最終話
最終話です
あの日から、数日の後。
「セリさん」
「あ、アルザスさん…いらっしゃいませ…」
セリは顔を真っ赤にして言った。甘えてしまったことが、たまらなく恥ずかしかった。
「その、この間はありがとうございました…」
なんとか、お礼を言うとアルザスはとても嬉しそうに笑った。
「貴女が生きていてくれて本当によかった。ただ、すみません…。涙に濡れる貴女を抱き締めてしまっ」
「そ、それ以上言わないでください…」
もう、顔から出火しそうだ。
慌ててアルザスの言葉をとどめると、彼はクスリと笑った。
「セリさん。お願いがあるんです。」
「ご依頼ですね、どうぞ!」
よほど恥ずかしかったのか、セリは食いぎみに先を促した。
「いえいえ、これはあくまで僕個人からのお願い事なんです」
きょとんとしたセリを熱のこもった目でアルザスは見つめた。
「僕は貴女が好きです。セリさん。どうか、僕の花嫁になっていただけませんか」
セリは、目を大きく見開いて、パクパクと口を動かした。紅い目には涙が浮かんでいた。
「返事…くれますか?」
「待って…ください。一週間。それだけあったら、お父さんを説得できるから…」
「それって…」
「はい…」
恥ずかしげにセリは目をそらした。
「セリっ!」
僕はたまらずセリを抱き締めた。セリはやっぱり甘え下手のようで僕の腕の中で固まっている。今は、セリが素直に甘えられるようになるまで、もう少しこのままで。
⭐おまけ
「お義父さん、娘さんを僕にください!」
「お前にお義父さんと呼ばれる義理はない!」
セリの両親に挨拶に行くと、ライ様が何がなんでも認めないつもりらしかった。それでこの茶番である。
「大体、仕事はあるのか?!」
「あります!」
断言すると、セリがびっくりしたのか首をぐりんっと回してこちらを見た。もげるのではないか、と思うほどの勢いだった。
「何の仕事だ」
「魔物対策科長官秘書です」
「…謀ったな?」
魔物対策科長官は、軍部の予算を握っている。つまり、ここでライが断れば、僕は長官に進言し、もう少ーしだけ財布の緒を締めることもできなくない。
「…はあ、お前は誰に似たんだか。ディドロ(アルザスの父)はもっと押しが弱かった気がするんだが?」
「僕は父の息子でありますが、手に入れると決めたものは必ず手に入れるという、ローズ嬢の息子でもあるんですよ」
ライは諦めたようだった。
「お父さん。認めてくれないんだったら、孫抱かせないから」
「待ってくれよセリ。それはつらい」
そんなこんなで、ようやく許可してくれた。
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「そういえば、セリ。どうして、僕の求婚を受け入れくれたの?」
「…え?」
そう聞くと、セリは真っ赤になった。
「初めてだった。私の目と髪を綺麗っていってくれたのも、甘えるみたいに泣いたのも。何でかわからないけど、アルザスになら甘えられるの」
「セリ…!」
僕は腕のなかにセリを閉じ込めた。
やっぱりまだ抵抗しようとするセリは、甘え下手ではあるけれど、僕にだけ甘えられるのなんて可愛いことを言ってくれた。僕は妻を離せる気はまったくしなかった。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
セリの両親のお話もあるので、よろしければこちらもどうぞ。
公爵様はただのもらい事故
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