A版その5-4
『というわけだ。全校生徒のほとんどが仮面に操られている』
「……」
辰羅は、マジュ・リッツとブラック・モノボルに向き直る。
「ど~いう事だ?」
『ワガマリョクニヨルモノダ』
ブラック・モノボルが言う。
『ジュウマセキカサレ、ワガイシキナキジョウキョウニオイテモワガホンノウノチカラニテウゴク! スバラシキコトダ』
怒りの表情だったブラック・モノボルの仮面が満足そうに笑う。
「フン! お前は獣魔石の中でも特別製だからな。ただ、魔力を供給するだけのただの魔石ではなく、うまく使えばお前の本来の力を解放できる――まさに、素晴らしい魔石だった」
マジュ・リッツがそう言う。
『ダカラトイッテ、ワレヲアノヨウナチイサキイシニフウジタコト、ユルサレルトオモウナワーボワール!!』
ガイノイドである鈴鹿珊瑚に抑えられているため、動けないブラック・モノボルだ……その仮面の鋭い目が、マジュ・リッツを睨み付けている。
「いい加減にしろよ! 大勢の人間を巻き込みやがって! なんでそんなことをしやがる!」
辰羅がブラック・モノボルに詰め寄る! 周りにいるクラスメイト達も怒りの表情でブラック・モノボルとマジュ・リッツを見つめる……!
「大勢の人間を操るなんて……一体なぜ、そのようなことをするの?」
瑠璃が、絞り出すようにそういった。
『ナンノタメ? キマッテイルジャナイカ……ジュフンノタメダ』
「「「は?」」」
1年A組の人間全員が、その意味がわからず呆然とする。
ジュフン――受粉――植物が種子を残すためにする活動。
『ナンダ? コノセカイノショクブツハ、ジュフンヲシナイノカ?』
ブラック・モノボルが意外そうに言う。
「いや、受粉は小学校の理科で習ったけど……」
「確か、だよね……」
「ああ、小学校の理科で……」
「おしべとめしべが……」
ごく普通に、周りの生徒達が言いあう。
「この世界の植物だって、種を作るためには虫を使って受粉を行う。それが、異世界の魔法植物のお前も同じだとは」
『……ミライニミズカラノタネヲノコス。ソレハショクブツノミナラズ、スベテノセイメイニトッテキョウツウノコトダトオモウガ?』
ブラック・モノボルが不思議そうにそういった。
「つまり、この人間を操る仮面というものは、お前の”花”みたいなものか……。趣味の悪い花だな」
そう言って、床に落ちていた仮面を拾いあげる辰羅。
『ソノカメンニハオトコノメントオンナノメンガアッテナ……トリツイタセイブツノマホウリョクヲキュウシュウシ、カメンガセイジュクスルト、オトコノメントオンナノメンガヒトツニナリ、ワレブラック・モノボルノシュシガウマレルノダ』
「だ、そうですよ浅科先輩」
律儀にも、ブラック・モノボルの説明を電話で星羽に伝える辰羅。
「ちょっと待て。じゃあなんで今、仮面にされた連中が別の人間の胸元につけられているんだ?」
星羽は、双眼鏡で仮面に操られた生徒達一人一人を見ながらそう言った。
仮面に体を乗っ取られた生徒達の胸元に付いている仮面は、誰一人同じ物では無い。だいたい男の胸元には女の仮面が、女の胸元には男の仮面がつけられている。
「もしかして、そいつの言う受粉と、何か関係があるのか?」
「男の仮面は女の胸元、女の仮面は男の胸元ね……なんか、お前って……結構スケベなのか?」
星羽からの情報をもとにブラック・モノボルを問いただす。
『ソレハタンニマリョクヲウバイヤスイカラダ。イシキヲカメンニウツシテモテイコウサレルコトガオオインデネ。ワガシュシタルカメンガコウリツヨクマリョクヲキュウシュウデキルヨウ、セイシンコウゾウノチガウダンジョノカラダニイシキヲウツシカエテヤルコトデ、ニクタイトセイシンヲシハイカニオク。オトコノメントオトコノニクタイガオンナノセイシンヲシハイカニオキ、オンナノメントオンナノニクタイガオトコノセイシンヲシハイスル。ソウスルコトデヤドヌシノマリョクヲコウリツヨクキュウシュウシ、ツヨイシュシガウマレル』
得意げにベラベラと説明するブラック・モノボル。こいつはこういうやつらしい。
「……で、お前の種子が生まれれば、仮面に操られている人間は元に戻るのか?」
『シュシガウマレレバシハイカラトキハナッテヤル。アトハダイチカラノヨウブントスイオブンデ、アラタナワガコガウマレルノヲマツダケサ!』
「だそうです、浅科先輩。種を後で回収するということで、種を生み出して早く生徒を解放しましょう」
「ちょっと待て! それって、入れ替わっている意識は元の肉体に戻るのか?」
『へ?』
辰羅からの情報は、そういった事を考えていないように聞こえる。
「その方法は、ただ単に仮面の支配から解き放たれると言うだけだろ? それで解決するならいいけどさぁ、もし仮面によって入れ替えられてる意識が戻らないんだったらやばいぞ!」
「う~ん……結構笑えないことになるわね」
星羽の横で話を聞いていた遼子もそういう。
「何か別に解決方法はないのか? いくら異世界からの魔法生物だと言っても、そんな被害を出すやつが放置されっぱなしな訳がない! 別の解決法があるはずだ!」
『どうなんだ! ブラック・モノボル!?』
電話の向こうで派手な音が聞こえる。辰羅や他のクラスメイト達がブラック・モノボルを脅しているのだろう――
「もういい、こいつ焼いちまおう……魅咲、火遁忍術を! あと、パトロキネシスや火炎能力者、皆きてくれ!」
辰羅の声に数名のクラスメイトがブラック・モノボルに近寄る。
『ククク……ドウシテモトイウノナラ、オシエテヤロウ……モトノイシキニモドスニハ、ムナモトノカメンヲヒキハナシソコニヤドルイシキノホンライノカラダノカオニカブセルノダ……ソウスレバシタノカラダニモトノイシキガモドル――』
A組に火炎能力者達の出す炎を見て、ブラック・モノボルがそう言ってくる。
『ダ、ダカラ……モヤスノハヤメテクレ――』




