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第33話 バタフライ効果と記者

 マスコミは見事に居なくなった。俺の家の周りも学校の周りにも。それはテルに教えてもらってから僅か2日後の事だ。ホテル暮らしだった父さんんも家に戻るようだし、俺もようやっと家に帰れそうだ。


「えーーー帰っちゃうの?!」


 そう言ったのはテルのおばさんだ。


「夏休みまだあるんだから居ればいいでしょ。せめてあと何日かは一緒にご飯食べようよ。そうだ! お風呂で背中流してあげる!」


 朝食を食べている時で俺は咽そうになり、どんなサービスだよそれ、とも思ったが、テルの性格は母親譲りだと確信した。だがオジサンもテルも相変わらず何も言わずにモクモクと食っている。


「うん、兄ちゃん母さんに洗ってもらいなって」

「ぇぇえええ……いや……それは……」

「春山君、あと2日ぐらいはいいだろ? うちのやつも顕馬もそう言ってることだし。照子はどうなんだ?」

「ああ、もっと居たらいい。ハルいたら面白いし」


 そう言ったテルがこっちを見てニって笑った。俺は思わず下を向いちまったじゃねぇかよ。くっそ~~、向こうだって俺に見られてるのに、なんで俺だけが恥ずかしがらなきゃなんないんだ、って思ったけど、俺のはマズイ状態だったんだ。そう言えばアヤにもマズイの見られた。ウミにもガッツリ見られてると思う。なんで三人娘が全部なんだよ。こいつらグル?


「ほら、みんなそう言ってる。決まりね」

「えっ……きっ決まり……ですか……は~~……ならあと2日…お世話になります。でもお風呂は………いいです………ははは」


 静香は明日自分の家に帰るそうだ。田川真奈美の家でメソメソ泣いてばかりいたのが、姉ちゃんの店でマネキンをやった日から元気になったみたいだ。

 あの時姉ちゃんが俺の携帯で撮った写真と、天ぷら屋の大将に撮ってもらった3人で写したのを静香に送ってあげると、さっそく田川真奈美とオバサンに見せまくっていたらしい。それにしても3人で写したヤツ、真ん中が静香で姉ちゃんとしっかり腕組んでて、俺はなんでそこにいるんだ? って感じだ。


「真奈美ね、写真見てビックリしてたさ。お姉ちゃんめっちゃ美人で、私のメイクも服も超ヤバイって。それでね、いいな~、いいな~、私も美人のお姉ちゃん欲しい、ってずっと言ってんの。だから言ったの、私のお姉ちゃん超美人で最高なんだよ、いいでしょうーーーって。あっ、そうだ、お姉ちゃんね、8月15日と16日って金曜と土曜だけどお店休みにするんだって。開けてても冷やかしばっかで売れないからって言ってた。だから、どっちかの日に部屋においでって。一緒に行こう! どっちがいい? それとね、お墓参りとかは8月12日の火曜日に行くから義仁にも言っておいてって」

「ずいぶん姉ちゃんと仲いいな」

「へへへ……だってね、一緒にランチしてメイクもしてもらって、その間ずっと二人で喋ってたんだもん、いろんなこと。ひっひっひ……なに喋ってたかは義仁にはナーーイショ。ところで私、明日家に帰るけど、義仁は? マスコミも何故だかぜーーーんぶ居なくなったね。…………えええええ?! まだテルちゃんのとこに泊まるの?! どーーしてーーー? ………ええええ? ……ふ~~ん……わかった……」


 今日は8月8日で土曜日だ。10日には家に帰ると父さんに連絡をした。その時、父さんが言っていた。母さんが死んだのは6月だから49日もやったばかりだから初盆は来年にしましょうとお寺と打ち合わせをしたと。警察が殺人事件として捜査している事については何も言わなかったが、俺もその話題には触れなかった。姉ちゃんもそうだった。過失であろうと故意であろうと加害者は捕まっている。不思議とその加害者に食って掛かろとういう気が起きない。母さんがいなくなったのは、それはもうどうしようもない現実で、受け入れるしかない。父さんも姉ちゃんも自分の中でなんとか決着をつけようとしているのだろうし、姉ちゃんは静香のことが本当に可愛いみたいで、一緒にいるとすごく明るくて楽しそうで、静香も喜んで甘えてるし、良かった。そう言えば、赤の会の顧問弁護士がウチに来たと聞いたが、その時俺は自分の部屋で天井を睨んでいる時期だったらしく、その弁護士とは会ってはいないが、その時会っていたらどうだったろう? 殴りかかった? いや、きっとボケーっとそこに座っていただけだろうな。人の話しなんかまるで理解できない時だった。だけど赤の会の紅蓮大寿。全てがアイツの妄言から始まった。もしアイツに会う事があれば、俺はきっと許さない。アイツだけは……


 10時頃に俺はテルからジャージを借りて走りに出た。テルは顕馬の部屋でネットを盛んに調べていて、今日は俺一人で走った。でもよかった。アイツだったらいつ触ってくるか分らないし、そこで俺がへんな状態になっちまったらジャージ下げられそうな気がする。とにかくテルの裸のことはきれいさっぱり忘れよう、うん。


 何度かダッシュを繰り返していると後ろから自転車が来た。


「おはよう!」

「あ……おはようございます」


 きっと偶然通り掛かった近所の人が声を掛けてきたのだろうと思い、見ると、


「え……ウミ……」

「春山君走りに出たって聞いたから顕馬に自転車借りて追いかけて来たんだけど、佐藤静香さんとしたんでしょ」

「え………」


 直球すぎる。それに自転車借りた事と繋げて言うか?


「さっき照子から聞いたけど、佐藤静香さん意気地なしじゃなくなって芯が入ったって。照子が言うのだからそうなんでしょうね。春山君も知ってるでしょ、佐藤静香さんが私のとこ来たの。私、彼女にハッキリ言った。春山君を貰うって。だから今あなたを押し倒したっていいのよ。私それくらいのこと平気で出来るし、実際そうしてもいいと思ってる……でも、もしかしたら私が彼女を変えたの? あの時彼女泣かなかった。歯食いしばって私に弱いとこ見せまいとして必死に堪えてた。それが彼女の中に芯が入る切っ掛けになったの? それともあなた? あなたとして変わったの? 教えて。もしそうなら、あなたも何かを感じたはず。あなた、佐藤静香さんとどれくらいしたの?」



 ダイレクトすぎるだろ。昼間のこんなとこでする話しか? だけど凄く真剣な顔で胡麻化せる雰囲気じゃない。それに、俺はあまり覚えてないといってもウミとしちゃった訳だし、ちゃんと答えるべきだろうな。

 静香とは一度しかしてない。でもあの時、静香と一つになって直ぐに、俺の中に何かが入って来たのを感じた。俺は何が入って来たのか分からなくて、それにどうしてそう感じたのか、それも分からなくて、でも温かかった。すると俺の何かが溶けたのが分かった。その途端、全部が入って来た。そして分かった。入って来たのは静香だってことが分った。静香も俺の中に入れたと驚いていた。そして俺の心が見えたとも言っていた。


「そんな………そんなことが佐藤静香さんに出来たっていうの? 私だってあなたの心の中に入るのは……外から中を見ただけなのに……それなのにどうして入れたの? 全部が入ってきたって……彼女……そんなこと……私だって入りたかった! あなたを包み込みたかった!」


 ウミは跨っていた自転車から飛び降り、俺の目の前に来た。


「動かないで! あなたとは一度してるから、きっと分かるはず」


 そう言うと、ウミは立ったままで俺を抱きしめた。


「ウソ………ほぐれてる。どうして? あんなに絡まっていたのに………」


 そう呟くとウミは俺から離れ、再び自転車に跨った。


「黒崎中との練習試合、叩きのめして! ほら、走ってちゃんと体力戻さなきゃ。行くよ!」


 ウミは俺と並んで自転車をこいでいる。前を見てこっちを見ようとはしない。そんなウミが気になり走る事に集中できない。こういうの苦手だ。気にせずにダッシュしてしまえばいいのだろうが、変に気を使ってしまう。そんな自分に腹が立ってきた。もういい、今自分がすべき事をすればいいだけだ。

 ダッシュって言おうとした時にウミが口を開いた。


「春山義仁……やっぱり私……あなたが好き。隙見せたらいつでも押し倒すから、ふふふ……」





 テルの家に着きシャワーを浴びていると、


「ちっちゃくてカッコいいお尻してる」

「そうね……それに背中もいい」


 いきなり声が聞こえギョッとしたが、アヤとウミだの声だ。見なくても分かるのが腹立たしい。もうヤケクソみたいなもので俺はゆっくりと振り返り、扉を閉めようとしたが、二人の視線がソコに集中した。そこばっかり見るなチクショウ、やっぱり腰を引いて手で隠した。このポーズの方が恥ずかしいとも思ったが、どうしようもない。それにしても他人の家で風呂覗くか?


「あら、いい身体してる~」


 うわ、オバサンもいた。




「2003年9月26日3時26分か…………金曜日。学校は普通にある日ね」


 テルの部屋で4人が国語の教科書の表紙を真ん中に車座に座っていた。


「下屋敷って刑事のことオヤジに調べて貰った。変な奴だけど信用できるらいしぞ。金じゃ動かんし、おかしなとこと繋がってもない。神取一族ともな」

「へ~~そうなんだ。ねぇ春山君、下屋敷刑事って私たちの言うこと信じる人? それとも他の大人たちみたいに常識の殻から抜け出せない人?」


 どうだろう? そう聞かれるとよく解らないが、アイツは俺と静香の二人が一連の事件を解く鍵を握ってると思ってる。それは大人の常識じゃなく個人的な直観だろう。学校で首を吊った男の件だって、俺に死体を見せて情報を聞き出したかったのは間違いないし、それに俺みたいな15歳の証言だけで家宅捜査の令状取り付けたってのは、言ったこっちが心配したくらいだ。


「そうね、あの時も、1年生の……この前射殺された辺見友里恵さん騒動の時も、あの刑事、あなたは宮古愛さんなのか、って、大人らしくない物言いしてた。あの刑事こっちに引っ張り込もうか? どう思う?」

「俺は……アイツのことあんまり好きじゃないけど……行動力と情報網は凄い」

「アタシは下屋敷って刑事がこっち側にいて、それがその夢だと思うぞ。だけど気になる。その夢はこの世界の未来か? それとも別の世界の未来か? 別の世界なら日時はどうなんだ?」


 テルの疑問を聞いたウミが腕を組んで天井を見ていた。そして、


「私はこの世界の未来だと思う。前に金山君が言った通りなんだと思うの。どの世界でも同じようなイベントが起きて似たり寄ったりの未来に繋がるのなら、それは強烈な運命論と同じで、誰もが生まれた時点で全てプログラムされていることになる。そんなのは絶対にあり得ないって力説してたけど、私もそう思う。他の世界にある佐舞久留町も、この世界の佐舞久留町と同じように別の世界と繋がってしまったの? 私はこの世界だけだと思う。それはね、河西早苗なの。赤の会は東海林詩江を探していたのよね。どこで河西早苗と東海林詩江が同一人物だって知ったのか分からないけど、探されてるのを知った河西早苗は逃げた。でも河西早苗はこの世界の春山君と幸せに暮らす未来を夢見る狂った女。私も春山君が好きよ。だけど人殺しなんかできない。……ええ? なにその顔。出来る訳ないでしょ! もう、私の事どんな女だと思ってるの! やめてよね……とにかく重要なのは、河西早苗がまだこの世界に居座ってるってこと。つい何日か前にメールが着たんでしょ? あの女どうしてまだいるの? 別の世界の春山君狙えばいいのに、何故? きっと自分にとって都合のいいことがこの世界で起きたからだと思うの。それは佐藤拓磨。だからまだこの世界の春山君のこと諦めてない。そして連れていくつもりじゃないかな。アヤちゃん見えたんでしょ? 河西早苗が誰かを殺しているのが。それって誰? ……言いたくないのは分かるけど……春山君でしょ」



「……うん……アイツ………春山君殺してた。だからアタシ……うちの者にずっと見張らせてた……春山君のこと」



 テルがいきなり立ち上がった。


「朱海! 彩音! なんでもっと早く言わない! あの女……ハルを……」

「照子……もう……だから言わなかったんでしょ。それに照子の隣に座ってる! この世界の春山義仁が」

「そっ、そっか……でも向こうのアタシは何やってんだ! ちきしょう……」


 俺が殺された? ええええ? それ聞いて本人の俺はどんなリアクションを取ればいいの? 



「まず、別の世界と繋がった原因を作ったのは河西早苗。時期的にもそれ以外考えられないでしょ。そして裂け目が塞がっていないのも河西早苗が意図的に塞いでいないから。何度も飛ぶうちにそのやりかたが解ったんだ思う。そしてそれは春山君と手を取り合って、春山君を殺した世界に戻るため。バカみたいな発想だけど狂った女だと考えればアリよね。それでね、今私たちがいる世界で起きているのに、別の世界では起きていないことって凄く多いはず。先ずは、生きている石橋伸江、次に屋上から落ちたのは神取美香ではなく宮古愛。それによっておかしくなって射殺された辺見友里恵。それとその辺見友里恵に殺された岡田先生。転校してきた佐藤拓磨、それに赤の会とかキセキなんて連中も全部そう。だからアヤちゃんがキセキの連中に狙われるなんてことは、今私たちがいる世界だけだと思う。全てが河西早苗がこの世界に居座っているから起きたバタフライ効果。春山君が見た大人の河西早苗の夢だけど、結婚してたんでしょ、あたなと。いくら物好きでも、こっちの世界に居座ってる河西早苗と結婚なんかしないでしょ。春山君あの女としたい?」


 嫌に決まってるだろ。そんなのあえて聞くなよ。なにされるか分ったもんじゃない。


「だよね。だから別の世界の河西早苗は、夢の通り、あなたと結婚するまともな女だと思う。それと、佐藤拓磨の件だけど、アイツが転校してきたのにも河西早苗が絡んでる。転校した理由は前の学校に居づらくなったからだって照子に聞いたけど、この街を選んだ理由は別にあるみたい。それはアヤちゃんとこの人が知ってたのよね」

「うん、佐藤拓磨の母親不倫してた。相手は河西早苗と同居してた奴だ。学校で首吊って死んだ奴。そいつ佐藤拓磨のオヤジが社長やってる会社に出入りしてた。っで社長夫人の嫁が簡単に落とされて、孕まされてこの街に追いかけて来た。息子の拓磨連れて。だけどその男死んじまったからおろすみたいだな」


 そうなの? ちょっと佐藤拓磨が可愛そうになってきた。


「それに最初に殺されたオバサン。学校のグランドの向こうの道路で刺されて死んだオバサンだけど、その犯人は紅蓮大寿がテレビで言った通り、橋の下で発見された死体の男だった。そしてその男の指紋も河西早苗の家で見つかった。それとその犯人を殺した猪俣吉郎って赤の会の信者が残したメモ。転落死した宮古愛もその橋の下で見つかった男に殺されたって書いてあったってテレビでやってたの覚えてる? 照子、この件って警察はどう考えてるか分かる?」

「ああ、転落は事故じゃないかもしれないって調べてるみたいだ」


 あまりにも事件が多すぎて、猪俣吉郎のことなんか忘れてた。そう言えばノートに書いてたメモがあったって言ってたな。だったら全部が河西早苗から始まってるのか? 本来いるはずのないアイツがいるせいで、それが周りにどんどん影響してるのか? バタフライ効果か………アイツ、この街だけがおかしくなってるとか狂ったって言ってたけど、全部アイツが元凶。………あ、そうだ、あの時の全校集会。生徒会長の神取美香が壇上に上がったの見てアイツ、酷く驚いてた。それに俺の家の前で待ち伏せしてまで、落ちた生徒の名前を知りたがってた。


「そうなんだ。それって…………別の世界では神取美香が落ちたのを知っていて、それとは違った人が落ちたから驚いた、というのもあり得るけど、河西早苗が突き落とすよう指示をした。だけど神取美香と間違われて宮古愛が落ち、それを知って驚いた。私は後者だと思う。誰か神取美香と喋れる人いない? もしかしたら河西早苗となにかあったのかもしれない。………ええ? いないの? …………私? ええええええ……私嫌いなのアイツが。だってすごく下品だし。普通やる? 処女膜再生手術なんて。そんなの造り直してどうするの? 意味が全然解らないんだけど……」



 結局は言い出しっぺのウミが神取美香に聞くことになった。けど大丈夫なのか? ブチ切れて神取美香のことボコボコにしそう。


「それともう一つある。これって私も全然気が付いていなかった。春山君、あなたのお姉さんって京華さんなんだってね。全然似てないから姉弟だなんて想像もしてなかった」

「京華って………春山京華のことか? 苗字おんなじだけど…………ハルが春山京華の弟?? 似てないなんてもんじゃないだろ!」

「アタシは知ってた。なんで今更驚く?」

「いや………京華は姉ちゃんだけど…………そんな驚くことかよ。似てない姉弟なんていっぱいいるだろーが。な~アヤ」

「そんなレベルじゃないでしょ。ウチのじじ様だって気づかなかったって笑ってた。京華さん数週間ウチで暮らしてたんだよ! 確か京華さんが中学2年生の時だったはず。私、小学3年生だったけど、物凄い美人でビックリしちゃって………一緒にお風呂も入ってくれて、私、綺麗なお姉さんと一緒に入れて凄く嬉しかったの覚えてる。まさか同級生の春山君のお姉さんだなんて………似てなさ過ぎ。アヤちゃん知ってたのなら言ってよね。とにかくじじ様が覚えていたの。春山京華さん一家……あなたの家族だけど、住んでいたアパートの近所に東海林詩江って女の子がいたこと、じじ様が覚えてた。母子家庭だったみたい。お母さんとお兄さんと詩江の3人家族。っで詩江が何者かに殺されてから1年もしないうちに、母親とお兄さんは別の街に引っ越して、今も生きてる。だけど苗字が変わってた。河西に」


 テルもアヤも、そして俺も声が出なかった。どう言うことだ?


「どうやら、詩江が殺される前から母親は河西って男と付き合っていて、近いうちに男の方が越して来て結婚する予定だったみたい。だから詩江が殺されない別の世界では、東海林詩江は河西詩江になって春山君の近所にいて、春山君と遊んでいた可能性がある。お医者さんごっこいっぱいやって。それが今この世界に居座っている河西早苗。私、別の世界で背乗りしてからこっちの世界に来たと思っていたけど、違うみたい。下の名前はよく解らないけど変えたんだろうね」


 そっか、それか。だから母さん、河西さんとこの女の子とよく遊んでいたでしょ、って言ってたけど下の名前までは憶えていないようだった。それ全部が記憶の干渉か。


「それと、これもじじ様が覚えていて、私、図書館で新聞のバックナンバー調べたら、あった。東海林詩江が殺された時、もう一人、別の女の子も一緒に殺されてた。その子、別の街の子だったせいか、この街ではあまり話題にならなかったみたい。母親同士が友人で、娘を連れて東海林詩江の家に遊びに来ていて、女の子二人が公園の砂場で遊んでいて殺された。じじ様が言ってたんだけど、不思議な事件だったって。不審者を見かけた人が何人かいて、ちょっと見かけない服を着た若い女だったって。だから目を引いて覚えていたようなんだけど、その不審者の行方が全然掴めなくて、それ以外の有力な情報もなくて、二人の衣服についていた指紋からもおかしな指紋は出なかった。私ね、この事件の事を考えると、どうしても河西早苗の顔が浮かぶの」


「ああ、アイツは何人も殺ってる」


 まさか幼い頃の自分を殺したっていうのか? それにもう一人の女の子はたんなる巻き添え?


「この世界の春山君と結ばれるには、別の自分がいたんじゃマズイでしょ。最大の障害が自分。それと石橋伸江さん言ってなかった? 誰と仲が良かったのかを。…………そう、ウタちゃんとノブエちゃんは大の仲良し。だから砂場で東海林詩江と一緒に遊んでいるのは石橋伸江だと間違えた」


 でも、どうして? なんでノブエちゃんを狙う必要がある。


「河西早苗は何度も何度も飛んでる。だけど何度飛んでも春山君は自分以外の誰かとくっついて、自分のことなど見てもくれない。でもあなたが見た夢の通り、自分と結婚している未来もあり、それを見て、尚更あなたに執着した。そして、春山君とくっついている相手には、石橋伸江さんもいた……これは私の勝手な想像だけどね」


 ウミの話し聞いてたら胸が悪くなってきた。マジで吐きそう。


「朱海、それってちょっと無理ないか? 飛んだら時間軸は枝分かれするはず。でなきゃパラレルワールドにならん」

「うん、そうよね。河西早苗は別の世界の住人だから、この世界の過去の自分を殺すことは出来る。でも、その過去から同じ時間軸の現在に飛ぶことは……不可能よね。ちょっと春山君をイジメてやったの。ふふふ……」


 勘弁してくれ……


「ねぇアヤちゃん。キセキの連中だけど、4つの旧中学校のどこかに出入りしてるようだった?」

「うん、してた。全部に堂々と」

「ええええ? なにそれ?」

「ああ、それウチの親父に調べてもらった。買ったんだとよ。4つとも波白不動産って会社が。っで調べるまでもなくキセキの信者の会社だった」


 信じられない。この街はいつの間にか訳の分からない団体に侵略されてる。それって売る前に調べないのか?


「反社かどうかくらいは調べるだろうけど、後はお金さえ貰えればOKなんだと思う。だってこんな田舎の古びた学校校舎と異様に広い敷地、それも4っつも一気に売れるなんて町だって万々歳でしょ。遊休資産どうするんだ、って随分と言われてたみたいだし。この件はもっと情報拾い集めて何とかするしかないようね。あと他に情報共有することって……あ、そうだ、春山君が近藤先生の車で送ってもらった時のこと、村上千佳さんも全然ダメ。まるで覚えていなかった。これって絶対におかしい。いったい何があったんだろう? あとは運転してた近藤先生に聞くしかないと思う。春山君、聞いてみて」

「……俺?」

「うんそう。あの先生、春山君のこと凄く気に入ってる。だから知っている事ならちゃんと話してくれると思うの、春山君になら。………ん? それって………あなたまさか……近藤先生と特別な関係……」

「はぁああああああああ?? 近藤先生って29だぞ。彼氏だってきっといるって」


「バージンよ、あの先生」

「ああ、完璧な処女だ」

「春山君気づいてなかったのか、鈍いな」


 こいつらなんなんだ。おまけに鈍いって……知るかよそんなもん。担任が処女かどうかなんて考えたこともない。それに処女なら俺となにかあった訳ないだろ。


「処女だって色々とできます。ディープなキスとか、他にだって沢山できるよね、エッチなこと……ね~~」

「だな。ハルはすぐ立つしな」

「………」


 アヤだけが真っ赤になって斜め上を見てるが、もう言い返すのも疲れた。


「わかったって、俺が聞きます。聞きゃ~いいんだろ」



 アヤが狙われる夢のことについては、アヤのところの人達とテルのところの人達とで絶えず監視することになった。まずは9月26日まで。しかし、アヤを家の中に閉じ込めておくのが一番手っ取り早いのだが、それはアヤ自身が絶対に嫌だと言い張り、見送られた。キセキの連中を根こそぎ潰さなければ何時までも狙われる、という理由だが、アヤの本心は前に俺に言った通り、他の女の子が狙われるのだけは阻止したいのだろう。それはウミとテルにも分かっていたようだが、それでもテルは、彩音はアタシの家で匿う、と言い続けていた。




 2日後の午後、テルのバイクで送ってもらい家に戻った。もしかしたらと思ったが、マスコミはきれいさっぱり居なくなっていてホっとした。

 家の中には誰もいなかった。今日は8月10日で日曜日だから父さんがいるのだろうと思っていたが、休日出勤で会社に行くとメモがあった。


 随分と久々に自分の家に入った気がする。家の中を見て行くと、茶碗も洗ってあり、洗濯もしてあり、ちょっと驚いた。父さんが炊事洗濯をしているとこなど一度も見た事が無かった。

 しばらくすると携帯が鳴った。静香だ。


「家に着いた? …………うん、今からそっち行く」


 自転車で来た静香はジーパンにTシャツ姿で帽子も被っていた。ボーイッシュな格好も凄く似合っていて可愛い。


「あれ? おじさん居ないの? ………そっか、仕事なんだ。仏壇にお線香あげるね」


 線香をあげている静香が背中を向けたままで言った。


「義仁の口から直接聞きたいことあるの。今まではちょっと聞き難くて……私その話題避けてた。お葬式の時の義仁……意識がそこに無いみたいだった。でもあの時は……私と一つになった時なんだけどね、入れたって教えたよね、義仁の心の中に。見えたの、義仁の中に私がいたのが。私を凄く思ってて……愛してた。上手く言えないんだけど義仁の意識が身体に戻ったんだと思うの。義仁って自分のことあまり言わないよね。それが義仁なんだろうけど……不安になるの。……今何考えて、何を思ってるのか、言わなくたって不思議と解っちゃうこと多いんだけど……言って欲しい……」


 母さんが死んだことについて、俺がどう受け止めているかを俺の口から聞きたいという。母さんが死んだ直後は自分でも解らなかったが、今なら何となくだけど解るような気がする。

 俺は逃げたんだと思う。現実から。それは自分で意図的にやった訳じゃない。だけど今思えば逃げたとしか思えない。中学になってから会話らしい会話など母さんとしていなかった。幼い頃にはずっと傍にいてくれたことなど心の隅に追いやって、煩わしいとさえ思い、ぞんざいに扱っていた。そんな母さんがいきなり居なくなった。死んだと言われ、そして俺は逃げた。ずるいというか、弱かったんだ、俺は。


「そんなふうに自分を責めたらダメだよ。ずるいなんて私は思わない。誰だって受け止め切れないナニかに出会うことある。………それにね……みんな弱いよ……義仁だけじゃないよ……でもね、義仁が弱いの私知ってるから、ちゃんと知ってるから……だからいいの……弱くて。………今は? あの時私と一つになった時の義仁は、お葬式の時の義仁とは全然違った……」


 もう逃げないって決めたからなのかな? でも母さんが居ないのは変わらない。もうそれはどうしようもないし、もっと母さんに優しくしていれば良かったって思ったところで……戻れない。それって苦しい。凄く苦しい。けど、その苦しいのも受け入れるしかない。いつかこの苦しいのって無くなるのかなって思う事あるけど、きっと無くならない。


「……そっか……ねぇ、義仁の部屋行こう」


 俺は自分の部屋で新井さんがくれたノートを読んでいた途中だったから、ちょうどいい。ハッキリしないところがあって、それを静香に聞けばいいと考えたのだが、部屋に入るといきなり静香が脱ぎ始めた。


「決めてた。義仁とちゃんと最後までするって。勉強なんて後でいい! 今私にとって一番重要なのは義仁の全部を感じること。15歳だとか中学生だとか、そんなのどうだっていい! 義仁が必要なの! 1人でいたら変なこといっぱい考えちゃって、すごく苦しいかったのずっと我慢してた。私の中のモヤモヤしたの追っ払って! だから……ちゃんと一つになってぎゅーーーーって抱きしめて! 私も義仁のこといっぱい抱きしめる。義仁が苦しいのちょっとでも軽くなるように抱きしめる」






「私……あんな……夢とおなじこと……しちゃった……いっぱい……どうしよう………私……めっちゃエッチだ………ちっ、違うよね、義仁が私にあんなことしたからだよね……だから私……義仁に合わせただけ……だよ……ね。自分からじゃ……」


 頭から毛布を被った静香がそう言っているが、ビックリしたのは俺も同じだ。


「ちょっと……なんか言ってよ! もう………ギっ…ギター! ギター弾いて!」

「ぇ………?」

「いいから弾いて! ギター!」



 毛布を頭からすっぽり被ったままで俺の弾き語りを聞いていた静香。

 暫くして俺が楽譜から顔を上げると、裸の静香が立っていた。腰に手を当てて堂々と。前ぐらい隠して欲しいかも……


「いいよ、どこ触っても。さっき物凄いこといっぱいしちゃったし、もう全然平気なの。義仁ってお医者さんの遊び好きなんでしょ! やって!」

「なっ……そっ、そんなの…………いいって」

「ちょっとーーー、なんかムカつく…………私ヤキモチ焼きなんだからね! これも義仁の口から聞きたいの! もしもね、裸の女の人が義仁の目の前にいたとするよね。男の人って写真だけでも反応するって聞いた。だから裸の女の人がいたら義仁だって反応するよね………本当はそれだけでも嫌なんだけど………そしたら義仁………しちゃう?」


 それは無理だ。俺にはできない。据え膳食わぬは男の恥、って言葉を聞いた事あるけど、俺は自分が、男の恥って部類に入るのが分かっている。静香と付き合っているのに他の女の人とはどうしても無理だ。


「だよね、義仁には出来ないって解ってた。でもやっぱ義仁から直接聞きたかったの。それともう一つ教えて。私ね……アレ……してるの、アレ。……もう…鈍いんだから! 一人でするアレだって! ………そう、それ! 義仁もしてるよね? してないなんて言わないでよ! めっちゃ恥ずかしいのに言ったんだからね! それなのに私だけだったら……泣いちゃうから! ………うん、そうでしょ、義仁もしてるんだ………ひっひっひ…エッチ。でも誰にも言わないでよ……絶対だからね。する時なに考えてしてる? 私は義仁のこと考えてしてる」


 新井さんから貰った静香の写真がオカズなのだが、ちょっとそれは変態っぽくて秘密にした。


「ほんとに私のこと考えてしてるの~? なんかウソっぽい………けどウミちゃんは絶対にダメ! 禁止! わかった? 私、義仁の中に入れるんだからね! ウミちゃんのこと考えながらしたらきっと解るんだからね! 今度絶対に確かめる」



 それからシャワーを浴び、二人で勉強して、晩飯を食ってから俺が送って行った。

 静香は次の日も、次の次の日も、連絡なしで午前中から来た。俺も待っていた。



「15日にお姉ちゃんとこ行くって連絡したから。いいでしょ?」


 その姉ちゃんはというと、12日の夜に来て、仏壇に線香を上げ終えるとそのまま帰って行った。


 13日は俺は父さんと墓参りに行った。その日は静香も家族と一緒に別の町にある先祖の墓参りに行き、ちょうどいいと思っていたが、静香は不満らしい。


「逢えない……なんで?」


 14日も静香は来た。そしてお盆休みで家にいた父さんに、


「義仁君とおつきあいしてます、佐藤静香です」


 と堂々と挨拶して、俺も父さんも驚いた。そういえばテルが言ってたな。静香の中に芯が入ったって。

 その日は2組の親戚が来たのだが、静香がお茶を入れたりしながら一緒になって談笑していた。すげーな。人見知りで社交的じゃない俺には絶対に真似できない。もし静香の家に遊びに行ってこんな状況になったら、そそくさと帰ってくるだろうな俺。それを後から静香に言うと、


「うん、そうだね。でもそれが義仁だよ。人馴れしちゃって初めて会った人にもベラベラ喋ってる義仁って……なんか嫌かも」


 親戚たちは母さんの死因については触れなかった。気を使ったのだろう。そんな中、ニコニコしてる静香の存在が場を明るくしているのに俺も気が付いた。


「へ~義仁君の彼女か、可愛いね~」


 俺も背が高いし静香も小さくない。会話から俺達のことを高校生だと思っているようだと気がついたが、俺と静香はその方が都合がいいと思いスルーした。だが不思議と父さんも言い直さなかった。まさか俺が中学生だってこと忘れてないよな。まぁいいや。


 15日。お盆休みで父さんが家にいたからバイクを隠れて持ち出すことなど出来ないから、静香と二人で汽車で行った。


「ああ、いらっしゃーーい静香ちゃん。早く入って! 気に入った服着て、メイクもばっちり決めて、街に繰り出すよ! ほら直ぐに脱いで。どれが似合うか着てみなきゃね」

「お姉ちゃん、コレ」


 来る途中、静香がケーキを買ってきたのだ。


「そんな気ぃ使わなくてもいいのに」


 そう言いながら姉ちゃんは静香が穿いてるジーパンのファスナーを下ろして脱がそうとしていて、静香もケーキが入った箱を持ったまま腰を振って脱がされていた。こいつらマジで仲いいわ。


「あ~~お姉ちゃんパンツまで下げたらダメ~」

「あはははは……大事なとこ見ちゃった」


 そういえば京華さんって呼ぶとか言ってたはずだけど、普通にお姉ちゃんって言ってる。まぁなんでもいいか。

 それから静香はブラジャーとパンツだけの姿で、あっちの洋服、こっちの洋服と、身体に当てては姿見に映すを繰り返していて、ピョンピョン飛び回るウサギのようだ。姉ちゃんの部屋は前に来たときよりも洋服だらけになっていて、これは静香じゃなくても女の子ならテンション上がるのが分かる気がした。


「お姉ちゃん、凄い数あるけど、どれも新品みたい」

「この前静香ちゃんにもやってもらったマネキン覚えてるでしょ。売ろうと思ったら誰かが実際に着てるのを見せるのが一番なの。ここにあるのは全部私が着て見せた服だけど2~3回しか着てないから新品に近いの。中には一度しか着てないのも結構あると思う。似たデザインの服が売れてしまったらね、それ以上着ても売るものが無いから着ない。だからどんどん溜まっていくの。それにしても不思議よね。静香ちゃんのお尻って見た目は小さくて上向いてるのに、サイズ測ったら私とあまり変わらない」

「私のお尻って筋肉かも……陸上やってるから」

「あ~~そうなんだ。ちょっと触らせて」


 そう言うと静香のお尻を触り、


「ああホントだ、固い。太ももは? ちょっと足開いて………へ~全然プヨプヨしてない。あっ、それりよりさっき手に持った濃いオレンジのツーピー。あの色すごく似合ってた。…………ああ、それそれ。ちゃんと袖通してスカートも穿いてみて。あ~~これね、ダイアナ妃が80年代中頃に着てたツーピーちょっとアレンジしたデザインなの。変わったデザインだけど似合えば凄くいいのよ。ダイアナのは濃い赤だったけど……ああああ……いい、凄くいい。確かこのツーピー1度も着てないはず。5分袖のジャケットだから私じゃ似合わなかったの。でも静香ちゃん、色も似合うけど5分袖いいわ、凄く似合う。これ着て街に行こう! どうお? 気にいらない?」

「これ……凄い……めっちゃ格好いい!!」


 今度は向かい合って椅子に座り、姉ちゃんがブラとパンツだけの静香によく分からないが色々と化粧をしてあげている。静香も澄ました顔して黙ってやらせてて、なんだか面白い。


「私ってやっぱり妹欲しかったんだ。こうゆうの凄く楽しい。弟いても全然面白くない」

「妹じゃなくて悪かったな」

「あんた覚えてない? 小さい頃さ、私にスカート穿かされてオママゴト付き合わされてたの」

「はぁぁあああ? そんなの知らんわ」

「あの頃は可愛い顔してたのにね………」


 姉と弟の会話って噛み合ってないよな。それでも会話が成立してるのって凄いかも。

 化粧が終わった静香がさっきのツーピスを着ている。うん、確かにこの色似合う。それに格好いい。


「あれ? まだ値札ついてる………4万5千………ええええええええええええ!? 45万円! お姉ちゃん! これ……高すぎる」

「え? 値段? そんなの気にする必要ないの。このツーピーってスカートは長めのタイトで、ジャケットは五分袖だからそれだけでも難しいの。その上モデルがダイアナだから胸が大きい人は全然ダメ。静香ちゃん以上に似合う人ってちょっといないな」


 街はお盆ってこともあって浴衣を着た人で溢れていた。そんな中を姉ちゃんと静香が腕を組んで歩いている。異様に目立ち、すれ違う人が振り返っている。背の低い姉ちゃんはハイヒールを履き、静香はパンプスを履いているから、そんな二人の後ろを歩く俺から見ても釣り合う背格好だ。周りの人にはこの二人ってどんな関係に見えるのだろう。

 デパートに入ると、


「静香ちゃんと色々見てくるから、あんた2階の喫茶店で待ってて」


 女って凄いよな。ウインドショッピングなんて俺には理解出来ない。なにが楽しいんだろう?

 喫茶店に俺は2時間も居たのだが、オーナーの趣味なのかコミックスがけっこう置いてあって、もっと読んでいたかったのだが楽しそうな顔をした静香が呼びに来た。


「プリクラ撮りに行こ!」


 ゲームセンターに行くと、


「あ、向こうの空いてる。お姉ちゃん行こ行こ」


 静香が姉ちゃんの手を引っ張って連れて行き、2人で何枚か撮っている。次は静香と俺らしい。手招きしている静香の隣に行くといきなりキスをされた。頬っぺたやおでこに、ブチュ、ブチュ、ブチュ………と。

 俺は顔中に真っ赤なキスマークがついた酷い顔の隣で満面の笑顔の静香。姉ちゃんと静香のを見ると、静香がタコみたいに唇を尖らせて姉ちゃんの頬にキスをしようとしていて、姉ちゃんがキャーって感じで笑ってるのが楽しそうでいい。


 3人で回らない寿司屋で晩飯を食い、俺と静香は汽車で帰った。

 俺は静香を自宅に送り届け、自分の家に着くと9時を過ぎていたが父さんは飲みに行ったらしくメモがあった。


 しばらくするとチャイムが鳴った。誰だ? 町内の回覧板?


「すみませーーん」


 誰かが既に玄関に入っているようだ。女の声だ。出て行くと、


「鍵は掛けた方がいいよ」


 見た事の無い女の人がそう言った。


「君が春山義仁君ね。へ~~近くで見ると………君ってほんとに15歳?」

「あんた誰だ?」

「ああ、ごめんね。私こういう者」


 そのオバサンはバックから名刺を取り出すと俺に差し出した。それを読んで自分が何者なのかを理解しなさいって意味らしい。随分と上から目線だ。


「その紙っぺら俺に渡してどうすんの? ゴミなら持ち帰ってくれないかな」

「……………あはは………らしくないのは見た目だけじゃないみたいね。私かれこれ10年記者やってるから中高生も随分取材してきたけど、君みたいな子初めてかな。ちょっと話聞かせて欲しいの。録音いい?」

「オバサン、名前は?」

「え…………? だから名刺に…………口で言えってこと? ふ~ん………度胸いいんだね。名前は大橋リカ、週刊21世紀って週刊誌知ってる? エッチな写真も毎回載ってるから見たことあるよね? そこの記者やってるの」

「大橋さん、話すことなんて無いし、俺眠たいから帰ってくれ」


 俺がそう言うと大橋リカという記者は声を出さずに笑った。


「そっか………話すことなんて無いか………ねぇ、君のバックになにがいるの? テレビや新聞の連中ぜーーんぶ居なくなっちゃったよね。強烈な圧力掛かったみたいだけど、君って何者? あははははは………いいよ言わなくても、調べるから。春山君さ~眠たいとこ悪いんだけど、私が喋るから、君は何も喋らなくてもいいよ。だから~ちょっと時間貸して。それならいいよね。私ね、去年からこの街に張り付いてたの。神取一族の件で。そうしたら今年の4月にいきなり殺人事件が起きちゃって、それを皮切りに次から次へと起きるは起きるは、これって何かの祟りじゃないのって思うくらい。そうこうしてる内に君を見掛けた。特別理由なんてなかったんだけど君を追ってみたの。君って異様に目立つよ。普段はいっつも皮ジャケット着てるんだね。家に誰も居ない時はオートバイ乗って、でも不良じゃなくて、学校の成績もトップクラスでバスケやってて、だけど高校生との乱闘だってへっちゃらな中学生。私ね、この街で起きてる一連の事件、全部繋がってるような気がする。そして君のこと追っている内に、君がこの事件に関係しているんじゃないだろうかって思えてきた。河西早苗って何処行っちゃったの? それと同居してた男2人は何者? どうして赤の会に殺された訳? そんなこと考えてる内に君のお母さんまで………。君と大国照子、権藤彩音、篠原朱海の4人は何をやろうとしてるの? この街で篠原家と大国家、それと権藤家と言えば、神取一族ですら一目も二目も置く三家よね。その三家の娘が全員おない年で、君と同級生。凄い偶然なんだけど、その三人娘が揃いも揃って君と特別な関係って笑っちゃう。君っていったいナニ? それに紅蓮大寿が言った、佐舞久留町は別の世界と繋がってしまった、ってどういうこと? それと佐藤静香。君のお父さんが東京出張の時、あの子1人で泊まったでしょ。たんなるガールフレンドじゃなく恋人なの? 今私が言ったこと全てがここ数ヶ月で一気に動いた出来事。全部が関係してる気がしてならないの……え? 聞いてる? 春山君! どうしちゃったの! ちょっと春山君…………」



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