第4話 回想Ⅰ 六歳の魔法(前編)
僕は六歳になった。お兄ちゃんと同じ庭で遊べる、最後の年だった。
お兄ちゃんは都会の魔法学校を受験するらしい。
お父さんとお母さんは「カイトなら大丈夫だよ」って言ってるけど、
お兄ちゃんは実技は楽勝でも、筆記が難しいって言ってた。
魔法って、勉強しないといけないんだ。
なんかよくわかんないけど、難しいらしい。
僕はなんとなく、来年になったら
お兄ちゃんと一緒に遊べなくなる気がしていた。
だから、今のうちにたくさん一緒にいたかった。
「ヒロ、こっち来て。魔法の練習してみない? とりあえず火魔法とか」
庭からお兄ちゃんが呼んだ。
僕は走っていく。
「俺は感覚でやってるから説明が下手なんだけどさ……
本来、魔法って“原理原則”が分かってると発動しやすいんだって」
お兄ちゃんの手のひらに、小さな火の玉が生まれた。
何度見ても綺麗で、すごい。
「原理原則ってなに?」
「火って熱いだろ?
燃えるものにエネルギーが揃うと“燃焼”って現象が起きるんだってさ」
受験勉強で覚えた知識らしい。
でも僕にはよくわからなかった。
「うん、火が熱いのはわかるけど……」
「じゃあ、魔力をどんどん熱くして、
“燃える”イメージを強く持って……このろうそくに火をつけてみよう」
お兄ちゃんは一本のろうそくを持ってきた。
「うーん……あつくなれー、あつくなれー……」
数分が経つ。
火はつかない。
でも――。
「お兄ちゃん? なんかろうそく溶けてるよ?」
芯に火はないのに、蝋だけが静かに垂れていた。
「あー……なるほど、そうなるのか。惜しいな。
意外と火を“つける”って難しいんだな」
お兄ちゃんは目の前の現象をメモしている。
受験生って大変だ。
「そうだ! それならさ、お兄ちゃんの火を使ってもいい?」
自分で火を起こすのが難しいなら、
最初からある火を使えばいい。
そう思った。
「俺が火をつけたら意味ないだろ?」
「そうじゃなくて……
お兄ちゃんの手のひらの火を、僕がろうそくに移動させるんだよ!」
リモコンを動かすのと同じ。
火だって“場所”があるなら動かせるはずだ。
「……なるほど。面白いな。やってみろ」
お兄ちゃんは小さめの火の玉を出した。
ごくりとツバを飲む。
いつも通り、いつも通り。
そっと火の玉を浮かせて、
ろうそくの先端に近づける。
――ボッ。
「やった! できたよ! 火をつけれた!」
「すごいなヒロ! お前天才だよ!」
思いつきの魔法がうまくいって、
僕たちはキャッキャと盛り上がった。
夕方になると、お兄ちゃんは机に向かって勉強を始めた。
魔法学校の問題集。
難しそうな文字がいっぱい並んでいる。
「お兄ちゃん、べんきょ?」
「うん。来年、受験だからね」
「そっか……」
胸が少しだけキュッとした。
ちょっと遠くに行ってしまうような気がした。
「また魔法の練習しような。
いつか自分で火魔法を使えるようになろうぜ」
「……うん!」
その言葉だけで、
僕はまた明日が楽しみになった。




