第十九話 練習よぉ
母さんにいきなりばらされた子猫の名前。
背中にも顔にも汗が噴き出してきたことを感じる。そんな僕を三人がじぃ~っと見つめている。心の中は焦っているけど、それを何とか隠しておくしかない。
「と、とりあえず、みんな入ってよ」
「そうねぇ~。こんな所でお話してるより中でゆっくり話した方がいわよねぇ……その方が私もゆっくりと見ることが出来るし……」
母さんが僕の隣で一人の女の子を見ながらニヤニヤしている。
「か、母さん何言ってるんだよ!! いいから皆に飲み物とか用意してよ!!」
不敵な笑顔を見せている母さんをぐいぐいと家の中へ押しながら入って行った。
どこにでもある普通の二階建ての一軒家。父さんは公務員で母さんは専業主婦。父さんの働いている所に後から入ってきた母さんと恋仲になって結婚したと、後になってでれでれな顔をした父さんに聞いた事がある。恋愛結婚した事もあってか、ウチの両親は今になっても仲が良い。いや良すぎる!!
朝から夜まで二人でいる時は甘々な雰囲気を出しまくっている。僕がいても他に人がいても気にする事が無い。僕はそれをどうにかして欲しいと思っている。
――はぁ……柚葉にはまだ会わせたくなかったんだけどなぁ……
家に中に入った三人は僕の部屋に行くこともせずに、荷物をリビングにおいて子猫に夢中になっていた。
リビングに接しているキッチンでいそいそと飲み物を用意している母さんに、僕は三人が夢中になっている様子を見ながら近づいて行った。
「母さん……」
「なぁに?」
内緒話をするような小さな声を掛けた母さんはにっこりと微笑んで振り向いた。
「猫の名前だけど……もしかして、あの柚葉の……?」
「あら!! 気付いたのね!?」
口の前に手を持ってきた母さんは眼を大きく見開いて、見るからに大げさに驚いて見せた。
「でもどこで見たの?」
家に連れてきたのはこの日が初めてなのに、どこで彼女が[柚葉]だと知ったのか不思議だった。
「あなたと、あの子が土管の前でお話してたでしょ? 偶然、買い物してた帰りに見つけたのよ。声を掛けようと思ったのよ? でも楽しそうだったから……」
「でも名前は?」
「あなたが呼んでいた。たでしょ? あの子の事を柚葉って……」
「あっ!!」
――あの時の聞こえてたのか!?
いきなり大きな声を上げた僕の方へ、リビングでネコに夢中になっていた三人も視線を向けた。僕は何でもないと手をブンブンと振ってその視線に応えた。その後でまた母さんに
「でも……なんで柚子なのさ!?」
「練習よぉ。あの子を呼んであげるためのね」
僕のちょっと怒ったような質問にも、「どうしたの?」という感じの表情で母さんが答えた。
僕はその言葉を聞いて昨日、柚葉としたお願いを思い出していた。思い出した途端に全身の血が熱くなるような感じ出した。
「あらあら……」
母さんはそんな言葉を残して僕の頭をポンっとひと撫でしてリビングへ飲み物をもっていってしまった。
僕あその場に立っていた。たぶん顔も耳も真っ赤なままで――
お読み頂きありがとうございますm(__)m
好きな子を家に呼ぶ。遊びに来る。
ドキドキしませんでしたか?
作者は残念ながら匠の年代には呼んだ事も家にあげた事もありません(泣)
お母さんがニヤニヤする気持ちも分かる様な分からないような……
次回は柚葉sideです!!
お楽しみに!! (≧◇≦)




