⑦ 検証パート
再び、封印室の前に立つ。
人払いは済ませてあった。
廊下には、神谷と数名の魔導士だけ。
静寂が、やけに濃い。
「開けろ」
短い指示で、扉がゆっくりと開かれる。
重い音が、石壁に反響する。
神谷は一人、室内へと入った。
(もう一度、最初からだ)
視線が、空間をなぞる。
壁。床。天井。
寸分違わず、同じ配置。
だが――
(“同じ”と決めつけている)
その前提を、疑う。
神谷は壁際に歩み寄り、手をかざした。
冷たい石の感触。
そのすぐ表面を、薄く流れる何か。
「結界の範囲を示せ」
外にいる魔導士に声をかける。
「はい」
低く詠唱が響き、空間に淡い光が浮かび上がる。
線。
それは部屋を囲むように、正確に張り巡らされていた。
壁の内側、床、天井――
完全に閉じた立方体。
「……完全だな」
神谷が呟く。
「はい。理論上、内部への侵入は不可能です」
魔導士の声には自信があった。
「“侵入”は、か」
神谷はその言葉をなぞるように繰り返した。
わずかな沈黙。
「……他に、手段があると?」
魔導士が問う。
神谷は答えず、床へと視線を落とした。
血痕。
短剣。
それらがある“位置”。
(ここに現れた)
その事実だけは動かない。
神谷はゆっくりと立ち上がる。
「転移魔法は使えるな」
問いというより、確認。
魔導士は頷く。
「可能です。ただし――」
「制限がある」
神谷が先に言った。
「はい。強力な結界内には、通常の転移では侵入できません」
予想通りの答え。
「外から中へは、不可能」
「その通りです」
「では、中から外へは?」
魔導士は一瞬だけ考え、首を振る。
「条件付きですが、極めて困難です。座標の固定が必要になります」
「座標固定」
神谷が繰り返す。
「はい。転移先の位置を正確に指定しなければならない。結界内では、その“基準”が狂う可能性がある」
神谷の目が、わずかに細くなる。
(基準が狂う)
その言葉が、引っかかる。
「つまり」
神谷はゆっくりと整理する。
「転移魔法は存在する」
魔導士が頷く。
「だが、自由ではない」
「はい」
「特に、この部屋の中では」
「ほぼ使えないと考えていいでしょう」
結論は明確だった。
転移はできる。
だが――
(この状況では、不可能)
神谷は再び、室内を見渡した。
完全な密室。
侵入不可。
転移不可。
あらゆる手段が、封じられている。
それでも――
(殺されている)
神谷はゆっくりと、短剣へと歩み寄った。
その位置。
その角度。
その“現れ方”。
(本当に、“ここにあった”のか?)
ふと、そんな疑問が浮かぶ。
神谷は立ち止まったまま、動かなかった。
思考だけが、静かに深く潜っていく。
(転移はできない)
(侵入もできない)
なら――
(“どこから来た”?)
その問いが、わずかに形を変える。
(“どこにあった”?)
同じようでいて、決定的に違う問い。
神谷は目を閉じた。
(位置)
その言葉だけが、はっきりと浮かび上がる。
そして――
わずかに、笑った。




