カケラ版-2『神山桂花』
「神城真一……ついこの間まで、フランスにいました」
中学校の入学式の日、桂花の前の席に座った男子生徒はそう自己紹介した。
「へー、帰国子女なんだ」
「とてもそうは見えないなぁ」
「面白そうな人だね……」
周りの生徒達も真一に注目する――
が、まあそれも中学生活が始まったほんの数日の事だった――
「海外生活が長かった割には普通の男の子なんだよね……もっとこう、変わったところとかないのかなぁ? ……………魔法を、使えるとか……?」
桂花は、海外帰りの同級生に対し興味を失うことはなかった。
神城と神山……名字が似ているため、出席番号が近かった。だから席順が前後になっていたのも原因だった。
他の生徒達は長く共に過ごしていくうちに、真一も自分達と同じごく普通の中学生ということに気付いていき、それで友情がなくなるなんてことはなかったが、特別視扱いというのもなくなっていった。
それでも桂花は新一に会うたび、挨拶のように、
「本物のパリジェンヌに会ったことあるのかな?」
「セーヌ川で泳いだことある?」
「凱旋門に登った事は?」
「エッフェル塔とスカイツリー、どっちが綺麗?」
などと言う質問を繰り返していた――
「なぁ、鳳凰寺さん……」
「聖、でいいって! しつこいな、真ちゃんは!」
「何か、かなりフランクになってないか?」
真一と聖が校舎裏で、隠れて話し合う。
同じクラスの同級生とは言え男と女が隠れて会っているなんて、他のクラスメイト達に知れたらどんな噂がたつかわからない。
だけど、二人には話し合わなければいけないことが多々あった。
「日本の他の能力者には、いつあわせてくるんだ? 俺は、他の能力も手に入れたいんだ」
「こないだ、飛雲を教えてあげたじゃない」
「……これか!」
真一は意識を集中させ自分の特殊能力を発動させる――
ポン!
軽めの音がして、真一の手のひらから小さな白い雲が出現する。
「お~~!」
パチパチパチ!
その雲をキラキラした瞳で見て拍手をする聖。
「すごいじゃない! まねまね、上手だよね!」
「『Level1 Download』だ!」
説明しておく。真一の持つ特殊能力、『Level1 Download』というのは他者の持っている特別な力を真似る能力――それも、ごくごく初歩のレベルで自分のものにできるというものだ。
だから聖はまねまねの能力と呼んでいる――
「初歩レベルといっても複合させれば強大な能力にできる可能性がある。だから、他の能力も覚えたいんだ。お前のところの星占部だけじゃなく、噂に聞く天逆衆の能力とかもな!」
「天逆衆の人を何人か知ってるけど、まねまねは難しいと思うよ。あの人たちの能力は嘘が根元にあるからね」
「……」
真一の『Level1 Download』は、真一自身が理解できないものは真似できない――能力を自分のものにするにはそれなりに制約があるのだ。
「だから難しいフランスの能力者に聞くよりはまだ分かりやすい日本の能力者に聞こうと、日本に帰ってきたのに、これじゃせっかく手に入った能力も何の役にも立ちやしない」
真一はそう言って嘆いていた。
「……真ちゃん、あなたや、あなたの妹、綾花ちゃんが能力を手に入れた経緯は、本来なら遭遇してはいけないものだったって事を自覚している?」
「…………」
「あなたや綾花ちゃんが能力を手に入れたのは……魔女によって無理やりだったんでしょう? 本来ならあそこで死んでいてもおかしくなかったんだよ……」
「わかってる! でもな……それによって人生が変わったのも事実だ……。それに、できることならあいつの友人だったミリーを助けてやりたい………」
真一は悔しそうに握りこぶしを解く。
「うらやましいね」
「何が?」
「そのミリーって子! 本当に、妹ちゃんの友人だったってだけ?」
「………そうだよ!」
そういう真一の表情が、ほんの少し苦渋の色がにじんでいることを聖は見逃さなかった。
「真一君と聖ちゃん、何を話しているんだろう?」
桂花は、物陰からクラスメイトの様子をうかがっていた。
「どうも怪しんだのねあの2人……」
桂花に取って、2人は興味の対象だ。
フランス帰りの帰国子女、神城真一。そして地元の名家鳳凰寺家の令嬢である鳳凰寺聖……小学生の頃から変わり映えしないと思っていた同年代の人間たち中で、これだけ個性豊かな人間は他に思い浮かばなかった――
彼らの側にいれば、自分のまた、その他大勢では無い特別な人間になるような気がしていた―――
神山桂花が最も嫌うもの――それは、没個性――その他大勢の1人として扱われることが何より嫌だった――
そのために行っている言動や行動が、彼女を厨二病と呼ばれている原因になってることに気づいているのかいないのか……
「……あの時、ミリーが行方不明になったのは彼女が覚醒した能力は原因だったと言われている……」
そして、真一や妹、綾花……そして他の子供たちが天覇の魔女に襲われたのも、その力が目的だったと言われている――
「本当に、ミリーはなんの能力に目覚めたんだ?」
思い出そうとしても思い出せるわけない。というか、天覇の魔女に襲われた時の事を思い出そうとすると、脳がそれを拒否しようとする――まだ中学1年生、12歳の少年に、それはあまりにも過酷な過去だったからだ――
「俺の『Level1 Download』で再現できれば、ミリーを探す少しの手掛かりにはなるかもしれない――」
真一は目を閉じながら適当に手を振ってみる。
「無理だって。そもそも覚醒型の能力は真ちゃんの能力もそうだけど他人に説明できないものが多いんだよ。能力の発現を実際に見て、説明をきちんと聞いてやっと真似ができる真ちゃんの能力で、再現できるわけがないわ」
聖がそういう。能力に関しては真一より長く付き合ってる彼女の忠告は誰が聞いても当たり前だと思われていた―――――
「―――――!?」
桂花はビックリして両手を口に当てる!
「……何? あれ……?」
少し離れたところで手を振っていた真一の側に空間の裂け目のようなものがあるのに気付いたのだ。
「…………本物の、超常現象…………?」
真一も聖もその空間の裂け目のようなものには気がついていないようだ。2人には、それは死角になっていた。
「まったく、そろそろ部活に行くか」
「……吹奏楽部だったっけ? なんでそこに入ったの?」
「あまりにレベルが高くなかったからな」
そう言って真一は校舎の方へ歩いて行く。
「さすが世界的な音楽家神城菫の息子さん」
ちなみに、そのしばらく後、媛崎中学校の吹奏楽部が黄金期を迎えるのは別の話である。
桂花は2人が立ち去った後、急いでその空間の裂け目に駆け寄る。
急がないと消えてしまいそうな気がしたからだ。
「これは、一体……」
手を入れていいのか? のぞけばいいのか? どうすればいいのか?
恐怖と好奇心が桂花の中でせめぎ合っていた。
―――――と……………
「あなたは、どなたですか?」
その中から、謎の声が聞こえる――
「――ゴクッ……」
桂花の中で恐怖より好奇心が勝利する…………
現れたは三毛猫のヌイグルミみたいな生物だった――――
「私はグレン・ナジャ――魔法世界ワーボワールがやってきたものです」




