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黒狼と森の叫び

第三話 黒狼と森の叫び


 巨大な黒狼は低く唸っていた。

 赤い瞳。

 黒い霧。

 鋭い牙。

 どう見ても強そうだった。


「よし!」


 シオンが剣を構える。


「行くぞ!」


「待って!」


 フィアが慌てて叫んだ。


「え?」


 全員が振り返る。


「戦っちゃ駄目!」


「なんで!?」


 シオンが思わず聞き返す。

 フィアは黒狼を指差した。


「あの子、森の守り狼だから!」


 沈黙。


「え?」


 僕。


「え?」


 リン。


「え?」


 ルミナ。


「え?」


 ミナ。

 全員同じ反応だった。


「守り狼?」


 僕が聞く。

 フィアは頷く。


「あの子はフェン」


「この森を何百年も守ってきた守護獣なの」


 もう一度黒狼を見る。

 確かに。

 よく見ると苦しそうだった。

 敵というより。

 何かに耐えているように見える。


「じゃあ倒しちゃ駄目じゃん!」


 ルミナが言う。


「駄目!」


 フィアも頷く。


「でも襲ってきそうだぞ?」


 シオンが警戒する。

 その時。

 フェンが苦しそうに吠えた。


 ガアアアアアッ!!


 森全体が震える。

 そして。

 黒い霧がさらに溢れ出した。


「まずい!」


 フィアの顔色が変わる。


「歪みが広がってる!」


 その時。

 ポケットの結晶が光る。

 アルスの声が聞こえた。


『やはり守護獣に影響が出ているか』


「助ける方法は?」


 僕はすぐに聞いた。

 すると。


『黒い岩を浄化するんだ』


「岩を?」


『守護獣自身が原因じゃない』


『歪みに侵食されているだけだ』


 なるほど。

 つまり。

 フェンは被害者だった。


「アキラ!」


 フィアが叫ぶ。


「フェンを抑えられる!?」


「たぶん!」


「たぶんかよ!」


 シオンがツッコむ。

 でも時間がない。

 僕は前へ出た。

 フェンが飛びかかってくる。


「うわっ!?」


 大きい!

 本当に大きい!

 慌てて魔法を発動する。

 光の壁が出現した。

 ドォン!

 衝撃が響く。


「重い!」


 想像以上だった。

 壁越しでも分かる。

 フェン自身も苦しんでいる。


「アキラ!」


 リンの声。


「右!」


「え?」


 慌てて避ける。

 直後。

 黒い霧の塊が飛んできた。

 危ない。

 本当に危ない。


「ありがとう!」


「どういたしまして!」


 リンが笑う。

 頼もしい。

 一方。

 シオンは岩へ向かっていた。


「これ壊せばいいのか!?」


『壊すんじゃない』


 アルス。


『浄化だ』


「難易度上がったな!?」


 もっともだった。

 その時。

 ルミナが手を挙げる。


「ねぇ!」


「今!?」


 シオンが叫ぶ。


「いいこと思いついた!」


「嫌な予感しかしない!」


 しかし。

 ルミナは真剣だった。


「フェンを助けたいんだよね?」


「そうだけど」


「だったら」


 ルミナはミナを見る。

 ミナも頷いた。

 そして。

 二人同時にフェンへ向かって走る。


「待てぇぇぇぇ!?」


 僕が叫ぶ。

 危険すぎる。

 だが。

 二人は立ち止まらなかった。

 そして。

 フェンの目の前まで行く。


「大丈夫だよ!」


 ルミナが言う。


「苦しいんでしょ!」


 ミナも言う。

 フェンが動きを止める。

 赤い瞳が揺れる。


「私たちが助ける!」


「だから頑張って!」


 その言葉を聞いた瞬間だった。

 フェンの瞳から。

 一瞬だけ黒い霧が薄れる。


「今だ!」


 フィアが叫んだ。


「アキラ!」


「うん!」


 僕は岩へ手を向ける。

 自然と魔力が集まる

 温かい光。

 優しい光。


 すると。


 白い光が岩を包み込んだ。

 黒い霧が少しずつ消えていく。

 そして――


 パリン。


 ガラスが割れるような音。

 黒い岩が砕け散った。

 静寂。

 森に風が吹く。

 黒い霧は消えていた。

 フェンも動かない。


「終わった?」


 僕が呟く。

 すると。

 フェンの身体を優しい光が包んだ。

 黒い毛並みが少しずつ元の色へ戻る。

 赤い瞳も穏やかな金色になった。


 そして。


 巨大な狼はゆっくり立ち上がる。

 もう苦しそうじゃない。

 穏やかな表情だった。


「助かった……」


 フィアがほっと息を吐く。

 フェンは静かに歩く。

 そして。

 ルミナとミナの前で止まった。


「?」


 二人が首を傾げる。

 すると。

 フェンは。

 ぺろっ。

 二人の顔を舐めた。


「きゃー!」


「冷たい!」


 二人が笑う。

 フェンも少し嬉しそうだった。


「良かったぁ」


 僕は安心する。

 その時。

 フェンがこちらを見る。

 そして。

 なぜか僕の顔も舐めた。


「わっ!?」


 さらに。

 シオンも。


「おい!?」


 リンも。


「ちょっと!」


 全員順番に舐められた。

 最後に。

 メイアの前で止まる。

 フェンは鼻をひくひくさせた。


「?」


 メイア。

 そして。

 荷物を見る。

 さらに。

 鼻をひくひく。


「まさか」


 僕は嫌な予感がした。

 次の瞬間。

 フェンはメイアのバッグからプリンを器用に取り出した。


「……」


「……」


「返して」


 メイアが言った。

 フェンは食べた。


「食べたぁぁぁ!?」


 森に笑い声が響いた。

 こうして。

 最初の事件は無事解決した。

 だけど。

 アルスの言っていた"世界の歪み"は。

 まだ世界中に残っている。

 そして。

 フェンが解放されたことで。

 新たな手掛かりが見つかることになる。

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