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第84話 太陽の神託と伊勢への急行

 ――これは、今から数年前。

 一之瀬ヒロたちがヴァイスラントから帰還した直後の話である。


 大陸の西方、深い山々に囲まれた宗教都市。

 その中心にそびえる教会総本山の最深部、「太陽の間」。


「……申し上げます、教皇聖下」


 豪奢な法衣を纏った老人が、跪く枢機卿を見下ろしていた。

 彼こそが、世界中に数億の信徒を持つ教会の頂点、教皇である。


「ヴァイスラントの聖女騎士団は……壊滅いたしました。

 原因は、日本から来た『悪魔』……一之瀬ヒロによるものと断定されます」


「ええい、またその名か!」


 教皇は手にした錫杖しゃくじょうを床に叩きつけた。


「たかが極東の島国の、一介の子供に!

 我らが神聖な威光が泥を塗られるなど、あってはならんことだ!」


 教皇の怒りは頂点に達していた。

 このままでは信仰が揺らぐ。悪魔を滅ぼし、神の力を示さねばならない。

 だが、通常の戦力ではあの規格外の少年に勝てないことは明白だった。


「神よ……偉大なる太陽神ヘリオスよ!

 我らに、悪魔を焼き尽くす最強の光をお与えください!」


 教皇は祭壇の前に進み出た。

 そこには、盲目の最高位聖女が祈りを捧げていた。


「聖女よ、神の声を聞け! 我らはどうすればよい!?」


 教皇の悲痛な叫びに応えるように、聖女の身体がビクリと震えた。

 彼女の口から、人ならざる重厚な声が響く。


『……光は、あまねく世界を照らす』


「おお……ヘリオス様!」


『西の太陽も、東の太陽も、根源は一つ。

 日出ずる国にて信仰されし女神……「アマテラス」。

 それもまた、我が光の側面かおの一つなり』


 その言葉を聞いた瞬間、教皇の脳裏に電撃が走った。


「な、なんと……!

 日本の土着神だと思っていたアマテラスもまた、ヘリオス様ご自身であると!?」


『光は一つ。全ては我なり』


 神託が途絶え、聖女はその場に崩れ落ちた。

 静寂が戻った広間で、教皇は震える肩を抑え――やがて、狂ったような笑い声を上げた。


「クックックッ……ハハハハハ!!

 そうか、そうであったか!」


 教皇は東の空を睨みつけた。


「悪魔の住処である日本にも、我らが神の力が眠っているということだ!

 ならば話は早い!

 わざわざ軍隊を送る必要などない。

 現地のアマテラスを降臨させ、その神威をもって悪魔を国ごと浄化すればよいのだ!」


 狂信の炎が、教皇の瞳に宿っていた。

 神の威光のためならば、他国の聖地を土足で踏み荒らすことになろうとも、彼らにとっては正義なのだから。


◇◇◇


 そして、現在。

 カイトの研究室。


「……という情報が、我々のスパイ網から上がってきましたの」


 電話の向こうで、薬師寺アリサ先輩は淡々と、しかし重苦しい口調で語った。


『奴らが向かっているのは三重県……「伊勢神宮」ですわ』


「伊勢神宮……? でも先輩、なんで伊勢なんです?」


 俺は首を傾げた。


「奴ら、西方でなんか神様を信仰してましたよね?

 それがなんで日本の神社に?

 ……もしかして、改心してお伊勢参りでもしに来たんですか? 赤福餅でも食べに?」


 俺のトボけた疑問に、アリサ先輩が答えるよりも早く。


 ――ズンッ!!


 俺の背後の空間が、さっき以上の圧力で膨張した。


『この大たわけがぁぁぁッ!!』


 イカヅチの怒号が脳内に響き渡る。

 もう我慢の限界らしい。俺は溜息をついて、空間の檻を開いた。


「はいはい、どうぞ」


 バチバチッ!

 黄金の稲妻と共に、威厳ある狼の姿をしたイカヅチが現れた。

 彼は呆れ果てた顔で鼻を鳴らし、俺たちを見回した。


『全く、人間というのは察しが悪いのう。

 平和ボケも大概にせよ、ヒロよ』


「だって分かんないよ。神様の種類とか興味ないし」


『よいか? 以前、「八雷神やくさいかづち」と戦った時のことを思い出せ。

 あの時、我は言ったはずだ。

 雷神といっても、国や土地によって呼び名が違うだけだと』


「うん、言ってたね」


『神とは、信仰によって形作られる概念だ。

 だがその根源となるエネルギーは一つ。

 空に浮かぶ太陽はいくつある? ヒロよ』


「一つだね」


『そうだ。西の国でヘリオスと呼ばれようが、この国でアマテラスと呼ばれようが、指し示している「モノ」は同じなのだよ』


「あ……」


 言われてみれば、当たり前のことだ。

 太陽は一つしかない。それをどの文化圏から見るかの違いでしかない。


『奴らはそれに気づいたのだ。

 自分たちのヘリオスを呼ぶには距離が遠すぎる。

 だが、この国の端末アマテラスにアクセスすれば、同じ「太陽の力」を引き出せるとな』


「なるほど……。

 サーバーは同じで、ログインする入り口が違うだけってことか」


 お兄ちゃんが科学的な例えで納得した。


「でも、それってめちゃくちゃ危険なんじゃ……。

 日本の神様を、勝手に外部からハッキングするようなもんでしょ?」


「ええ。日本の結界が崩壊するわ」


 エレノア先生が青ざめた顔で言った。

 伊勢神宮は、日本で最も強力な霊脈の要だ。そこで神降ろしなんて行われたら、日本中が大惨事になる。


「止めなきゃいけませんね」


 俺は立ち上がった。


「先輩。移動手段はありますか?

 あと、伊勢神宮は観光客でいっぱいです。一般人を巻き込みたくない」


『愚問ですわね、ヒロ様』


 電話の向こうで、アリサ先輩が不敵に笑う気配がした。


『移動手段はすでに手配済みです。学園のヘリポートへ向かってください。

 薬師寺グループ所有の最速のプライベートジェットが待機していますわ』


 さらに、キーボードを叩く音が聞こえる。


『それと一般人の避難ですが……お任せください。

 「大規模なガス漏れ」あるいは「テロ予告」……いえ、ここは穏便に「映画の撮影」という名目で、地元の警察と連携して封鎖させます。

 多少強引ですが、薬師寺グループの政治力とお金があればどうとでもなりますわ』


「す、すごい……」


 製薬会社ってそこまで出来るのか。

 頼もしすぎるパトロンだ。


『私も現地で合流します!

 さあ、急ぎましょう! 悪党どもに目に物見せてやりますのよ!』


 通話を切ると、俺はお兄ちゃんと先生を見た。


「行くぞ。修学旅行にはまだ早いけど、伊勢参りだ」


「ああ、乗りかかった船だ。最後まで付き合うさ」

「私の生徒がまた世界を救うのかしら? 評価表に書ききれないわね」


『フン、今度こそ我の出番であろうな!』


 頼もしい仲間たちと共に、俺たちは研究室を飛び出した。

 決戦の地は、神々の坐す聖地――伊勢。

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