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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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④ 神谷の仕込み

だが、神谷は無策でこの場へ来たわけではなかった。


 


王にとって有利な舞台なら、舞台装置そのものを壊せばいい。


 


この招集命令が走るより前。


まだ城内が静まり返っていた早朝、神谷は玉座の間へ先回りしていた。


 


最初に手をつけたのは、壁際に置かれた装飾鏡だった。


 


大きな姿見ではない。


来賓の身だしなみ確認用とされる、縁金の古い鏡。


だが第7話、王の私室で見た“毎朝位置が変わる鏡”と同じ種類だった。


 


ただの家具ではない。


視線を誘導し、像を整え、認識を補助する何か。


そう直感していた。


 


神谷は侍従たちへ命じ、鏡の角度を変えさせた。


玉座正面を映していたものを、斜め横へ。


柱の陰に置かれていたものを、人の列が映り込む位置へ。


 


「その位置で固定しろ。誰も戻すな」


 


侍従は怪訝そうな顔をしたが、勇者命令には逆らえない。


 


次に神谷は記録官を呼んだ。


痩せた中年の男は、緊張で羽根筆を握る手が震えている。


 


「今日の会話は要約するな」


 


「……は?」


 


「逐語で記録しろ。一言一句そのまま書け」


 


「し、しかし通常は要点を――」


 


「今日は通常じゃない」


 


神谷の声に、記録官は青ざめて頷いた。


 


要点記録では意味がない。


人は後から整えてしまう。


不自然な沈黙を削り、矛盾した言い回しを直し、読みやすい真実へ変えてしまう。


 


その“親切な補完”こそ敵の住処だった。


 


次に配らせたのは、小さな札だった。


厚紙を折り、全員の席へ伏せて置かせる。


 


中身は同じ質問。


誰にも開かせていない。


神谷だけが内容を知っている。


 


後で一斉に使うための仕掛けだ。


王へ同時に異なる期待をぶつける、視線の罠。


 


最後に神谷は照明を増やした。


 


高窓のカーテンを全て開けさせ、燭台へ追加の蝋燭を立てる。


柱の陰、玉座の背後、壁際の暗がり。


普段なら荘厳さの演出として残される薄闇を、徹底的に消した。


 


近衛兵が戸惑って問う。


 


「ここまで明るくする必要が?」


 


神谷は短く答えた。


 


「死角が要るのは、人間だけだ」


 


兵士は意味を理解できぬまま黙った。


 


すべて同じ目的だった。


 


自然に補完される余地を潰す。


 


鏡で整えられる像。


記録で修正される発言。


空気で読み替えられる沈黙。


暗がりに逃げ込む違和感。


 


人は見たいものを見る。


意味の通る形へ、自動で現実を縫い直す。


王という存在は、その習性の上に立っている。


 


ならば今日は縫わせない。


ほつれた糸を、ほつれたまま全員へ見せる。


 


神谷は現在の玉座の間を見渡した。


鏡はずれている。


記録官は紙束を抱えて汗を流している。


貴族たちの前には伏せられた札。


増やされた灯りが、王の顔から床の端まで容赦なく照らしていた。


 


舞台は整った。


 


敵に有利な場所を、


敵に不利な場所へ変えるための、最低限の準備だけは。

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