はじまり
とある世界のとある王国で、どこかで見たことのあるような婚約破棄騒動が起きた。
王太子殿下が、聖なる魔法を使える桃色の髪の少女と出会い、恋に落ちる。 そして、婚約者である公爵令嬢に対し、学園の卒業パーティーの席で、桃色髪の少女をいじめた罪を突きつけた。
「真実の愛を邪魔した」として、彼女を断罪したのだ。
少女の周りを固めるのは、王太子殿下、宰相子息、騎士団長子息、公爵令嬢の義弟、王国一の豪商子息、そして国教の大司教子息。
その圧倒的な権力を前に、公爵令嬢がひとりで敵うはずもなく、無残に断罪されてしまった。
――しかし、これもまたよくある話。 断罪された公爵令嬢は転生者であり、とっておきの特殊スキルを持っていたのである。
* * *
「なにが、真実の愛じゃ! ぼけぇ――っ!!」
卒業パーティーが終わり、王都の公爵邸に戻った公爵令嬢アイリス・バレンタインは、ベッドの上で手足をバタバタさせながら子どものように叫んでいた。
前世の記憶――現代日本の記憶を取り戻したのは、学園に入学し、あの桃色頭と王太子殿下の邂逅を目撃した時だ。
「あれ? もしかして乙女ゲームの世界?」
そう思ったからこそ、最悪の結末を回避するための対策は徹底して行ってきた。 桃色頭には接触しない。会話もしない。話題にすら出さない。
それなのに、断罪理由のいじめが「無視」ってどういうことだ。
いやいや、公爵令嬢が平民にほいほい声をかけるわけがないし、話しかけられても無視するのが普通である。なんで王太子殿下が「平等」とか言い出しちゃってるの? ここは身分社会ですよ?
言い訳(反論)の余地ならいくらでもある。 妃教育のための王城での勉強、学園での成績維持、教会への福祉訪問、今後の権力基盤を維持するためのお茶会や夜会、諸外国の外交官との交流……。 分刻みのスケジュールのなかで、あの桃色頭に構っている暇なんて一ミリ秒たりともなかった。
それなのに「取り巻きに命じた」などという、公爵家の敵対派閥の女生徒が並べ立てた嘘八百が通ってしまった。
それを真に受ける王太子ってなんなの?
現状把握も、勢力把握もできていないの?
こっちの妃教育はスパルタだったのに、あっちの帝王学はどうなってるんだ。教師全員クビにしろよ。
そもそも、前世の記憶がない時点でも、私は王太子殿下にこれっぽっちも恋慕なんて抱いていなかった。
完全な政略結婚と割り切っていたし、努力もすべて王国のために捧げていたのだ。記憶を思い出してからもそれは同じで、ただの「責務」としてしか感じていなかった。
王家からの断れない縁談、公爵家としての忠誠、貴族の責務、高貴なる者の定め。 ――貴族の契約は絶対。
そんな教育を叩き込まれてきたというのに、公爵邸に戻れば、お父様もお母様も「公爵家の恥」と私を切り捨てた。
これが「高貴な者」のすることか? 身勝手な恋愛をして、それを正当化するために真実を捻じ曲げ、それを盲目的に認めてしまう貴族の、いったいどこが高貴なのか。 盲従ここに極まれり。ただの独裁政権じゃないか!
「……ばかばかしい」
怒りに任せていた思考が、急速に冷えていく。
現代日本の記憶がある以上、私の貴族に対する価値観はそれほど高くない。
公爵令嬢としての責務は理解できるが、それはその立場がリスペクトされている場合の話だ。
その重責を担う契約を理不尽に破ったのはあちら側。責任はすべて王家と、私を見捨てた実家にある。
そうなると、もう私が公爵令嬢の座に固執する理由なんてあるだろうか?
両親は娘を見捨てた。当主である父の決定に逆らう者はこの家にはいない。
きっと私は、田舎の一族の男に適当に宛てがわれ、子供だけを取り上げられることになるのだろう。
義弟では血が薄いのだ。 本来の契約では、義弟が公爵家の仮の当主となり、王太子と私との間に生まれた「第二子」が次期当主となるはずだった。つまり私は今後、公爵家の血を繋ぐため「子供を産むだけの道具」として生かされることになる。
本当に、ばかばかしい。
自分を裏切った者たちのために、さらに身を捧げるのが当然だとでも思っているのだろうか。 つくづく、貴族の思考とは傲慢だ。現代日本の感覚からすれば反吐が出る。
「……準備を始めよう」
公爵令嬢アイリス・バレンタインではなく、一人の間の女性、アイリスとしての準備を。
おそらく私は、ほとぼりが冷めるまで領地に送られるはずだ。 まずはそこで、ただのアイリスとして生き抜くための基盤を作ろう。
――だけど、彼らをこのまま許すつもりは毛頭ない。
呪ってやる。 私の人生をめちゃくちゃにした代償を。 私の努力を無駄にした報いを。
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作者が基本的な文章や設定を執筆し、GemminiAIにて、校正・編集をしてもらい、作者が再読し修正をおこなったものを投稿しています。




