第26話 任務遂行能力テスト
間が空いてしましいました。
「で、次の試験の内容は教えてもらえるのですよね?」
孝太郎は、気を取り直して二次テストの内容を尋ねる。
「はい。コタロー様の任務遂行能力テストは、ホーンビーの角を5ほ」
「「熊の手」の納品だ」
「「えっ?」」
会話への突然の割り込みに驚いたのは、孝太郎だけではなく、窓口嬢もであった。
割り込んで来たのは、武力テストの試験官だったカッファである。
「カッファ様、どういうことでしょう?Dランク試験ですよ?」
自分が伝えようとした内容とは明らかに違う内容でり、「熊の手」はC級の試験課題の一つである。
「どういうことも、こういうこともないよ。コタロー君の次のテストの課題は「熊の手」の納品だ」
「D級の課題にしては難易度が高すぎると思います。
危険すぎます」
「大丈夫だ。今回は特別に試験官の俺が特別に同行するからな」
「そんな内容は聞いていません」
「そうだろう。今決めたからな」
受験者である自分そっちのけで、言い争うカッファと窓口嬢に半ば呆れながら、孝太郎は訪ねた。
「で、「熊の手」の納品でいいんですね?」
「そうだ」「ちがいます」
「どっちなんです?」
「ホーンビーの角5本の納品です」
「俺と一緒に「熊の手」を取りに行こうぜ」
「はぁ。もう、ホーンビーの角5本と熊の手の納品ということでいいです。資料か何かありますか?それとも、それを探すところからのテストですか?」
「それを探すところからのテストとなります」
「わかりました」
手早く話をまとめて、早々にカウンターから離れる孝太郎であった。
「とはいえ、どうしたものかな」
勢いでハンターギルドから出てきてしまったものの、納品する物の名前だけしか判明していない状態である。
情報を収集するのが必要であることは明らかだが、知り合いすらいない商都ベルトアにあっては如何ともし難い状況である。
と、考えあぐねる孝太郎に声をかける者がいた。
「ちょっといいかい?」
掛けられた声に振り返ると、そこには一緒に武力テストを受けた一人のハンターの姿があった。
同じD級を受けながら、試験官のカッファに盾の一撃で吹っ飛ばされた彼である。
「あ、あなたは。身体はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、身体は丈夫なんでね。それよりも俺と組まないか?」
孝太郎にしてみれば渡りに船の申し出である。
「詳しく聞きましょう」
「そうか、ありがたい。事情から説明すると、俺以外のパーティーメンバーが依頼で商都を離れているんだ。コタローはどうやら商都以外の街を拠点にしているみたいだし、他に伝手もないなら協力しあえるんじゃないかと思ってね」
「なるほど、正直ありがたい申し出です。ところで課題は何なんです?」
「D級はホーンズビーの角5本だろ?」
「私も、片方はそうなんですけどね」
「片方?」
「成り行きというか何というか、「熊の手」も必要なんですよ」
「熊の手か、高級素材だな」
「高級……?」
「ああ、それに関しちゃ噂レベルの知識しかないが、素材としても食材としても高値で取引されているって話だ」
「レアなんでしょうか?」
「さあな。どっかのパーティーがほぼ独占してるっていう噂もある」
「なるほど、ホーンズビーの方はどうなんです?」
「そっちは割りとポピュラーな素材だな。とはいえ、詳しいことは俺にも解らない」
「そうですか」
孝太郎は落胆の色を隠せないでいた。
人数が増えただけで、課題は何も進展していない。
「でもな、この広場で売られている可能性もあるわけだ。それを買ってもいいだろうし、逆に仕入れ先を辿る事も可能だろ」
「なるほどっ!」
これだけ広い市場ならば、確かにホーンズビーの角を売っている店があってもおかしくない。
孝太郎は、声を掛けてきた男とがっちりと握手を交わした。
男はロークスという名で、日頃は商都を中心に活動しているという。
ロークスの自己紹介を受けて、孝太郎もソロである事を含めて、カフェルを中心に活動している事を話すと、カフェルで活動している事で驚かれ、ソロである事にも驚かれた。
「カフェルの辺りって商都周辺よりも、魔物が強力だって噂だし、そこでソロで、しかもD級まで上がるって、大変な気がするよ」
どうやら商都周辺には、強力な魔物は少ないらしい。
確かに大変な思いはしたなと、大穴の一件について話すと、ロークスは更に驚き、感動した。
「うおおお、それって商都でも話題の、凄腕のウッドの話じゃないかっ!え?コタローがそのウッドなのか?」
「ああ、凄腕かどうかはともかく、その時はウッドだったな」
「え?でもアイアンでD級テストって……そうか!跳び級か!いやあ、そんな英雄に声をかけていたとは。これからもよろしくな」
ロークスの孝太郎の手を両手で握り、ぶんぶんと音がするほど激しく振った。
「あ、ああ、よろしく」
「そうかぁ、もうD級テストも通ったようなもんだな」
「そうなのか?」
「ソロでゴブリン数万体を相手にできるなら、もう何が来たって楽勝だろ?」
「いや、一人で数万体は普通に無理だよ」
「またまた、ご謙遜を」
デーゼ村の大穴の一件は、商都でも有名らしい。
しかし、大幅に脚色されて伝わっているようで、孝太郎としては、面倒な事にならない事を祈るばかりだった。
ロークスと孝太郎は連れ立って、広場の露店を見て回った。
手分けをしなかったのは、単純に孝太郎が商都に不慣れだったことと、ホーンズビーの角がどんな物か見たことがなかったためである。
目的の露店は程なく見つかった。
ロークスが露店の店主から情報を引き出そうと話しかける。
「見たところホーンズビーの角だと思うんだが、これだけしかないのか?」
様々は魔物や動物の素材が雑多に並べられている中から3本のホーンズビーの角を指差しながら尋ねる。
「ああ、丁度大口の客が根こそぎ買っていった後でね、他の素材に埋もれて見つけられなかった分しか残っていないんだよ」
「そうか、そうなると自分で採ってくるしかないが、自分で採ろうと思ったら大変かな?」
「どうだろうな、ホーンズビー自体はそれ程危険な魔物じゃないらしいが……これも人伝手に仕入れた物だからな」
「そうか、解らないか。ありがとう」
「あ、大口で買った人って誰ですかね?」
情報らしい情報が手に入らなかった状況に、思わず孝太郎が口を挟む。
「ああ、確か裏通りの薬屋の店主だったはずだ。ネールサスとかいう店だよ」
「ありがとう。行ってみるよ」
銀貨を一枚店主に握らせると、孝太郎達は店を後にする。
「買った先が解ってもしょうがないんじゃないのか?」
「普通の人ならな」
「どういう事だ?そこから買うって手も無くはないが……」
「大量に仕入れたのが薬屋だとすると、市場で手に入らなかったらハンターに依頼したりしているかもしれないだろ?」
「ああ、そうだな」
「何処で採れるのか知っていれば、依頼も受けてもらいやすいし、過去に何度か依頼していれば、何処其処でどうやって採れた物ですと説明を受けている可能性が高いと思ってね」
「なるほどな」
その足で二人は、ネールサス薬店に向かう。
そこまでの道は、ロークスが心得ていた。
人通りもまばらな裏通りに面したネールサス薬店は、店構えも小ぶりで看板も出ておらず、初見で見つけるのは困難だったであろう。
店に客はおらず、店番と思しき男がカウンターで茶を飲んでいる。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
カウンターの内側の男は、長い銀髪で中性的な顔立ちで微笑んで首を傾げる。
飲食店などに勤めれば、彼を目当てに女性客が集まるのは間違いないであろう。
「何かお探しかい?」
「いえ、探しているのは薬の類ではなくて……、お話を少し伺いたいのですが……」
「ああ、構わないよ。見たとおり暇な店なんでね」
「ありがとうございます」
「二人ともハンターとお見受けするが?」
「そうです。ハンターの昇級試験で情報を集めていまして」
「なるほど、あれかな?ホーンズビーの角の件かな
?」
「そうです」
「やっぱりね、過去にも何度かこういう事があったからね。それで、大量に買った分から売って欲しいということかな?」
「いえ、そうではなくて、自分達で採りに行くので、採れる場所をご存知ないかと思いまして」
男は、孝太郎の返答に驚いたように目を見開く。
「それはそれは、期待のできるハンターだね。そういうことならば、このネールサス薬店店主であるネールサスが事細かく教えてあげよう」
急に大様な態度になる店主だったが、孝太郎達にしてみれば、その情報は喉から手が出るほど欲しいものだ。
ネールサスは続けた。
「ただし、一つ条件がある。その条件を呑んでくれたらホーンズビーに関する全ての知識を君達に伝えようじゃないか」
条件という言葉に、不穏な事を感じてお互いを見つめる孝太郎とロークス。
「なに、そんなに特殊な事ではないよ。自分たちの必要な分以上に採れた場合は、ギルドに売らずに私に直接売って欲しい」
ネールサスの出した条件は、至極まっとうなものだった。
「判りました。条件を呑みます」
「おお、ありがとう。では、ホーンズビーについての講義をはじめよう」
商都の裏通り、小さな薬店のカウンターでは、時ならぬホーンズビーのついての勉強会が開催された。
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