目覚めた記憶
第十九話 目覚めた記憶
空はまだ割れたままだった。
巨大な黒い門。
その向こうにいる世界喰らい。
無数の黒い騎士。
状況だけ見れば絶望的だ。
だけど。
なぜだろう。
不思議と怖くなかった。
僕――いや。
アキラはゆっくり手を握る。
「変な感じだ」
クロの記憶。
僕の記憶。
昔の記憶。
全部ある。
でも。
僕は僕だった。
「安心した」
その言葉に。
リンたちもほっとした顔になる。
「アキラ?」
リンが聞く。
「うん」
「本当にアキラ?」
「アキラだよ」
「好きな食べ物は?」
「カレー」
「嫌いな食べ物は?」
「ピーマン、人参」
「本人だね」
リンは頷いた。
その時。
シオンが近づいてくる。
「おい」
「なに?」
シオンは真顔だった。
「筋肉増えた?」
「確認そこ!?」
シオンらしかった。
メイアも近づいてくる。
「アキラ」
「うん」
「大丈夫?」
「大丈夫」
「安心した」
メイアは小さく頷いた。
少しだけ。
本当に少しだけ
笑っているように見えた。
その時だった。
世界喰らいが声を響かせる。
『ありえない』
初めてだった。
あの存在が動揺している。
『なぜ戻った』
その言葉に。
僕の頭の奥で何かが弾けた。
記憶。
遠い昔の記憶。
白い空。
壊れた世界。
そして。
銀髪の少女。
『逃げて』
少女が叫ぶ。
だけど。
僕は首を振っていた。
『嫌だ』
『君を置いていけない』
そこで記憶が途切れる。
「っ……!」
思わず頭を押さえる。
「アキラ!」
ルナが心配そうに駆け寄る。
「大丈夫」
僕は空を見上げた。
そして。
世界喰らいを見る。
「思い出した」
全員が息を呑む。
「君は」
「僕が昔戦った相手だ」
世界が静まり返る。
世界喰らいの目が細くなる。
『そうだ』
『お前は邪魔だった』
『だから壊した』
拳を握る。
怒りが込み上げてくる。
だけど。
それ以上に。
気になることがあった。
「一つ聞きたい」
『なんだ』
「銀髪の女の子はどうなった?」
その瞬間。
世界喰らいが沈黙した。
そして。
なぜか。
セレナが顔色を変えた。
「……!」
ベルも固まる。
エルフィアも。
学園長まで。
「え?」
僕だけ分かっていない。
「どうしたの?」
すると。
ルナが震える声で言った。
「アキラさん」
「うん?」
「その人なら」
「うん」
ルナはゆっくり指を向ける。
その先には。
いつも通り無表情な少女。
銀髪。
青い瞳。
学園最強。
メイア。
「へ?」
僕が固まる。
メイアも固まる。
「私?」
珍しく声が裏返った。
ベルが静かに頷く。
「可能性があります」
「待って」
僕は手を振る。
「メイアって同級生だよね?」
「そう」
「僕と同じ年だよね?」
「そう」
「数百年前じゃないよね?」
「たぶん」
「たぶん!?」
そこは確定してほしかった。
その時。
メイアの胸元が光り始める。
「え?」
小さなペンダント。
今まで見たことのない光を放っている。
そして。
カチッ。
ペンダントが開いた。
中から出てきたのは。
一枚の写真。
古びた写真だった。
そこに写っていたのは。
昔の僕。
そして。
銀髪の少女。
二人が並んで笑っている。
全員が息を呑む。
そして
写真の裏には。
一行だけ文字が書かれていた。
『また会おうね、アキラ』
メイアの手が震える。
僕の心臓も大きく鳴る。
数百年の時を超えて。
失われたはずの約束が。
今。
再び繋がろうとしていた。
そして。
世界喰らいが初めて怒りを露わにする。
『やめろ』
黒い雷が空を埋め尽くす。
『その記憶を取り戻させるな』
明らかだった。
世界喰らいは恐れている。
僕を。
そして――
メイアを。
第二十話へ続く




