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第160話 召喚空間の怪獣大決戦

 レッドウッドの森での修行の日々。

 午前中は、大霊木の下で『微精霊』たちとの地道な対話に時間を費やしている。

 相変わらず彼らの放つ温かな感情の波はなんとなく伝わってくるが、亀じいのように明確な言葉として会話ができるレベルにはまだまだ程遠く、こちらはかなり時間がかかりそうだった。


 そして午後からは、俺の本来の属性である『フェニックスの再生力』の修行だ。

 ガーライル先生の熱血指導のもと、他者の怪我を治す『再生魔法』の特訓が始まったのだが……ここで一つ、大きな問題に直面していた。


「……なぁ。回復魔法の練習ってことは、当然『怪我人』が必要になるわけだよな?」

『うむ、当然じゃな。さあ、誰の傷を癒やしてみせる?』


 ガーライルがふんぞり返るが、俺は頭を抱えた。


「俺は痛いのが嫌だから、自分を傷つけて再生の練習をするのはパスだ。そもそも、右腕が吹き飛んだ時に発動することは実証済みだし」

『うむ……。ならば他の精霊を治すがよい』

「いや、精霊たちだって普段は神々と小競り合いをしてるわけでもないし、召喚空間でのんびり平和な日々を過ごしてるんだぞ。好き好んで怪我したい奴なんて、いるわけないだろ……」


 俺がため息をついた、その時だった。


『あら。いくらでもいますわよ?』


 召喚空間から古くからパス繋いでいる、フレアのクスクスと笑う声が響いた。

 それに呼応するように、空間の奥底から、地響きのような野太い歓声が湧き上がる。


『王よ!! ならば我らが、召喚空間の深部で全力で暴れてきてもよいか!!』

『最近は平和すぎて、体が鈍っておったところだ! 心置きなく乱闘できるとは、最高の修行ではないか!』


 血気盛んな雷獣イカヅチ火竜ヴァルザードをはじめとする、戦闘狂の精霊たちが嬉々として召喚空間での戦闘許可を求めてきたのだ。


「お前ら……。まぁ、空間の果ての方でやるなら、たぶん問題ないとは思うけど……」


 俺はふと、召喚空間の真ん中あたりに無防備に配置されている、俺の私物エリアを思い浮かべた。

 実家から持ってきたお気に入りのソファ、でっかいテレビ、ゲーム機、そして薬師寺先輩から献上された、快適なベッドやその他家具。虚空には、俺たちの大事な家具がむき出しで置かれているのだ。


「絶対に、俺の大事な家具とかテレビとか壊さないでね? あっちの方には魔法を飛ばすなよ?」

『ガッハッハ! 遠くでやるから安心しろ、王よ!』

「まぁ、本当に壊すなよ? ダチョウ倶楽部的な『フリ』じゃねーからな!?」


 俺の切実な念押しと共に、召喚空間の奥深くで、凄まじい雷鳴と爆炎が上がり始めた。


          ◇


 数十分後。

「(……家具は無事だった。よかった……)」


 俺が胸を撫で下ろしていると、ドスッ、ズズゥン……と重い足音を立てて、二体の巨大な精霊が帰還してきた。

 イカヅチの美しい黄金の毛皮はところどころ焦げちぎれ、ヴァルザードの強靭な赤鱗もベリベリと剥がれ落ち、見事なまでに満身創痍のボロッボロ状態である。


『ひぇっ……!』

『ガ、ガッハッハ! 少しやりすぎたわ!』


 あまりの痛々しさにドン引きする俺の前で、ガーライルが満足げに頷いた。


『おお! よかったな、最高の検体ができたではないか! さあ、早く治してやれ!』

「他人の、それも『精霊』の修復なんて初めてだぞ!?」

『案ずるな! 精神体の再生ができれば、実体の再生など容易いことよ。……だが気をつけろ。こやつら自身の自然治癒力も強力ゆえ、お前がもたもたしていると勝手に治ってしまうぞ。速く再生しろ!』

「治るならいいじゃん!」

『それでは修行にならん!!』


 無茶苦茶なスパルタ指導である。

 俺は慌てて銀杖を構え、ボロボロのイカヅチの前に立った。


『よいか、再生は、お前の『熱』を譲渡する感覚じゃ。そして、元の美しい姿へと戻る過程を、頭の中で強く想像しろ!』

「熱の譲渡……魔法はイメージ。やっぱりここでもそうなんだな」


 俺は深く息を吐き、イカヅチの欠損した部分に銀杖を向けた。

 俺の魂の奥底で燃える、フェニックスの魔力。それを温かな熱に変換し、イカヅチの体へと流し込む。

 黄金の毛並みが、本来の輝きを取り戻していく姿を強く思い描く。


「……再生しろっ!!」


 ポワァァッ……と。

 俺の杖の先から、優しく温かい、オレンジ色の『再生の炎』が灯った。

 その炎がイカヅチの傷口を包み込むと、焦げた毛皮がみるみるうちに元通りに修復されていく。


『おおっ……!』


 イカヅチが、ブルッと体を震わせた。


『なんだか傷口がムズムズして……こそばゆいな!』

「文句言うな! こっちは必死なんだよ!」


          ◇


 それからというもの。

『今日は我の番だぞ!』『いや、アタシが先よ!』と、毎日毎日、召喚空間で全力の喧嘩を楽しんでボロッボロになった精霊たちが、日替わりで俺の元へ運ばれてくるようになった。


 そして、およそ二ヶ月が経つ頃。

 俺は、破れた翼の皮膜や、剥がれた鱗などのちょっとした損傷くらいなら、こそばゆい再生の炎でスムーズに修復できるようになっていた。


『ふむ……』


 この日の乱闘で翼に穴を開けてきたイカヅチが、俺の炎で綺麗に治った自分の羽を確認し、ニカッと笑った。


『相変わらずこそばゆいし、遅いが……まぁ、随分と良くなってきたではないか!』


 バッフ、バッフ! と。

 イカヅチが、まるでご主人様に褒められた犬のように、嬉しそうに巨大な尻尾をブンブンと振り回している。


『これからも、その修行に付き合ってやるから、楽しみにしていろ!』

「お前らが全力で暴れたいだけだろ!(笑)」


 俺はツンデレな雷獣に盛大なツッコミを入れつつ、額の汗を拭った。

 再生魔法のコツは、完全に掴んだ。

 ゆかいな仲間たちに支えられながら、精霊王としての俺の力は、また一つ確かな成長を遂げていた。

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