もう一人のアキラ
第十三話 もう一人のアキラ
教室は静まり返っていた。
誰も喋らない。
いや。
喋れなかった。
だって。
目の前にいる敵が――
僕とそっくりだったから。
◇◇◇
「え?」
僕が言う。
「え?」
相手も言う。
◇◇◇
「……」
「……」
動きまで同じだった。
◇◇◇
シオンが震えながら僕たちを見る。
「増えた」
「増えてないよ」
「増えてない」
敵まで同じタイミングで返事した。
◇◇◇
「うわっ!」
今度は僕と相手が同時に驚いた。
◇◇◇
リンが頭を抱えた。
「なんで息ぴったりなの……」
誰にも分からない。
本人たちにも分からない。
◇◇◇
「お前誰?」
僕が聞く。
「それを聞こうと思った」
相手が答える。
「え?」
「え?」
また同じだった。
◇◇◇
メイアが小声で言う。
「増殖した?」
「してないと思う」
「してない」
敵も答えた。
「喋らないで!?」
僕と敵が同時に言った。
◇◇◇
シオンが床を叩いて笑い始めた。
「ぶはははは!!」
「笑いすぎだよ!」
「だって!」
指を差す。
「お前ら面白すぎるだろ!」
◇◇◇
その時。
ルナが真面目な顔になった。
「たぶんですが」
「うん」
「この人はアキラさんと同じ存在です」
「同じ存在?」
ベルも頷く。
「可能性があります」
「どういうこと?」
◇◇◇
ベルが空中に光の画面を出した。
「世界には無数の可能性があります」
「うん」
「例えば」
画面に僕が映る。
「アキラ様」
「僕だ」
「勉強を頑張った未来」
眼鏡を掛けた僕が映る。
「賢そう」
◇◇◇
「運動を頑張った未来」
筋肉ムキムキの僕が映った。
「誰!?」
◇◇◇
「料理を極めた未来」
コック姿の僕。
◇◇◇
「寝ることを極めた未来」
ずっと寝てる僕。
◇◇◇
「なんか最後だけおかしくない?」
「気のせいです」
ベルは目を逸らした。
◇◇◇
「つまり」
ルナが言う。
「別の可能性のアキラさんです」
「なるほど」
全然なるほどじゃなかった。
◇◇◇
その時。
敵のアキラが頭を押さえた。
「……あ」
「どうしたの?」
僕が聞く。
「思い出した」
「何を?」
◇◇◇
敵の少年は僕を見る。
少し困ったような顔で。
「僕の名前」
「うん」
「アキラだ」
「ややこしい!!」
全員のツッコミが響いた。
◇◇◇
「いや待って」
シオンが手を上げる。
「今後どうする?」
「どうするって?」
「二人ともアキラじゃん」
確かに。
◇◇◇
リンが提案する。
「何か呼び方決めよう」
「賛成」
「賛成だ」
また同時だった。
◇◇◇
数分後。
会議が始まった。
◇◇◇
「黒アキラ」
「却下」
「却下だ」
◇◇◇
「敵アキラ」
「却下」
「却下だ」
◇◇◇
「アキラ二号」
「ロボットみたい」
「ロボットみたいだ」
◇◇◇
「アキラ先輩」
「同い年だよ」
「同い年だ」
◇◇◇
全く決まらなかった。
◇◇◇
すると。
メイアがポツリと言った。
「クロ」
「クロ?」
「髪黒いし」
確かに。
黒髪だ。
◇◇◇
「クロ」
相手が呟く。
「嫌じゃない」
「決定だね」
こうして。
もう一人のアキラはクロになった。
◇◇◇
その時だった。
突然。
クロのお腹が鳴った。
ぐぅぅぅぅ。
◇◇◇
「……」
「……」
沈黙。
◇◇◇
僕のお腹も鳴った。
ぐぅぅぅぅ。
◇◇◇
「なんで!?」
リンが叫んだ。
◇◇◇
「お腹空いた」
僕が言う。
「僕も」
クロが言う。
◇◇◇
「好きな食べ物は?」
シオンが聞く。
「唐揚げ」
「唐揚げ」
◇◇◇
「嫌いな食べ物は?」
「ピーマンと人参」
「ピーマン人参」
◇◇◇
「怖いものは?」
「注目されること」
「注目されること」
◇◇◇
シオンが笑いながら転げ回った。
「同じじゃねーか!」
◇◇◇
しかし。
笑い合う空気は長く続かなかった。
クロの表情が曇る。
「……ごめん」
「え?」
「本当は戦いたくない」
教室が静かになる。
◇◇◇
「僕は命令されてる」
クロは拳を握る。
「境界破壊者に」
「……」
「従わないと世界が壊される」
◇◇◇
ルナが顔色を変えた。
「まさか……」
「知ってるの?」
クロは頷く。
◇◇◇
「境界破壊者の幹部」
その声は震えていた。
「本当に危険なのはゼクトじゃない」
◇◇◇
その瞬間。
教室の壁が吹き飛んだ。
ドォォォォォン!!
◇◇◇
全員が振り返る。
そこには。
黒いコートを着た女性が立っていた。
長い白銀の髪。
紅い瞳。
圧倒的な魔力。
◇◇◇
クロの顔から血の気が引く。
「嘘だろ……」
◇◇◇
女性は微笑んだ。
ぞっとするほど美しく。
そして恐ろしく。
◇◇◇
「見つけましたよ」
彼女は言う。
「ゼクト」
◇◇◇
次に。
僕を見る。
◇◇◇
「そして――アキラ」
◇◇◇
その瞬間。
ベルとエルフィアが同時に戦闘態勢に入った。
学園長さえ表情を変える。
◇◇◇
ただ一人。
シオンだけが。
◇◇◇
「今日は天井じゃなくて壁か」
そんなことを言っていた。
◇◇◇
リンに頭を叩かれていた。
第十四話へ続く




