誘拐
意識を失った、フリをした。
わたしは治癒の魔法が得意。
だから、自然と身体に入った異物を治癒してしまう。
つまり、水に入っていた変な薬の効果も、打ち消してしまった。
でもそれを知られるのはマズイので、眠ったフリをしている。
ミスティが言ってた。
「女は皆んな、女優なのよ」って。
女優が何か聞いたら、演技が上手い人だと返ってきた。
だから、わたしも女の子だから女優なの。
今こそ、女優のわたしを見せつける時。
どうか、上手くいきますように!
目を閉じたまま、耳や感覚だけで周囲を探る。
わたしを抱えている人は男の人。
アルよりも太い腕。
足音から、石造りの階段を下に降りて行っている。
下に降りているせいか、少しずつ肌寒くなってきた。
響き方から狭い通路だけど、歩く時間から距離はそこそこありそう。
足が一旦止まって、扉の開く音。
また少し歩いて、今度は鍵の音と、金属の擦れる音。
そのまま冷たい床に降ろされた。
寒い……
ダメダメ、まだ我慢。
男の人の足音が遠ざかる。
衣擦れの音が近づいてくる。
「あ、あの……起きて……」
「う……ん……」
身体を揺さぶられたので、ゆっくり目を開けた。
すぐそばにいるのは、1人の女の子。
この子がわたしを起こした子みたい。
「あ……え……誰?……ここ、どこ?」
周りを見渡すと、石造りの部屋に金属の格子で区切られた場所にいた。
隅っこの方には、3人の男の子と1人の女の子。
そして、わたしのそばにいる女の子とわたし。
それがここにいる全員だった。
わたしはできるだけ不安に見える表情を作って、女の子を見た。
「ここが何処か、私たちにもわからない。孤児院にいたはずなのに、気がついたらここに連れてこられていたの。」
「わたしも……さっきまで、孤児院にいた。」
「やっぱり……そうなのね。」
「子どもを捕まえる理由なんて、一つしかないだろ。攫って、売るためなんだよ。」
赤髪の男の子が呟いた言葉に、一番小さな緑髪の男の子が涙ぐむ。
「泣いたって、どうしようもないわ。」
今度は、一番年上そうな茶髪の女の子が言い放つ。
皆んなはわたしよりも長くここにいる。
その間に理不尽なことが何度もあったはず。
逃げることも怒ることもやめて、諦めることにしたのか。
わたしにも身に覚えがある感情だった。
まるで、以前のわたしみたい。
教会から逃げ出さずに、諦めていたわたし。
けど、今は違う。
わたしには助けてくれる人がいる。
信じられる人ができた。
わたしの役割はここで終わり。
あとは……信じて待つのみ!
早く迎えにきてね、アル!




