第43話 伝えたいこと
皆様の応援のおかげで無事、第2部が完成しました。ありがとうございました!
王宮へ帰還――
「ようやく……戻ってきたわね」
王宮の門が見えてきた瞬間、私は思わず深く息を吐いた。
貿易都市ラルフタインの黒い霧を晴らすため調査に行き、魔力炉の封印を修復し、ライアンの過去と彼の真意を知った――そして、そのすべてを、王宮へ報告する。
「……王宮の連中が、すんなり話を受け入れるとは思えないな」
シモンが険しい顔をしながら言う。
「問題は、どう伝えるかよね」
クラリスも同じく難しい表情を浮かべる。
「特に、ライアンに関する部分だな」
「王宮の人々が彼をどう見るか、ってこと?」
「そうだ」
カイル様は鋭い目を向ける。
「ライアンは王国の未来を案じていたとはいえ、独断で行動しようとしていたことは事実だ。だが、それをどう伝えるかで、彼の処遇が決まる」
私は、そっとライアンの方を見た。
彼は王宮の正門を前に、まるで何も感じていないような表情をしていた。
(……あなたは、本当はどうしたいの? 目的を果たしたなら、もうそれでおしまいなの?)
でも、聞いてもきっと「どうでもいい」とか、そんなことを言いそうだった。
「とにかく、私たちの役目は真実を伝えること。あとは王宮がどう判断するか……」
私は深く息を吐いた。
――――――――――
王宮の会議室――
重厚な木製の扉がゆっくりと開かれ、私たちは中へと案内された。
「国王陛下がまもなくお越しになります」
近衛兵が静かに告げる。
私たちは大きな円卓の前に座り、緊張しながら待った。
やがて――
「よく戻ったな」
ドアが開かれ、威厳ある佇まいの国王が現れた。
国王は堂々とした足取りで王座に座り、私たちを一瞥した。
「報告を聞こう」
カイル様が立ち上がる。
「陛下、報告いたします」
カイル様が私たち、そして王国になにが起きたかを整理し、冷静かつ的確に伝えた。
国王の表情は動かない。
「……封印した魔力炉が原因か」
「はい」
カイル様は真っ直ぐに頷く。
「王国が長年隠していた“過去の遺産”です」
「ふむ……」
国王はしばらく沈黙し、ゆっくりと視線をライアンへ移した。
「ライアン・ランツァ」
「………………」
ライアンは無言のまま、国王の視線を受け止めた。
「お前が、蒼穹のルーンストーンを求めた理由は理解した。しかし、王宮に無断で動き、裏切りともいえることを成そうとした。それは重い罪となる」
国王の声が厳しく響いた。
(ライアン……)
私は、ライアンがこのまま王宮から追放されるのではないかと心配になった。
しかし――
「だが、お前が王国を思い、動いていたこともまた事実だ」
国王はゆっくりと言葉を続けた。
「魔力炉の封印が崩れかけていたのならば、それを放置することもまた、王の過ちとなる」
「ライアン・ランツァ」
国王は真っ直ぐに彼を見据えた。
「軍事顧問を解任――」
「……!!」
「そして王宮の魔道顧問に任命する」
ライアンは目を細めた。
「……俺を、魔道顧問に?」
「そうだ」
国王ははっきりと告げる。
王宮の魔道顧問――それは、王国の魔法に関する政策を指揮し、助言を行う立場。
「お前が知る知識と実力を、この王国のために生かせ。お前の先祖がそうであったようにな」
驚きと迷いがライアンの表情から伺える。
(ライアン……)
私は彼をそっと見つめた。
ライアンは長い沈黙のあと――
「……承知いたしました」
静かに、しかし確かな声でそう答えた。
彼の赤い目には優しさを感じる。
トリア村の魔物の襲撃から始まった今回の騒動は無事に終息した。
黒幕であり立役者でもある彼、「エターナル・ロマンス」ではラスボスだった男、ライアン・ランツァは王宮の魔道顧問という新たな役割を与えられた。
彼が現れたときはどうなることかと思ったけれど、ハッピーエンドを迎えられたかな。
――――――――――
報告が終わった後、私は王宮のバルコニーにいた。
(終わった……本当に……)
最近はずっと忙しい毎日だったけど、ようやく心から一息つくことができた。
夜風がそっと頬をなでる。静かに瞬く星々を見上げながら、私はこれまでの出来事を振り返る。
「リリアナ」
優しい声が響いた。
振り向くと、カイル様が立っていた。
「……カイル様」
「君のおかげで、王国は一つの危機を乗り越えた」
「そんな……私のおかげだなんて……」
私は微笑む。
「みんながいたから、できたことです」
カイル様はふっと笑った。
「それでも、君がいなければ成し遂げられなかったよ」
そう言って、彼は私の手をそっと握った。
「えっ……!?」
「君には……感謝している。そして……」
カイル様は優しく微笑みながら、私の頬にそっと手を添えた。
「……君と共に未来を歩みたい」
「カイル様……」
胸がドキドキする。
(これは……プロポーズ? いや、でも……!)
「え、えっと……!」
「……ただ、今はもう少し時間をくれ」
カイル様は微笑んだ。
「僕は君と共に、この王国をより良くしていきたい。だから、そのための準備をさせてほしい」
「……はい」
私はしっかりと頷いた。
(カイル様と共に、未来を歩む――それは、私の願いでもあるから)
カイル様が私の頬に添えていた手をゆっくりと下ろそうとした――その瞬間。
「……ねえ、カイル様?」
私は思わず、彼の手をそっと掴んだ。
カイル様が驚いたように私を見る。
「どうした?」
「その……」
私は目を伏せる。
(なんで私、こんなにドキドキしてるの!? いや、でも、ここは……!)
「今だけ、少し……わがままを言ってもいいですか?」
「……もちろん」
カイル様は微笑んだ。
その優しい眼差しに、私は意を決して――そっと彼を見つめた。
カイル様は、ふっと息を吐くように笑い、私の手を引き寄せた。
「……わがままを言うのは、僕の方かもしれないな」
「あっ……」
次の瞬間――
ふわり、と夜風が吹いた。
そして、カイル様の手が私の頬に添えられ、ゆっくりと顔が近づいて――
「……っ」
柔らかな感触が、唇に触れた。
それは、驚くほど優しくて、けれど確かな温もりを持っていた。
目を閉じると、彼の指がそっと私の髪を撫でるのを感じる。
長くも、短くもない――けれど、私の胸に深く刻み込まれるようなキスだった。
やがて、カイル様がそっと唇を離し、私を見つめた。
「……驚いた?」
私は、カァッと顔が熱くなるのを感じながら、コクコクと頷いた。
「び、びっくりしました……!」
「ふふ、そうだろうね」
カイル様は微笑み、私の頬にそっと指を滑らせた。
「でも……これはずっと前から、君に伝えたかった気持ちだよ」
「……!!」
私の心臓が、一気に跳ね上がる。
(ずっと前から……? じゃあ、カイル様は……!)
「リリアナ」
彼の青い瞳が、まっすぐ私を捉える。
「僕は――君を愛している」
その言葉は、夜空に溶けるように静かに響いた。
「……っ!」
思わず涙が浮かびそうになった。
(こんなに真っ直ぐに想いを伝えられたら、もう……!)
私は震える声で、精一杯の気持ちを伝える。
「……私も……カイル様が、大好きです」
するとカイル様は、どこか安堵したように微笑み――
「うん、知ってる」
「えええ!? なんで!?」
「ふふ……顔に出てるから」
「そ、そんなのずるいです!」
私は思わず頬を膨らませるが、カイル様は優しく笑いながら、もう一度そっと私の手を握った。
「これからも、君のそばにいるよ。だから……よろしくね?」
「……はい!」
私は笑顔で、しっかりと彼の手を握り返した。
そして、夜空に輝く星を見上げながら、心の中でそっと誓った。
これからも、ずっと一緒に……。
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