、ちょっと怖がっているように見えた。男の子の後ろの女の人は苦笑している。
「ハーブ入りだからね、子どもは苦手かもね」
「ハーブですか。合法ですか?」
「あはは! さあね?」
「はははっ!」
師匠と爽やかお兄さんまで物騒なことを言って笑っている。やめて欲しい。
師匠の作るハーブ入りクッキーはすごくおいしくて、私は大好きだ。ローズマリーを入れると、いろんなものがおいしくなるような気がする。
「食べられそうなのがあったら、後であげますから。勝手に食べたらだめですよ」
「ふーん」
施設長の言葉に返事とも何とも言えない声を出しながら、元白幼獣が私の方を見た。
「ほら、ニコも戻りましょうね」
女の人が声をかけると、
ぐいっ
「痛っ」
元白幼獣が私の髪の毛を引っ張った。
「こらっ、何してるの! ごめんなさいして!」
女の人が慌てている。男の子はにっと笑って、
「ごめんね。ちびねこちゃん」
と言った。
(ちびねこ……)
二人の男の子はお兄さんと女の人に連れられて中庭の向こうに帰っていった。二人とも途中で振り返って、こちらに向かって小さな手を振ってくれた。私もとりあえず手を振り返した。
(あ)
向こうのガラス戸に小さな女の子の姿が見えた。あの二人と同じくらいの年だろうか。
「さて」
施設長が言った。私はぎくりとした。
「もう少しお話してもよろしいでしょうか、エーリカさんも一緒に」
私たちは三人で部屋に戻った。
「エーリカさん、お怪我はないですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「よかった。驚かせてしまってすみません」
「いえ……」
何だか申し訳なくなる。師匠は何故かにやにやしているし。
「ところで……エーリカさんは週末里親ってご存知ですか?」
「しゅうまつ、里親ですか?」
「はい。施設で暮らす子どもたちに普通の家庭を体験してもらうため、週に何日か、あるいは夏休みなどに、一般の里親さんのお家で預かっていただく制度です」
施設長が説明してくれた。
「知りませんでした」
「普通の里親や養子縁組と比べると知られていない制度かもしれませんね。正式な里親や養親が早く決まるのが一番良いのかもしれませんが、様々な事情でなかなか決まらないこともありますし、有意義な制度なんですよ」
「そうなんですね」
(でも、何で今その話をするんだろう?)
「実は、ちょうどナターシャ様と、さっきの二人について話していたんですよ」
「さっきの」
「ええ。あの二人は少し特殊でして。まあ、ヰ人ということになるんですが、正確な種族などは不明なんです。他にも色々と事情があって、里親探しは難しい状況です」
「……大変なんですね」
ヰ人。それは普通の人間とは明らかに違う特徴を持つ人たちの総称だ。総称でなくそれぞれの種族名で正確に呼ぶべきだ、とか、あるいは、人間と区別する必要はないはずだ、といった意見もあって、ヰ人という呼称を廃止しようした時代もあったらしい。けれど、混血も進んでいるし、それこそ種族名が不明な人もいるので、結局は今も一般的に使われている。
ヰ人の数は地域差が大きいらしく、私の地元では少なかった。反対に、この町はヰ人が多いことで有名だそうだ。
「エーリカさんは、二人をナターシャ様のお家で預かることについて、どう思いますか?」
「えっ?」
私は思わず師匠を見た。師匠はにやっと笑う。
「えーと……」
「もちろん、いきなり長期滞在をさせるつもりはありません。ただ、あの二人に合う環境はとても限られているんです。『普通の家庭を体験』するのとはまた違う経験になりますが、私は、ナターシャ様の家で過ごすことが、あの子たちにとても良い影響を与える気がするんです。ですから、エーリカさんがよければ、いちど私か職員と一緒にご訪問させていただけないかと思いまして。ナターシャ様は昔、里親になられた経験もお持ちですし」
「えっ? そうなの?」
「もうずいぶん昔の話だけどねぇ」
長生きなだけに、師匠には謎が多い。
「あの、私は師匠の家に住むと決まったわけではなくて。夏休みが終わる前に一旦家に帰るし……だから、師匠が決めることだと思いますけど、師匠一人の家で大丈夫なんでしょうか? 危なくないですか?」
「そうよねぇ、こんな高齢者一人の家じゃあねぇ」
師匠がわざとらしく困った顔をして言った。
「その、師匠は元気だし、大丈夫かもしれないけど……でも、私がいたとしても、危ないかもしれません。私、あんまり小さい子のお世話とかしたことなくて。弟はいますけど、私と年が近いし」
「エーリカさんにお世話をさせるつもりはありませんよ。あなたは自分のために時間を使うべきです」
施設長はきっぱりと言った。
「週末里親といっても、しばらくは日帰り、または職員も一緒に一泊することになると思います。もし、あの二人がもう少し大きくなって、慣れてきてからも継続させていただけるのであれば、二人で泊まりに行かせることになると思います。通常とは異なる方法ですが、ナターシャ様のお家であれば可能です。いずれにせよ、ナターシャ様とエーリカさんが受け入れてくださるならの話ですが」
ここまで言われると断りにくい。というか、私が「だめです」というのも変な話だと思う。師匠の家には余っている部屋や客人用の部屋もあるし、職員さんも泊まることは可能だろう。
「私としても、エーリカさんの新生活にご迷惑がかかるようなら、むしろやめたほうが良いと思っています。週末に小さい子どもがやって来たら、気が休まらないということもあるでしょうし。ただ、先程の様子を見ると、あの子たちとエーリカさんは相性が良いような気もしたんです」
「そうですか……?」
相性が分かるほどの時間は無かったと思うのだが。施設長が本気で言っているのかどうか、よく分からない。
「私も、相性は悪くないと思うよ」
「……適当に言ってない?」
「『適当』ならいいじゃない。ちょうどいいってことだ。はははっ。悪くないと思うのは、本当だよ」
師匠もよく分からない言い方をする。
(うーん。師匠としては引き受けたいってことなのかな)
少し悩んだが、私はややゆっくりと、こう答えた。
「施設側が全部の責任を持って、基本的には何があっても師匠や私や、私の家には一切責任を問わないのなら、私は別に反対しません。あとは、何か気をつけることとか、あの子たちの……えっと、目とか耳のこととか、もし怪我をしたらどうするのかとか、そういうことをまとめて書いた紙も欲しいです。もちろん、子どもたちが安全に楽しく過ごせるように、私も協力はします。もし私がいたら、ですけど」
施設長が「通常とは異なる」と言ったことが、私は気になった。
里親って、基本は両親が揃っている家でやることだろうし、安全のための条件とかも本当はたくさんあるはずだ。そこを、あの子たちがヰ人で、師匠の家が「魔女の家」だから、特別に何とかするということだろう。もっとも、施設長がいま言ったのは、週末里親というより「『魔女の家』滞在体験」だと思うが、いざ何かあった時がやっぱり怖い。そもそも安全面に問題があったら子どもたちのためにならないと思う。
私の返事を聞くと、施設長は少しだけ目を見開いて、
「ありがとうございます」
と言った。
帰り際、受付の近くの飾り棚に、三つの鳥の置物があるのに気づいた。
(来た時は見てなかったな)
これも、たしか何かの神様的なものだったと思う。
白い鳥と、灰色の鳥と、黒い鳥。素朴なようでいて、なんだか神秘的でかっこいい。
(うーん)
考えることが増えてしまったような、私が考えることでもないような。
またお母さんたちに相談するべきなのかな、と思いつつも、私の気持ちはたぶん、もう決まりかけていた。




