32. 聖女
「オーウェンさん……」
俺を見つけたファーレンが声をかけてきた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと話がありまして」
校舎を出た先で女子に声をかけられ、話があると言われた。
つまり、これは……告白かな?
告白だよな?
うん、違うだろうな。
「とりあえず、座って話そっか」
近くに空いている3人がけの椅子を見つけると、そこに座り込む。
ファーレンも俺に続いて座った。
「話ってなに?」
「オーウェンさんにどうしても謝りたくて。その……ごめんなさい」
ファーレンは俺の方を向いて、頭を下げる。
ハイオークの戦いでのことだろうな。
許す、と一言で片付けてもいいけど、ファーレンはそういう言葉を望んでないように思える。
「なんで、あのとき戻ってきた?」
どう考えても戻ってくるのは悪手だった。
ていうか、あんな化け物がいるのに、よく戻ってこれたな。
前世のゲームで見たことのあるハイオークは、ただの豚で雑魚キャラだったが、実際は恐ろしい化け物だった。
あれ?
そんなハイオークと戦った俺って何気にすごくない?
「オーウェンさんが心配で……。あなたを一人で戦わせることなんて、できませんでした」
ファーレンは顔を上げて応えた。
「俺は逃げろと言ったはずだけど」
治療してくれたことには感謝している。
だけど、ファーレンが来なければ、ハイオークに殺されかけることもなかった……気がする。
「ごめんなさい……。私は……私が間違っていたのでしょうか……?」
ファーレンが正義感の強い子だってことはわかっている。
でも、わざわざ来てほしくなかったな。
俺はそう思っている。
そういう意味で言えば、ファーレンの行動は間違っていたけど、
「間違いってなんだ……?」
「それは……正しくないことです」
「そりゃ、そうだ。で、具体的には?」
「人を不幸にすることや、人を傷つけること……だと思っています。私のせいで、オーウェンさんを傷つけてしまいました」
.
別にファーレンに傷つけられたわけでもないし、今回の一番の原因はドミニクだ。
だから、そこまで気に病むことではない。
まあ、ここは年上としてアドバイスぐらいはしておくか。
「じゃあ、次は傷つけないようにどうすればいいか、考えればいいんじゃないか」
今回が駄目だったら次に活かせばいい。
ただそれだけのことだ。
「誰かを救いたいってのは間違いなんですか? 私にはそれがわかりません」
いや、俺にだってわからんよ。
そんな救うとか救わないってのを真剣に考えてこなかったし、平和な日本ではこういう事態に陥ることはなかった。
.
「救いたいってのは間違いかはわからん。でも、人を救うにしても、方法は他にもあったと思う」
「でも、オーウェンさんは一人で戦っていました。私一人逃げることはできなくて……」
いや、俺だって逃げるつもりでいたよ?
飛行魔法が使えないって知っていたら、殿なんて務めなかった。
だから、ファーレンが考えているような、自己犠牲精神は全くない。
「聖女って、みんなそうなのか? 博愛主義ってのも大変だな」
もっと楽しいことしよーぜ。
頭の中、お花畑にしてさ。
パッパラパーって。
ファーレンがそういうタイプでないのは知っているけど。
「私は人々の模範とならなければなりません」
「それは何のために?」
「私が私の理想であるためです」
彼女の瞳から、今までに見たことないほど決然とした意思が感じられた。
しかし同時に、彼女から危うさを感じた。
「もう少し肩の力を抜いていいんじゃないか?」
「肩の力を……ですか?」
「その生き方って疲れるだろ。ていうか、見てるこっちが疲れるんだよ」
「……そんなこと言われましても」
「理想を持つことは否定しない。でも、その理想によって生きづらくなっている気がする」
「そんなことありません! 私は理想のためなら、自分がどうなろうが構いません!」
ファーレンは力強くいい切った。
一本の筋が通った人は素晴らしい。
だが、その筋が切れたときに立ち上がれなくなるんじゃないか、と考えてしまう。
前世でも、強い信念を持っていた友人が、あるときポッキリと何かが折れたように、やる気を無くしたのを見たことがある。
それと、ファーレンが重なってしまう。
「そ、そうか。まあでも、あんまり深くは考えるなよ。悩んだら誰かに相談しろよ」
「私には相談できる相手がおりません」
「それなら俺に相談すればいい。俺ぐらいだったらいつでも相談に乗るぞ」
一応、俺の方が前世を含めると年上だし、軽いアドバイスならできる。
「はい……。そのときはお願いします」
ファーレンは少し迷ったような素振りを見せてから言った。
「おう。任せとけ」
いくらでも相談に乗るぞ。
恋愛だけは無理だがな。
なぜなら、俺は前世含め一度もモテた経験がないからな!




