第6話 七歳の毎日
僕は七歳になった。
お兄ちゃんは、もう魔法学校の寮に入ってしまった。
家の中が、ちょっとだけ静かになった気がする。
朝起きても、お兄ちゃんの声はしない。
庭に出ても、火の玉が飛んでくることもない。
寂しいけど……
でも、お兄ちゃんは「ヒロなら大丈夫だよ」って笑っていた。
だから僕も、頑張ろうと思った。
寮に行く前の日、お兄ちゃんは僕に一冊の本をくれた。
「これ、受験勉強で使った教本。
ヒロにはまだ難しいと思うけど……いつか役に立つよ」
「ありがとう!」
でも、ページを開いてみたら――。
「……なんて読むの、これ?」
知らない漢字ばっかりだった。
その日から、お父さんとお母さんが
毎晩、少しずつ読み聞かせてくれるようになった。
魔法の歴史とか、魔力の流れとか、
難しい話ばっかりだけど、
なんとなくワクワクした。
お兄ちゃんと練習した火魔法の詠唱は、
今でも毎日やっている。
「ともれ、あたたかなひよ。
ひのせいれいよ、わがねがいにこたえ、
ちいさきほのおをここにしめせ。」
ぽっ。
小さな火が、ちゃんと灯るようになった。
赤い光の子が、
僕の肩の上で誇らしげに揺れていた。
ある日、お父さんが言った。
「ヒロ、水魔法もやってみるか?
読み方だけ教えてやるよ」
「やってみたい!」
水魔法の初級詠唱は、火より少し長かった。
「集え、澄みし水よ。
水の精霊よ、我が願いに応え、
小さき雫をここに示せ。」
「手のひらの前に、小さな水の玉を作るイメージだ」
「うん!」
僕は手を前に突き出して、詠唱を唱えた。
「つどえ、すみしみずよ。
みずのせいれいよ、わがねがいにこたえ、
ちいさきしずくをここにしめせ。」
ぽたり。
最初は、手のひらの前に小さな水の玉ができた。
でも――。
「……あれ?」
水玉が、じわ……っと大きくなり始めた。
「ちょ、ちょっと!?
お父さん止まらないよ!!
どんどん大きくなっちゃう!!」
「ヒロ!? 魔力切れになる前に止めろ!!」
「止めたいけど止まらないよーー!!」
青い光の子が、
「もっともっと!」
と言わんばかりに水玉のまわりを跳ね回っている。
水玉は僕の顔より大きくなり、
胸より大きくなり、
ついには――。
僕の体より大きな水の玉になった。
「お、おっきすぎるよーー!!」
そして。
――ぼとん。
巨大な水玉が庭に落ちて、
庭は一瞬で水浸しになった。
「……ヒロ、これは……」
「ごめんなさい……」
「いや、謝らなくていい。
ただ……お前の魔法、やっぱり普通じゃないな……」
青い光の子は、
「やったよ!」とでも言いたげに跳ねていた。
それから何度も練習して、
ようやく“手のひらサイズ”の水玉が作れるようになった。
火の魔法も、水の魔法も、
詠唱ならちゃんと発動できる。
お兄ちゃんが帰ってくる冬休みまでに、
僕は二つの魔法を“普通に使える”ようになっていた。
ある日、ふと思った。
「火の魔法は、時間が経つと消えるのに……
水の魔法で作った水は、残るんだよなぁ」
床は濡れたままだし、
コップに入れたら飲める。
でも火は、
魔法で作った火は、
しばらくするとふっと消えてしまう。
「なんでだろ……?」
僕が首をかしげると、
光の子たちがくるくる回っていた。
でも、僕にはまだ分からなかった。
いつか分かる日が来るのかな。




