誰にも見せない顔【GL要素あり】
※この作品は別の小説投稿サイトで企画参加した際に投稿した作品となっております。
GL要素が含まれますので、苦手な方はご注意ください。
私は女子校に通う十六歳だ。今年の春に入学したばかりだが、四月二日生まれなので誰よりも先に十六歳になった。入学時点ではもう誕生日を迎えているので、学校では誰にも祝われない。
……まあ、別にそれはいい。私はただ1人に祝ってもらえれば、それで満足なのだから。
さて、そんは私の学校には王子様がいる。
え? なんで女子校なのに王子様かって?
もちろん、性別は女性だ。でも、背も高く、ショートヘアの似合う彼女が、学校で王子様扱いをされるのにそう時間はかからなかった。容姿端麗、文武両道。女子しかいないこの閉じた空間で、彼女に惚れるなというほうが無理な相談だろう。
しかし、私は知っている。彼女の本当の姿を。
「桜子ぉもう私むりだよぉ」
桜の舞う道で、ぐしぐしと半べそをかきながら隣りを歩く彼女には、学校での面影のかけらもない。ちなみに、唯一同じ学校の友達で私の誕生日を祝ってくれた人物である。
「すみれが始めたキャラだから、こればっかりは私にはどうしようもできないな」
「うぅぅぅ……それはそうなんだけどぉ」
学校できゃあきゃあと騒いでいる女子たちは、王子様が実はあのキャラを無理に演じていることなど想像もできないだろう。
というかまだ一週間しか経ってないのにファンクラブとか。しかも限界来るの早いし。まじでなんでそんなキャラにした?
「えーっと……母が宝塚が好きだから……?」
もじもじと小首を傾げるすみれ。その可愛らしい姿にキュンとする。私はそれを誤魔化すように、盛大にため息をついた。
「すみれママ、相変わらずだね……」
そう、何を隠そう、私もこの学校の王子様のことが好きなのだ。しかし、学校の女子たちとは一緒にしないでほしい。何も私は王子様が好きなわけでは決してない。
王子様ことすみれは、私の幼馴染だ。彼女は小さい頃からそれはもう可愛らしい女の子だった。いわゆる初恋だ。
成長するにつれ、段々と見た目が格好良くなる一方、中身は変わらず可愛らしいまま。そのギャップも私の心をくすぐる。
とどのつまり、私は彼女にベタ惚れなのだ。もちろん、そんな態度など絶対表には出さないが。
「甘い物が食べたい……」
「うんうん、クレープ食べに行こっか」
まだうじうじとしている彼女の頭を撫でながら私が提案すると、途端に頭を上げて目を輝かせた。
「私、生クリームとアイスといちごにチョコソーストッピングするから!」
「はいはい、私の前では遠慮せず好きな物お食べ」
すみれは甘い物が好きで、可愛いキーホルダーを集めていて、家ではガーデニングも楽しんでいる。その上謙虚で誠実で、菫の花言葉みたいな子だ。本当に、なんでこんな正反対のキャラをやっているのやら。
私は幸せそうにクレープを頬張るすみれを見ながら苦笑いを浮かべる。口の端に生クリームが付いているのも気が付いていないようだ。
「ほら、口の周りちゃんと拭いて」
私は手を伸ばすと、指で生クリームを拭う。そのまま口に含めば、生クリームの甘さが口の中に広がった。
ふと、そんな仕草をじっと見つめられていることに気付く。その真剣な眼差しに、私はまたもや心臓がはねた。
「ねえ」
「な、なに?」
「私が王子様キャラやってる理由、知りたい?」
それはさっき聞いたのではなかったか。それともすみれママの宝塚好き以外にも理由があるのか。いやそれよりも、そんなに見つめられると私の心臓がもたない。
私が答えあぐねていると、先程生クリームを舐めた手をすみれが握っていた。そしてそのまま口元に持って行ったかと思うと――指にすみれの唇が触れた。私の心臓は最早早鐘を打っていて、ポーカーフェイスが出来ているのかも分からない。
そんな突然王子様ムーブされても! 私は! 動じないからな! だって私は可愛いすみれが好きだし!
いやでも、本当はちょっとだけ学校の女子たちが黄色い声をあげる理由が分かったよ?
頑張って無表情を貫いていていた私だったが、彼女の次の言葉に完全に固まった。
「桜子に悪い虫が付かないためだよ」
「……は?」
いやいや、彼女は何を言っているのか。私たちの通っている学校は女子校で、男子なんて一人もいない。悪い虫など付きようもないだろう。
「だってだって、桜子はそんな可憐な名前と見た目をしている割に中身はクールで、だけど面倒見も良くて優しくて、女子校なんて閉鎖的な空間にいたらあっという間にファンクラブが出来ちゃう!」
「……それで代わりに自分が王子様をやろうと?」
「うん……」
なんだそれ。
なんなんだそれは。
可愛すぎるだろう!
いや、だからと言って自分が王子様になるとは全然全く意味がわからないのだが。私は顔がにやけていくのを感じて、慌てて頬を抑える。
「それで自分がそのキャラに疲れてちゃ世話ないね」
「そんなぁ! 桜子のためなのに!」
「いや、自分のためでしょ」
私は敢えて冷たい態度を取る。だって、そうでもしなければ、私の心が暴走してしまう。本当は今すぐにでも抱き締めたいくらいなのに。
ちらりと横に座る彼女に目をやれば、涙目になりながら上目遣いで私を見ている。こんな姿が見られるのも、幼馴染の私の特権だ。
――こんな顔、他の誰にも見せなくていい。
だって、すみれがその名前の通り可愛らしい女の子だと知ってるのは、私だけで良いのだから。




