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婚約破棄から始まる私と義弟との戦い  作者: ミカン♬


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33/33

㉝ 【完結】3年後、そして10年後 

 

 婚約して二年。

 ユーリィが学園を卒業したら、すぐに結婚するはずだった。

 でも、その年に先王が崩御されて、式は延期になった。


 三年も経てば、さすがに私も慣れてくる。

 “婚約者”という立場も、ユーリィに触れられることにも。


 だって、彼は“この国で最も美しい男性”って噂されるくらいだから。

 その彼に抱きしめられても、キスされても、微笑んでいられるようになった。

 私の心臓も丈夫になったのだ。


 婚約中は、穏やかで、幸せだった。

 悪戯っぽかった彼も、すっかり落ち着いて、大人になって。

 私も、ガートナー侯爵家の跡取りとして、成長したと思う。


 結婚と同時に、公爵の爵位も賜ることとなり、四大公爵家の一角に。

 アンダーソン家の領地の一部も、王家から譲り受けることになった。



 ――そして、今日。


 教会の扉が開いた瞬間、目を奪われた。

 銀色の髪がステンドグラスの陽光に照らされて、彼が王族だと一目でわかってしまうくらい、堂々として美しかった。


 王太子殿下夫妻まで参列してくださって、みんなが拍手してる。

 なんで花婿がこんなに目立つのよ、って思ったけど……まあ、いい。


「ナタリア、綺麗だ。僕はこの日を、ずっと待っていました」

 彼がそう言うなら、それでいい。


「ユーリィも素敵よ。一緒に、幸せになりましょうね」


 誓いの言葉と指輪と、そしてキス。

 その瞬間、義弟は、私の夫になった。


 きっと、彼が我が家に来たあの日から――

 運命は、もう決まっていたのだと思う。




 祝宴が終わって、夜もすっかり更けて。

 私たちは新しい部屋――夫婦の寝室に入った。


 覚悟してきたはずなのに、扉の音が閉まっただけで、胸の奥がきゅっとなる。

 慣れたつもりだったけど……やっぱり、今夜は特別すぎて、落ち着かない。


 対してユーリィはなんのためらいもなく、するりと私の体を抱き上げた。

 軽々と、重さなんて感じないみたいに。


「……最後は、やっぱり僕の勝利でしたね?」


 唐突なひと言。

 顔を覗き込んできて、あの悪戯な笑みを浮かべる。


「『僕が“弟”でなくなった時、貴方の負けを認めて下さいね』って、言いましたよね?」


 ――ああ、そんなこと言ってたわね。

 随分前のこと、私はすっかり忘れてたのに。

 まさか覚えてるなんて。


「そうね。じゃあ、受けて立つわ。負けたフリくらい、してあげてもいいわよ」


 ベッドの上、彼がゆっくり顔を近づけてくる。

 でも私は、彼の唇を指でそっと押さえた。


「私を負かすなんて……まさか、泣かせるつもりなの? 旦那様」


 その言葉に、ユーリィが小さく目を瞬かせた。


「……旦那様?」


「ええ。私の、愛する旦那様」


 わざと甘く言って、彼にキスしたら、びくりと体をこわばらせた。

 それがちょっと可愛くて、私は彼の首に腕を回す。


「怖いの。だから……優しくしてね。絶対に幸せにしてくれないと許さないわ。だって、もうあなたしかいないのよ?」

 恥ずかしいくらい甘い声。

 囁きながら、自分でも笑ってしまいそうだった。


 でも悪いのはユーリィの方。私を挑発してきたんだから。


 ……って思ってたのに、沈黙。

 あれ? なにかしら、この空気。


「……ねぇ、怒ったの?」


 そう聞いた瞬間だった。

 キス。キス。キス。息もできないほど、降ってきた。


「これからは、旦那様って呼んでくれるんですね?」


「ちがっ、ちょっ、それは……今日だけ、ええええ……⁈」


 ――この夜、私は知ったのだ。

 この人がくれる“愛”が、どれほど重たくて、甘くて、逃げられないものなのかを。




 * * * * *



 ──あれから、もう十年が経った。


 私とユーリィは3人の子どもの親になっていた。


 八歳の長男のリアンドと四歳の双子の姉妹ナンシーとリーズ。


 みんな、王家の銀髪にサファイアの瞳。

 双子はとくに天使みたいで、今から婚約の申し込みが絶えない。


 リアンドは私に似て、少し凛々しい顔立ち。家族思いで、まっすぐな子。



 今朝のガートナー公爵家は、もう、大騒ぎ。


 私の陣痛が始まっただけで、皆が駆けまわっていた。


「四人目よ? 軽く、ひねり出して見せるわ」

 冗談めかして言っても、ユーリィの顔は不安なまま。


 夫は甘えん坊のナンシーを片手に抱いて、部屋の中をうろうろ。意味もなく歩き回ってる。


 リーズはというと、兄のリアンドの手をぎゅっと握って離さない。落ち着かないのね、きっと。


「おかあさま、妹が生まれるの?」

 リーズの希望は、女の子らしい。


「ぼくは弟がいいけど……でも、どっちでもいいよ」

 リアンドはそう言って、リーズの頭を撫でる。


「そうだな……どちらでもいい。けれど、ナタリアに何かあったら……私は……」


 ユーリィの声がふるえる。

 この人は、何年経ってもこうだ。


「だいじょうぶよ。ねえ、旦那様。あなたはしっかり生きて、子どもたちを頼むわね」


「ナタリア……」


「私は負けないわ」


 これは戦い。命がけの、母親としての。


 リアンドにも、弟を残してあげたい。


「おかあさま、無事を祈っています」


「……ええ、大丈夫よ」


 


 *


 そして。


 産声が、屋敷に響いた。


 やっと出会えた、待望の次男。


「無事でよかった……」


 ユーリィが赤ん坊を抱いたそのとき、子どもたちが一斉にのぞき込む。


「おさるさんみたい~」

「わたしも、だっこしたーい!」


「おとう様に似てる?」

「いや、リアンに似てないか?」


 家族の声が、疲れた身体に優しく染みていく。


 夫は乳母に次男を渡し、私の手を握った。


 十年経っても、ユーリィは変わらない。

 私ひとりをずっと想ってくれる。


 願うのは、ひとつだけ。


 ――この幸せが、ずっと続きますように。


 永遠に、なんて言わない。

 けれど、今日を、明日も、大切に生きたい。

 この家族と一緒に。


 それだけで、もう、充分。


 ──おわり。




最後まで読んでいただいて有難うございました。



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