⑨ 推理披露
詰所に、再び全員が集められていた。
騎士、魔導士、宰相、そして王。
誰もが口を閉ざし、神谷を見ている。
沈黙の中で、神谷は一歩前に出た。
「結論から言う」
短く、切り出す。
「これは密室殺人ではない」
ざわめきが走る。
誰かが何かを言いかけるが、その前に――
「“遠隔殺人”です」
その一言で、場が凍りついた。
「……遠隔、だと?」
魔導士が、信じられないものを見るように呟く。
神谷は構わず続けた。
「犯人は、この部屋に入っていない」
「そして、入る必要もなかった」
視線が、一斉に集まる。
神谷は、ゆっくりと手を上げた。
「凶器だ」
あの短剣。
「これが“後から来た”」
静寂。
理解が追いつかない、空白の時間。
「……馬鹿な」
誰かが吐き捨てるように言う。
「結界がある。転移は不可能だ」
神谷は、わずかに視線を向けた。
「“侵入”はな」
低く、言い切る。
「この結界は、“中に入ること”を防ぐ」
「だが――」
一拍。
「“条件付きで発動する魔法”までは、完全には制御していない」
魔導士の顔色が変わる。
理解したのだ。
「……まさか」
「凶器に、転移魔法が仕込まれていた」
神谷は淡々と続ける。
「事前に、別の場所で準備する」
「発動条件を設定する――時間、あるいは魔力反応」
視線が、自然と王へ、宰相へと流れる。
「被害者が封印室に入る」
「条件が満たされる」
そして――
「凶器だけが、この部屋に“現れる”」
沈黙。
それは侵入ではない。
人は来ていない。
だが、結果は同じ。
「刺さる位置は、事前に座標で固定できる」
「至近距離での一撃に見えるのは、そのためだ」
血痕とも一致する。
抵抗がない理由も説明できる。
「結界は破られていない」
神谷は、ゆっくりと周囲を見渡した。
「証言も正しい」
騎士は誰も見ていない。
侍女も一人だと言っている。
魔導士も異常を検知していない。
すべて、矛盾しない。
「……つまり」
魔導士が、かすれた声で言う。
「我々は、最初から見落としていたのか」
神谷は小さく頷いた。
「ルールの隙だ」
結界の定義。
その境界。
「“侵入”だけを防いでいる以上、“侵入しない殺し方”は成立する」
静寂が落ちる。
誰も、すぐには言葉を発せない。
あまりにも単純で。
あまりにも盲点だった。
神谷は、最後に静かに言った。
「犯人は、その隙を使っただけだ」
完全な密室。
だが、それは――
「最初から、“破られていない”だけの密室だった」




