27. 哀れなゴブリン
森に足を踏み入れると、新鮮な空気を肺いっぱいに入れた。
ふう、森って気持ちいいな。
これがマイナスイオンか!
心が洗われるぜ。
別に病んでないけどな!
森は木漏れ日が入り込み、木や草花が伸び伸びと育っている。
ドミニクを先頭に森の中を歩いているときだ。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
人型の魔物が現れた。
1メートルほどの背丈に皺くちゃな顔。
全体的に薄汚れており、緑の肌をしている小鬼―――ゴブリンだ。
「ぎぃ」
「ぎゃぎゃ」
そして、反対の木から2体現れ、合計3体のゴブリンが俺たちの前に出てきた。
お、魔物退治か!
やるぞ!
と、戦闘態勢に入ろうとした瞬間だ。
「炎弾!」
ゴブリンが燃え盛る。
黒焦げのゴブリンって美味しいのかな?
と、そんなしょうもないことを考えた。
実際は、倒された魔物は魔瘴石になり、食べることはできないが。
「貫け、風の刃!」
エミリアの魔法により、ゴブリンが切り刻まれる。
「聖なる槍よ、ゴブリンを貫け!」
ファーレンの投擲した槍がゴブリンを胸を貫いた。
3体のゴブリンはあっという間に倒された。
このグループ強くない?
なんだかんだ言って、ドミニクは強い。
俺との模擬戦ではすぐに負けたものの、1年生の中では高い実力を誇っている。
ふははは、俺が強過ぎたのだ。
強いって罪なものだな。
……冗談だ。
「俺、出番なくね?」
なんか、同じようなことを最近経験したような……。
ヒーローはピンチになったときに出ればいいのさ。
倒されたゴブリンたちは灰となって消え、残ったのは小さな透明の魔石のみ。
「はっはっは。この雑魚どもめ!」
ドミニクはいつもに増して楽しそうだ。
何かストレスを発散しているようにも見える。
その後も、大して強い魔物は出てこず、俺たちは魔物を倒しながら森の中を進んでいく。
湖までの道は簡単で、特に迷うことはない。
なぜなら、湖までのコースは既に多くの人が行き来しており、それによって人が歩きやすい道ができている。
そうしてしばらく歩くと、湖に到着した。
「……綺麗ですね」
ファーレンがポツリと呟く。
晴天の空や木々を映し出した湖は、確かに綺麗だった。
「ここの水を取ってくれば完了ね」
エミリアは淡々と水を汲む。
この子冷めてるよなぁ。
もうちょっとこの光景に感動しても良い気がする。
日本だったら観光スポットになるくらい綺麗な湖だ。
エミリアが、渡された水筒に水を入れ終える。
この湖は、多少の魔力を帯びている。
水筒の中に入っているリトマス紙のような紙が湖の魔力に反応して、薄い青色に変化する。
もし、不正を働いて水魔法で水筒を満タンにしても、色の変化が違うため、湖の水でないことがバレるという仕組みだ。
「よし、あとは戻るだけね」
エミリアが水筒の蓋を締めた、そのときだ。
「ドミニクさん! どこ行くのですか!」
ファーレンが叫んだ先に、いつの間にか、湖を超えて背中を向けているドミニクがいた。
「森の奥だ!」
おいおい、クリス先生が森の奥は危ないと言っていただろ。
強い魔物が出たらどうするんだよ。
何かあったら遅いんだ。
「はっ、何いってんの!?」
エミリアが呆れながら言った。
「俺はもっと奥までいく! こんなところで帰るつもりはない!」
家に帰りたくない思春期か?
それとも家出少年か?
自分のことしか考えられないやつめ。
「これより奥は危ないって! 先生も湖のところまでって言ってたでしょ!」
「そうだぞ、ドミニク! 目的は果たしたんだ!」
「なんで、お前らなんかに指図されんといかんのだ! 強い魔物が出てくる? 好都合じゃないか。そんなの倒してやる!」
「仮にもリーダーだろ! それなら責任ある行動をしろ!」
「そうだ! 俺がリーダーなんだ! だから指図するな!」
ダメだ。
会話が全く成り立たない。
意思疎通が全くできない。
「それが勝手だと言ってんだよ! もう少し、他のやつのことを考えろよ」
「黙れ! 俺は俺のしたいようにする!」
ドミニクはそう言って、森の奥へ走り出した。
俺はそれを見送りながら「くそっ」と悪態をついた。
「どう……しますか?」
「どうするもこうするも、行くしかないでしょ」
「そうですね。急ぎましょう」
エミリアの言葉にファーレンが頷く。
「オーウェンさんはどうしますか?」
「行くよ。行ってあの馬鹿を殴ってでも連れ戻す」
すぐに、俺たち3人もドミニクを追って、湖を超えて森の奥の方へ進んだ。
ドミニクの足跡を頼りに森の奥へと入っていく。
不思議なことに、湖を過ぎたあたりから魔物が全く出なくなった。
森が静寂に包まえており、俺は嫌な予感を覚えた。
「なあ、クリス先生を呼ばないか?」
「どうやって……? 黒玉はドミニクが持っているのよ」
エミリアが走りながら応えた。
そう言えば、そうだった。
今更ながら、あいつをリーダーにしたことを激しく後悔する。
「やっぱり、あいつをリーダーにするんじゃなかったな」
「今言っても仕方ないわ。それにドミニクの気持ち、少しはわかるかも」
エミリアの言葉に俺は首を傾げる。
「学園に来るまでは、周りの人にたくさん称賛されてきたのに。ここでは全然褒められないんだもん。それに嫌気がさして、周りを見返してやりたい。そう思っても不思議じゃないわ。さすがにドミニクの行動は行き過ぎてるし、私はあんな身勝手なことしないけどね」
井の中の蛙大海を知る、ってところか。
大きな海を知ってしまった蛙は、広い海で何を求めるのか?
「ドミニクは自分が一番になりたいのよ」
エミリアの言葉はよくわかる。
きっと、狭い世界であってもトップを味わってしまった蛙は、広い海でも一番を目指す。
「だからといって、勝手な行動は控えてほしい。迷惑だ」
「それにしてもあいつ、どこに行ったのよ」
と、エミリアが言ったときだ。
―――うわあああああああ!
森の奥で、ドミニクの叫び声が聞こえてきた。
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