⑬ ラスト
夜。
城は静まり返り、物音ひとつしない。
神谷は、一人で廊下を歩いていた。
足音だけが、規則的に響く。
止まる。
視線の先には――
封印室へ続く扉。
昼間と、何も変わらない。
はずだった。
(……本当にそうか?)
神谷は目を閉じる。
あの現場。
血の位置。
凶器の軌道。
論理は、すべて通っていた。
(物理トリックは解ける)
転移魔法。
条件発動。
仕組みとしては、破綻していない。
(だが――)
ゆっくりと、目を開ける。
(前提が揺らいでいる)
転移の座標は、ズレていた。
記録と現実は、微妙に一致しなかった。
そして――
“部屋の位置が違って見えた”という証言。
(場所が、固定されていないとしたら?)
あり得ない。
空間は、動かない。
それが前提だ。
だが――
(その前提が、間違っていたら?)
神谷の思考が、静かに沈んでいく。
密室。
完全に閉ざされた空間。
出入り不可能。
――本当に?
(“ここ”は、同じ場所か?)
昼に見た封印室と。
今、頭の中にある封印室は。
同じものなのか。
(もし)
ほんのわずかなズレ。
それが、空間そのものに起きているなら。
(閉じている、とは言えるのか?)
沈黙。
神谷は、扉に手をかけることなく――
その場に立ち尽くした。
(……仮に)
思考の底で、言葉が浮かぶ。
(“場所”すら信用できないなら?)
そして。
ごく小さく、呟いた。
「密室は、成立していないのかもしれない」




