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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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⑦ 推理構築

その夜、神谷は自室に戻っても灯りを消さなかった。


 


机の上には紙が三枚並んでいる。


同じ質問。

三つの答え。


 


――魔王についてだ。

――勇者召喚の儀についてだ。

――そのような夜は知らぬ。


 


神谷は椅子に深く座り、指先で机を叩いた。


一定の間隔で、乾いた音だけが続く。


 


普通の嘘なら、構造は単純だ。


 


隠したい真実がある。


だから別の話を置く。


 


金を盗んだ者は所在を偽る。

会っていた者は会っていないと言う。

殺した者は見ていないと言う。


 


中心には、守るべき一点がある。


真実を隠すための嘘だ。


 


なら王も、本当は聖女と何か話したのか。


それを隠すために答えを変えているのか。


 


神谷はすぐに首を振った。


 


違う。


それなら一つは軸が残る。


言い回しが揺れても、守る方向だけは一致する。


 


だが王の答えには、それがない。


 


魔王の相談。

召喚儀式の実務。

面会そのものの否定。


 


目的が三つに割れている。


 


次に記憶障害。


 


老い。疲労。混乱。


人は忘れるし、取り違える。


過去の日付がずれ、人物が混じり、出来事が前後する。


 


だが混乱した記憶には、迷いが出る。


言い淀み。

考え込む間。

訂正。

不安げな視線。


 


王にはそれがない。


 


どの答えも即答だった。


 


まるで最初から、それしかないように。


 


人格分裂、あるいは多重人格。


その可能性も頭をよぎる。


 


別の人格が出るなら、口調や癖、感情の振れ幅が出る。


好みも態度も変わる。


 


だが王は常に王だった。


 


声量は一定。

姿勢は崩れず。

笑みの角度まで変わらない。


 


変わるのは中身だけ。


外側は完璧に同じだ。


 


神谷は目を閉じる。


 


(だが王は違う)


 


普通の嘘ではない。

壊れた記憶でもない。

分裂した人格でもない。


 


なのに矛盾する。


しかも――


 


(毎回自然だ)


 


そこが最も不気味だった。


 


軍人の前では軍事的な答え。

実務家の前では制度的な答え。

宗教者の前では慎ましい答え。

神谷の前では理性的な答え。


 


誰が聞いても納得しやすい。


その場の空気に最も馴染む。


 


王の答えは、真実ではなく適応だ。


 


神谷は目を開いた。


灯火が揺れ、壁に影が伸びる。


 


(整いすぎている)


 


人間の答えはもっと雑だ。


本音と建前が混ざり、感情が滲み、失言が混じる。


 


だが王にはノイズがない。


 


まるで、質問という入力に対し、最適な返答だけを返す装置。


 


その考えに至った瞬間、神谷は自嘲気味に息を吐いた。


 


「……馬鹿げてる」


 


王を人間ではなく機構のように考えるなど。


常識なら笑い話だ。


 


だがこの城では、


記録が変わり、

場所が揺らぎ、

正常の定義すら怪しい。


 


今さら、王の中身だけが常識的である保証はない。


 


机上の三枚の紙を見つめながら、神谷は低く呟く。


 


「お前は、何に答えている」


 


問いにか。

相手にか。

期待にか。

それとも――


 


もっと別の何かに。

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