カケラ版-3『入田凜華』
「あなた達二人はそこで暴れなさい!」
3年生の入田凛華は後輩の演劇部の1年生にそういう。
「あの先輩、暴れるって……そんなことをして何の意味があるんですか?」
凛華に暴れと言われた演劇部の1年、安西薫は意味が分からないと言うふうに言う。彼女の今回の役は悲劇の犠牲者Aで、別に暴れるような訳では無い。
「脚本にはそんなこと書いてませんけど?」
同じく暴れろと言われた道堀万由子も抗議の声を出す。彼女もメイド役で今回の演劇に出るのであって暴れるなうという事は全く考えられない。
他の演劇部員たちも、訳のわからない事を言っている凛華に不快な目を向ける。
「暴れたあなたを私が討伐して主役の私が活躍するためです!」
凛華は堂々とそう言い放つ。
「……あの、今回の演劇は先輩が主役じゃないですけど?」
「主役は、私です」
2年生の女子生徒が手を挙げる。
「あなたは、今回の演劇に出る必要はありません! 主役はこの私入田凛華です!!」
「「「はあ?」」」
きっぱりとそういった凛華に、演劇部員達全員が声を上げる。
「脚本にはそんなこと書いてません!」
「そうですよ! これをちゃんと成功させないと、先輩たちに合わす顔がありません!」
「そもそも、入田先輩は演劇部員ですらないでしょう! なのになんで演劇部の脚本に口出しくるんです!?」
高校受験ために3年生は引退している――今回は、3年生から後を託された2年生と、新しく入って下積みを終えた1年生のはじめて挑戦する大切な演劇だ。
それを、全く何の関係もなく突然入ってきた闖入者であり――媛崎中学校きっての変人と呼ばれている凛華に無茶苦茶されたくはなかった――
「私は先ほど演劇部に入部届けを出しました。他の3年がいないので、私が部長です!! そして私が部長なので私が主役の脚本に書き直しなさい!!」
無茶苦茶な事を言ってくる凛華――
「そうですね、あなたは劇に出なくていいです。裏仕事をやっていなさい! あなたは暴れて私に成敗されなさい――そうですねあなたは死んだらどうですか?」
大切な脚本をむちゃくちゃに変えようとしている凛華――
演劇部の部員たちは皆で顔を見合わせ…………部室から出て行くと、その足で全員退部届けを出しに行った……
「今から媛崎中学校演劇部部長である入田凛華が素晴らしい演劇を開催いたします!!」
部員が1になったのでもはや演劇『部』ではなくなったはずなのにあくまで部と言い張る凛華は、体育館にあるステージで劇を行おうとする。
裏方も誰もいないのでガラクタが置いてあるだけにしか見えないステージで何かをしようとする凛華。
体育館にいる生徒達もだれも興味を見せずただ1人騒いでいる凛華を完全に無視していた――
「何をやってるんだろうねアレ?」
「知ってる? あの人どっかの有名な女子高校を受験するらしいよ」
「受験勉強しなくてだいじょぶなのかな?」
薫と万由子は、半眼で舞台の上の凛華を見ていた。
興味を持って入った演劇部だったが、凛華の最低行為のためにもう興味をなくしていた。
2人は冷ややかに演劇部の残骸を眺めている。
余談だが、媛崎中学校の演劇部が復活するのはこの次の年度に宍戸秀作が入ってきてからとなる。
「私の仲間が敵と戦っています! 敵は卑怯にも戦っている私の仲間と自分の周りにバリアを張って私が仲間を助けようとするのを防いでいます!!」
マイクもスピーカーも使わずに話したところで体育館全体には行き渡らない。よほど近くにいる存在にしか凛華の声は届いていない。そして届いたところで誰も興味を聞かない。
それがわかってるのか凛華の表情はだんだん荒んでいく。
「……バカがいるようね……利用できそうだ……」
ステージの上に置いてあるガラクタの影から凛華を眺める存在がいた。
人間では無い。人間は凛華などに興味は示さない――
それは、三毛猫のヌイグルミのような存在、グレン・ナジャだった。
「力を与えてあげるわ。暴れなさい――」
グレン・ナジャが魔法を展開し、それを凛華にかける――
「私は怪我した人たちを一生懸命治療しようとしました。奇跡が起き私の力は怪我達を癒すことに成功しました。が、私は力を使い果たし倒れてしまいました――う……!」
誰も聞いていない自分勝手な脚本を朗々とただ言うだけの凛華――何か苦しそうにうめき、その声が途切れてもだれも気にしなかった。
その姿が、なぜか膨張し、異形の怪物になっても、誰も気にも留めなかった―――――
「ウガァ!!」
グレン・ナジャの魔法で化物へと変貌する凛華。その叫び声が体育館に響きわたった時、初めて生徒達は気が付いた。
「なんだあれ?」
「変態が、変体したぞ!」
「逃げろ!!」
「ウダ!! ウガ!!」
凛華が変貌した異形の怪物が生徒達を襲おうとする!!
「か、怪物!!」
「逃げよう!!」
薫と万由子も体育館から逃げ出そうとする――
その時だった。
「待ちなさい!!」
体育館の上部から、誰かの声が聞こえてくる――――
体育館の上部はそう簡単に行ける場所では無い。もし、行けるならば、天井に挟まったバスケットボール等を簡単に取れるはずだ。
だけど、その声は上部から聞こえた。
怪物から逃げようとする生徒達の内、薫と万由子だけが上を見た――
そこには……
「魔法少女エルドラーナ見参!! 私が皆を守ってみせる!!」




