20. 模擬戦
学園の敷地内にある訓練所を借りて、模擬戦を行うことになった。
ルールは簡単。
相手が降参するか、クリス先生が勝負ありと判断するか、だ。
俺はドミニクと向かい合って、試合の合図を待った。
「ふんっ。無能のお前がなぜ選ばれたのかはわからんが、勝つのは俺だ! 目に物見せてやる!」
「そういう強い言葉、あまり使わない方がいいよ」
ときに、自分が吐いた言葉によって、苦しめられることもあるからだ。
それは俺が良く知っている。
「うるせぇ! ぶっ殺してやる!」
「二人とも。言い争いは止めろ。文句があるなら、拳で語り合え」
クリス先生は少年誌のキャラのような、カッコイイセリフを吐く。
男らしいし、そういうセリフが本当に様になる。
「位置についたな」
彼女は俺とドミニクが距離を取って向かい合っているのを確認すると、
「では、はじめ!」
勝負開始を宣言した。
その声と同時に、ドミニクが、
「炎弾」
魔法を放ってきた。
俺は迫り来る炎弾に対して、右手を向けて迎撃の姿勢を取る。
「大火球……!」
火球は直径1メートルほどあり、炎弾を軽々と飲み込んで、ドミニクに襲いかかった。
「火の壁よ! 俺を守れ!」
ドミニクの作り出した壁によって、大火球を防がれた。
ドミニクは火魔法が得意だ。
そして、俺も火魔法が得意だ。
重力魔法も使えるが、あれは使い勝手が悪い。
特に、空を飛んでいるときは、重力魔法を使用しているせいで他の魔法が使えなくなる。
狙ってくださいと言っているようなものだからだ。
俺が持つ攻撃手段として、最も有用なのは火魔法になる。
火魔法使い同士の戦いか。
負けてられんな。
「本物の火魔法を見せてやる。―――イフリートよ、灼熱をもって、敵を殲滅せよ」
魔法とは想像だ。
俺が思い描いたのは、前世のとあるRPGに出てきたイフリートの化身。
体中に炎をまとわせ、鬼のような風貌の野獣だ。
イフリートが敵を殲滅する際に放つ魔法を想像した。
灼熱の炎がドミニクを襲う。
「な、な、なんだ、その威力は!?」
ドミニクが焦った雰囲気を出し、防御魔法も使おうとせず、慌てだした。
「凍てつけ!」
クリス先生が氷魔法を発動した。
氷はまるで意志を持っているかのように動き、炎に向かっていく。
―――ドゴオオォォン
氷と炎がぶつかり合い、音が爆発したように辺り一帯に広がった。
俺の放った炎は消え去り、高温で熱さられた氷が水蒸気となり、周囲に霧を作り出す。
さすが、【氷結の悪魔】と呼ばれるクリス先生だ。
いとも簡単に、俺の魔法を打ち消した。
そして、霧が晴れると、腰を抜かして座り込むドミニクがいた。
それを確認したクリス先生は右手を挙げ、
「勝者、オーウェン・ペッパー!」
と、叫び、模擬戦は終了した。
思ったよりも、あっけなく勝ったようだ。
「オーウェンが武闘会に参加することに対し、文句のあるやつは他にいるか? だったら今この場で勝負させてやる」
クリス先生は生徒を見渡した。
だが、それに対して、反応するものはいない。
みな、驚きで口を開けていた。
「では、オーウェンを武闘会参加者とする!」
こうして俺は武闘会に出場することになった。
■ ■ ■
「……オーウェン・ペッパーか」
クリスは先程の模擬戦を思い出し、ひとりごちる。
ペッパー家といえば落ち目という話であったが、すでにその情報は古い。
オーウェン・ペッパーの才能に気づいている者たちが一定数いる。
例えばラルフ・アルデラート。
ナタリーの誕生日会でオーウェンが飛行魔法を使ったことで、ラルフは彼の有用性に気がついたようだ。
そして、娘を使った囲い込みを始めたのだ。
「ナタリーは囲い込みのために近づいているわけじゃ、なさそうだけどな」
才能ある魔法使いを、どれだけ抱えているかが貴族社会では重要なステータスとなる。
そして、何より優秀な魔法使いは一般の兵士何十人分という戦力になる。
クリスも多くの貴族にすり寄られてきたが、全て無視してきた。
時折、強く言い寄ってくる者がいるが、それは力で黙らせることができる。
魔法至上主義のこの国では、三ツ星の発言権は大きい。
才能ある魔法使いはそれだけ貴重ということだ。他にもオーウェンの才能に気づいている者はたくさんいる。
だが、彼らに先んじて、いち早くオーウェンの才能に気づいたのはクリスだ。
クリスはカザリーナと旧知の仲である。
学園では魔法を競い合っていたライバルとも言える。
クリスは魔力制御において、カザリーナに及ばない。
最高峰の三ツ星魔法使いであるクリスに、魔法制御で敵わないと言わしめるのだ。
カザリーナの能力の高さがわかるだろう。その能力に反して、カザリーナの魔法の成績は良くなかった。
なぜなら、彼女は魔力量が圧倒的に少なかったからだ。それこそ入学すら危ぶまれるほどに。
当時の魔法の成績の判断基準は、簡単に言えば如何に強力な魔法が使えるか、だ。
もちろん他にも項目はあるが、魔力量が少ないというのは明らかなマイナス要素であった。
もし、カザリーナに魔力があれば、とんでもない魔法使いになっていただろう。
そして、魔力量の少なさから王都では良い職にありつけなかった。
「私に頼めば、いくらでも仕事を紹介してやったのにな」
しかし、ライバルのクリスからの紹介は、己の信念に反するとカザリーナは考えたようで、あっさりと断られた。
「そういうところが頑固なんだよ」
そうして、学園を卒業してからしばらく経つと、カザリーナがオーウェンの家庭教師になったと耳にした。
そこで初めて、クリスはオーウェンのことを知ったのだ。
話に聞くだけで、オーウェンが恐ろしいほどの才能の持ち主だと感じていた。
だが―――実際は予想よりも上だった。
「あれほどの高威力の魔法を1年生の段階で使えるのか……」
思い返すのは先程の模擬戦。
オーウェンが最後に放った魔法。
学園を卒業する子でも、あの威力の魔法が扱える子は少ない。
―――本当に凄まじい子が来たものだ。
さらには第三王子、ナタリー、聖女など、今年の1年は濃いメンバーが揃っている。
これはもう、普通の教師には手に負えない。
「さすがに、こいつらの指導を下手な人材には任せられない、か。学園長の言い分もよく分かる。だから、私に話が来たのだろう」
今年のAクラスのメンバーは、三ツ星魔法使いでないと教育を任せられないほどに、突出した才能が集まっているのだ。
「これは責任重大だな」
クリスは誰にともなく、そう呟いた。




