第25話 武器戦闘テスト
暫く待っていると、筋骨隆々とした偉丈夫がやって来た。
「俺の名はカッファ、今日の試験官を務めさせてもらう。テストを受ける者は集合してくれ」
試験官のカッファは、日焼けした肌に笑顔の白い歯が印象的な優男といった風貌だが、革の鎧に包まれたその身体は均整が取れており、相当に鍛えているのが窺える。
集まった者は5人、D級のテストが2人とE級が3人のようだ。
「先に行っておくが、俺に勝たないと不合格というわけではない。これでもシルバープレートだ。1対1の模擬戦でE級、D級に相応しい武力があるかどうかを見極めさせてもらう。まずはE級からだ」
E級の3人の中にカッファに勝てそうな者はいない。
相手はシルバープレート、ということはB級かC級ということだ。
勝てなくても当然ということだ。
試験の開始前から集まり始めた柵の外の観衆は、今では100人を越している。
受験者が打ち込む度に、「そこだ」とか「今じゃない」などの応援ともヤジともつかない声が上がる。
E級の3人は全員が剣を使っていたが、カッファに有効な打撃を入れる事ができた者はいなかった。
一応カッファの剣は刃引きされたものだが、もろに入れば骨折は免れないであろう。
しかし、絶妙の手加減により怪我人もなくE級のテストは終了した。
終わった後には、一人一人アドバイスを与えている。
合格、不合格の判定だけではないところに好感を持つことができる。
続いて、D級のテストとなった。
「次はD級、コタロー」
孝太郎の名前が呼ばれる。
「獲物は何にする?」
「私はこれで」
孝太郎が使用を宣言したのは「金剛杖」である。
「ほう、杖とは珍しいな。ならば間合いが近い槍で相手をしてやろう」
カッファはの用意した槍は穂先の代わりにタンポの付いた物だった。
突きが主体となる槍での刃引きは、余り意味がない。
防具のない部位だと命に関わる可能性も出てくる。
お互いに距離を取り、得物を構える。
孝太郎的には、相手の間合いを知るためにも初撃は待ちなのだが、テストである以上、攻めの姿勢も重要視されるだろう。
孝太郎は、槍術の型に倣った突きを放つ。
カッファはそれを身体を翻して躱す。
その後も、二段突きやフェイントを織り交ぜての突きを放つが全てを躱された。
流石に槍の型だけでは無理だと判断した孝太郎は、試しに薙刀の型を織り交ぜてみる。
上段からの振り下ろしと見せての脛打ち、跳ね上げての側面打ち。
「おおっと」
カッファは声を出して、後方に下がって躱した。
「どうした、試験官サマっ」
「おいおい、熊殺し«ベアキラー»押されてるんじゃないか」
「カッファ、がんばれー」
それを見た、観衆からカッファに向かってヤジが飛ぶ。
明らかに上級ハンターと見える者から、広場での買い物客風の者までいる。
カッファは商都では、それなりに有名な様である。
孝太郎には疑問が生じていた。
無論ヤジの内容についてではない。
「全てを躱された」事についてである。
普通ならば、躱さずに受けた方が良い場面でもカッファは必ず躱して避ける。
理由は解らないが、カッファは受けない。
(ならば三手詰めでもやってみるか)
杖が槍や薙刀と決定的に違うのは、刃が無いことである。
当たり前の事だが、槍や薙刀は有効な攻撃はその刃の部分での打撃のみが有効となる。
逆を言えば、杖はどこを当てても有効というとだ。
孝太郎は大きく踏み込んで、深い間合いからの左上からの大回しで打撃を放つ。
カッファは左下に潜り込むようにしてそれを躱す。
間髪を入れず、手繰った杖を半身を入れ替えて喉を狙って突きを放つ。
左下にしゃがむような姿勢を取っているカッファは後方に下がって躱すしか手がない。
そして、低い姿勢から大きく後ろに下がるには、仰け反るような姿勢にならざるを得ない。
勢い、両手が前に残るか得物を片手で持つか、いずれにせよ重心から武器が離れる。
そこに杖を絡めて跳ね上げる。
狙い通りにカッファの得物は宙を舞い、それが落ちた時には孝太郎の杖の先端は、カッファの喉元に突き付けられていた。
所謂、初見殺しというやつだが、それなりに有効である。
「面白い技を使うな。ならば剣と盾で勝負だ」
カッファは武具の置いてある場所から盾と片手剣を取り出す。
「え?判定は?」
「まだだ」
「今、勝負って言いましたよね」
「言っていない。二次テストだと言った」
(あーこれ、ダメなやつだわ)
「いくぞっ!」
試験官であるカッファの方から攻めてくる。
片手剣の連撃を躱し、剣の腹を叩いて避け、いなす。
そこへ盾による打撃が繰り出される。
杖を立てて受け、同時に後方へ跳んで衝撃を逃がす。
杖の両の先端を使い、左右で回転させるように打撃を放つ。
焦れたカッファは盾で受けながら、突きを放つ。
待っていたとばかりに右後ろに躱して、盾による打撃を誘発する。
そうなると次にカッファが繰り出してくるのは、内から外へ身体を開く型の盾による打撃しかない。
それを躱して正面に回り込む。
そこへはカッファの突きか斬撃が繰り出されるはずである。
突きだ。
孝太郎は、更に左へ回り込みながらそれを躱すと、突き出されたカッファの右手首の上外側から杖の先端を肘の内側に向け添わせる様に差し込む。
肘の内側から更に脇の下を通って背中側に先端が抜けた。
そのまま水平方向へ押してやれば、関節技の完成である。
観衆からどよめきと歓声が上がる。
「くっ、合格だ。C級の時の武器戦闘の免除もやろう。いや、訂正だ。C級の武器戦闘のときも試験官に俺を指名する権利をやろう」
「いりません」
「ならば、その条件付きということで合格にしてやる」
「ええっ!?」
合格はしたものの、釈然としない。
次の受験者は悲惨だった。
カッファと同じ、剣と盾を使った戦闘スタイルだった事も災いし、数合の後、火のついてしまったカッファの盾による打撃で吹っ飛ばされて、柵に叩きつけられていた。
「やっちまった」
試験官カッファの呟く声が聞こえた。
責任の一端が自分にある事を自覚し、心の中で合掌する孝太郎であった。
孝太郎は広場を再び横切って、ギルドへと向かう。
途中何人かから声をかけられる。
「あんた強いな」
「コタローさん、すてきー」
「何かあったら指名させてもらうぜ」
この一件でコタローという名は、商都でそこそこ知られる様になっていくのであった。
受付カウンターで試験の終了を告げると、武力テスト合格の通知が既に出来上がっていた。
手渡された書類には、3ヶ所の署名欄があり、一番上にカッファの署名があった。
カッファの署名の上にはBの印とシルバーの書き込みがあった。
ギルドの級にはF〜Aがあり、F級がウッド、E級とD級がアイアン、C級とB級がシルバー、A級がゴールドのプレートとなっている。
その上には伝説のミスリルプレートがあると、ハンター達の間では実しやか語られている。
別の試験結果に関する書類を見た窓口嬢は、カッファのC級昇級テストの試験の義務化と武器試験のカッファ指名の条件を見て、孝太郎がギリギリで合格したので条件が付いているのだと勝手に思い込んだ。
「ギリギリとはいえ、合格は合格よ。胸を張っていいと思うわ」
孝太郎に的はずれなアドバイスをする。
そこに居合わせた他の4人の受験者は、何を言っているのかと窓口嬢に冷ややかな目を向けるが、余裕があったと思ったがギリギリだったのかと額面どおりに受け取って落ち込む孝太郎を見て、全員が同じタイミングで心の中でツッコミを入れる。
4人はお互いに顔を見合わせ、何か通じ合うものがあった事を悟り頷きあっていた。
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