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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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113/139

⑬ 締め

揺らぐ輪郭の中で、それは神谷を見た。


 


王の位置に立つもの。


王冠を載せた何か。


人々の期待で編まれ、視線で支えられてきた存在。


 


もはや誰にも同じ姿には見えていない。


若き王と見る者もいれば、老いた影と見る者もいる。


空の衣だけが立っているように見える者さえいた。


 


だが、その視線だけは一致した。


 


全員が感じた。


今、この場でそれは神谷だけを見ていると。


 


神谷は一歩も退かなかった。


胸の奥では本能が逃げろと叫んでいる。


理解してしまった者としての恐怖。


目を合わせてはいけないものと対峙している感覚。


 


それでも逸らさない。


 


すると、初めてその声に感情が乗った。


 


「勇者」


 


低く、重く、玉座の間そのものが震えるような声だった。


先ほどまでの王の声音ではない。


慈悲も威厳も整然さもない。


むき出しの何か。


 


続く言葉には、明確な怒気があった。


 


「理解しすぎたな」


 


その瞬間だった。


 


玉座の間の灯火が、一斉に消えた。


 


燭台の炎。


壁灯。


高窓から差していた光さえ、誰かが塗り潰したように断たれる。


 


闇。


 


完全な暗闇だった。


 


誰の顔も見えない。


自分の手さえ見えない。


距離感も上下も失われ、空間そのものが消えたような闇。


 


一拍遅れて、悲鳴が上がる。


 


「うわああっ!」


「どこだ!」


「陛下は!?」


「兵を呼べ!」


「触るな、誰だ!」


 


鎧のぶつかる音。


何かが倒れる音。


紙が散る音。


泣き叫ぶ声。


祈りの言葉。


怒号。


 


人は見えなくなった瞬間、役割も失う。


騎士はただ怯える男になり、


貴族は押しのけ合う群衆になり、


神官は闇へ縋る者になる。


 


王を見失った世界が、一瞬で崩れていく。


 


神谷はその中心で、歯を食いしばって立っていた。


 


見えない。


だが気配だけは分かる。


 


何かが目覚めている。


今まで王という形に収まっていたものが、枠を失い、別の在り方へ移ろうとしている。


 


聖女が恐れた理由。


真実を公表できなかった理由。


ようやく理解した。


 


暴くことは終わりではない。


封印を解く行為でもある。


 


暗闇の中、神谷は剣の柄を握る。


手の震えは止まらない。


それでも離さない。


 


心の中で、静かに言葉が浮かぶ。


 


――正体を暴くことは、討伐の開始じゃない。


 


どこか近くで、何かが笑った。


 


――覚醒の開始だった。

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