プロローグ
私が外に出てからずっと雨が降っているな。
灰色の空から落ちる水滴が、私の頭を叩く。
ただ、ぼんやりと目の前の景色を眺めていた。
色褪せたベンチ、雨風に揺られる木々、誰もいない公園。
ただ雨の冷たさが体の芯まで沈んでいく。
ーーー早く帰らないと風邪を引いてしまうだろう。
それでいい、それがいいんだ。もし、体調を崩せば家族からの愛情をまたもらえるかもしれない。
わたしが今まで手に入れられなかったもの。何をしても手に入らなかったもの。
体調が悪い時だけ簡単に手に入ってしまうのだ。
足音が近づく。土と雨水でドロドロになった地面を誰かが歩いてくる。
足音はわたしの目の前で止まり、ため息をついた。
「……こんなとこで何してるんだよ。」
顔を上げると、見慣れた顔があった。私に傘を差し出していた。
低く抑えた声。水滴の向こう、悠真がまゆを寄せて立っている。
「別に……なんでもない。」
私はわざと視線を逸らした。
「帰るぞ。」
反論するまもなく悠真は私の腕を掴む。濡れた指先から熱が伝わってくる。
私たちは一本の傘の中に押し込められるようにして歩き出す。
肩が触れ合うたびに私の心臓は落ち着きを失っていく。
ーーーこのまま風邪ひいて高熱でも出ないかな……。
そんな願いを雨の中に隠した。